社務所
拝殿を背に参道から左手にある社務所へ。そこの脇に仮設小屋が設けられ、御札や御守り、熊手、絵馬などの授与所となっていた。佐上は破魔矢を一本手にすると、一人の巫女に渡した。初穂料を納め、袋に入れてもらうためだ。
佐上は目が点になっていると自覚した。巫女装束をまとっているが、見紛うはずもない。破魔矢を渡したのが意外なクラスメートだったからだ。たとえそれが入学してからの約十か月で一言ぐらいしか話したことのない女子であったとしても。立脇斎立脇斎だった。
「やあ、佐上。あけましておめでとう」
彼女は気兼ねなどまるでない風に新年の挨拶をしてきた。
「ああ、おめでとう」
「一五〇〇円をお納めください」
予想外のコミュニケーションに戸惑う佐上に、立脇は己の職務を全うする。佐上は財布から初穂料を出す。
「ありがとうございました」
「どうも……」
軽く頭を下げ、渡された破魔矢入りの袋を手にする。
思わぬ場所で、思わぬタイミングで、思わぬ人に会う。さっきの杜八千代に続いて、立脇とは。
――いやはや今年は早速お賽銭の効果か。ある意味面白いことだぞ、これは。
佐上はそんなことを思ったが、それは立脇に特別な感情を抱いているというわけではない。クラスにいる立脇の様子からは、こんなところでコスプレに興じているとは、想像はいわんや、夢想だに出来なかった。偶発的な出会いが、言霊の即効性を想起させていたのだった。
佐上はふと一度振り返って見た。立脇はまめまめしく参拝者の相手をしていた。