元日
白い息が、空一面に敷き詰められた薄灰色の雲を目指して消えていく。佐上カイトは冷えたアスファルトを、わずかばかり軽やかに、またわずかばかり重そうな足取りで、初詣へ向かっていた。
そんな相反するリズムにさせていた大元は、自宅を出立する前にあった。
元日であるこの日が、まさに年が改まるという理由だけで浮いたような心持にさせる一方で、寝過ごしたという後悔の念があったからである。ほんの気まぐれの思いつきで日の出を見ようと、大晦日は徹夜で過ごそうとした。が、意識が鮮明になった時にはすでに昼になっていた。慣れ親しんだベッドが、「まあリラックスして、日の出を待とうや。ほら、暖めてやるぞ」と、彼を勧誘した結果だった。
佐上にとっての、正月早々のハプニングはそれだけでなく、リビングに行ってみれば、テーブルの上に置手紙があった。
「海外旅行に行ってくるからね」
母からだった。そのサインの下には父親の意味不明な顔文字が書いてあった。
「普通、そういうこと、前もって言わね?」
思わずこぼれる愚痴だけが、リビングの中の音だった。年末の大掃除の時に新しくした、壁掛けの電波時計は無言で旋回していた。
――まあ、よくあることだし
一つ頭を掻いた。
そのタイミングを計っていたかのように、ポケットの中で携帯電話が震えた。
母からのメールだった。
「あ、そうそう。初詣行ったら、破魔矢をいただいて来て頂戴。忘れちゃってさ。神棚にお祀りしておいてね。じゃ、行ってきま~す」
――せめて、どこにどのくらいの期間行っているのかは……
愚痴なんていうものは、言おうと思えばいくらでも口をついてくる。が、それ以上ぶつくさ言うのは、新年の縁起の良さを相殺しかねないと思い改め、年中行事の一つとして刷り込まれていることに向かった。一室に設けられた正月仕様に飾られた神棚を拝み、仏間に行って線香を灯すということだった。
その後、お汁粉や雑煮などのお正月らしい食事を摂ることもなく、平日の朝食とまるで変わらない食パン、インスタントコーヒーを、リビングで新聞を見ながらテレビをザッピングしつつ、流し込んだ。
そこからの初詣の歩みだったのである。