濡れた魔王は臭い
別のペンネームで、某ライトノベル新人賞最終選考で落選した作品です。
ぜひ、お楽しみください。
3
次の日の放課後、郁乃は桜子と連れ立って教室を出た。
昨日の態度を「郁ちゃん、何だか様子が変だったよね」と苦笑を浮かべて彼女は、その問題は解決という感じ終わりにしてくれた。
郁乃は、ほっと胸をなで下ろす。
本当にあれは魔法のせいだったのだろう。
今日一日中、本城と桜子の様子を観察していたが、友達以上の親しさなど微塵も感じさせなかった。
それに、二人が付き合っていたっていいじゃないか。
桜子は、郁乃の彼女じゃないし(その場合は、アタシは男か?)、独占しようというほうがおかしい。
廊下、窓枠に寄りかかり、顔をうつむかせている一人の女子生徒の姿が目に入る。今どき珍しいオカッパ頭の小柄な少女、誰かを待っている様子だ。
気弱げな顔がこちらを向く。彼女の瞳が揺れる。表情が、心持ち強張った。
知り合い、だったっけ? 髪型は印象的だが、全体的に地味な雰囲気の少女のため、会ったことがあるにしても忘れている可能性もある気がする。
だが、記憶を探っても、まったく憶えがない。
彼女がこちらに歩み寄ってくる。それに気づいた桜子が「?」という顔で足を止めた。
郁乃も立ち止まる。思い詰めた様子の相手の表情に、何だか胸騒ぎがする。本当に誰だっけ? 内心、首を傾げた。
ああ――そして思い出す。
ヤクザ天使の毒島とその舎弟、それに力持に襲われた日のことだ。
事が大きくなる前に、逃げろと屋上を後にした郁乃、本城、桜子、それに悪魔たち。
階段の途中で、彼女に遭遇したのだ。
こちらの姿を目にした途端、顔を伏せたのでちょっと不審に思った。
アラストルが「臭う、臭うぞ! 召喚主がこの近くにいる!」と大騒ぎしたのだが、郁乃は「今はそれどころじゃないの!」と一蹴した。
それまでにも、何度かそういうことを言って、でも肝心のその人はいないという出来事があったため信用しなかったのだ。
前回、顔を合わせた時も陰鬱な感じの少女だとは思ったが、まるで背が縮んだような錯覚を覚えるほど、目の前に立つ彼女は萎縮した雰囲気がある。
「えーと、何か用?」
郁乃の前に立ち塞がった少女は、それっきり何も言わずにもじもじしていたので、自分から話を切り出した。
彼女は身体を震わせた。
大袈裟な、と呆れるやら、勝手に怯えられても、と困るやら、で郁乃は眉をひそめる。
「あなた、樋辻梓さんだよね?」
意外なところから、彼女の身元が判明する。
桜子が、目の前の少女のことを知っていたのだ。
唖然とした表情を樋辻は見せた。こんな表情をするのは、マンガの中の犯罪を暴かれた真犯人だけではないだろうか。
何で知ってるの? と郁乃が視線で問いかけると、
「樋辻さん、図書館によく来るでしょ。だから、憶えてたの」
桜子の発言に、ああ、そういえば、あんたって図書委員もしてたわね、と思い出す。
以前、「何で、そんなメンドクサイことするの?」と訊いたところ、「だって、誰もやりたがらないけど、必要でしょ?」というお人好しの応えが返ってきて、感心したことがあった。
「それで、樋辻さん何の用?」
郁乃は、あらためて問いかけた。相手が内気なのは、もう解ったのでなるだけ優しい声を出した。
「……とても大事な話。でも、ここじゃできない」
彼女は、勇気を振り絞ってという感じで言う。
「うーん、分かった。じゃあ、アタシの家まで来て」
本当にアラストルの召喚主か、ということも知りたいため、家に招くことにした。
家には、元破壊神、予言神、太陽神の三悪魔が揃い踏みだ。
彼らがいれば、危ないことはないだろう――というより、外よりもよほど安全といえる。
梓は、躊躇いがちにうなずいた。「わ、分かった」




