夕食の後
夕食を簡単に済ませた後、リビングのソファに座りながら、佐上カイトはザッピングを繰り返していた。新年のテレビ番組は、どれも同じように見え、画面の向こうに興味をそそられることはなかった。
本日のあらかたが終わり、時は徐々に次の日に向かっている。雪が降っていなくとも、冬らしい風が窓を叩いていた。その合間には、薄気味悪いくらいの静寂が時折広がっていた。そんな時には今日あったことがなんとなく思い浮かぶというものであり、佐上にはあまりにも印象深いその日の出来事を想起するのが自然なことであった。
立脇斎というクラスメートのこと。彼女が口にしたこと。そして、その言葉の間から読み取れる、彼女が何を見て来たのだろうかと、何が見えていたのだろうかという彼女の歴史。
ふと思い返して、もしかして今こうしているのも見られているとか、思わず手を振ってみた。が、すぐに止めた。そんなことは、彼女を馬鹿にしているようにも思い直したからだ。
――俺には計り知れないものなのだろう
それくらいしか佐上には浮かばなかった。自分には見えていないものが見える、いや見えている以上のものが見える世界は、佐上には想像も及ばなかった。そうである以上、彼には、クラスで一人席に座り静かに本を読む立脇斎の様子を、ただ漠として思い出すことしかできなかった。
が、次に思い浮かんだことは、あまりにも現実的なことであり、しかし具体的で何をするかという点においては佐上の気を楽にさせた。
「あ、年賀状」
テレビは明日の天気予報を告げていた。降雪。今寒い中、買いに行くか、あるいは降雪するかもしれない明日に出かけるのかを天秤にかけて、佐上は時計を見た。
――新年くらいは、注意されねえだろ
前者にすることにした。テレビを消し、ソファから立ち上がった。マウンテンパーカーを手に取ってから、エアコンのリモコンにある電源に触れるのを一瞬ためらったが、結局はそのままにしておくことにした。日中の帰宅とはわけが違うから。電灯も点けたままにしておいた。玄関の鍵を閉める音がやたらに大きく室内に響いた。