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ドラゴン少女を拾ったら

作者: ひよこ丸

昔書いた小説のリメイク短編です。

こいう話もっと読みたい(発作)


「ふう……」


 鬱蒼と茂る森の中、1人の冒険者の男が息をついた。

 名をロニという。

 年は21歳。黒い茶髪に凡庸な顔立ち、平均的な成人男性よりは少し低い身長。

 足元には彼の倒した魔物の死体が転がっている。


「これで全部かな……」


 彼は冒険者として、村の周辺に出てきた魔物を退治していた。それが、ちょうど終わったところである。

 冒険者とは、冒険者ギルドから依頼を受けて様々な仕事を行う、何でも屋のような職業だ。

 魔物退治を仕事として受けていたロニは、それを終えて一息ついたところであった。


「帝国の侵攻もひと段落ついたとは言え、流れてくる魔物が多いのは相変わらずだな……」


 冒険者ロニは、そんな事を呟いた。

 この国の北には、大きな帝国があり、広大な領土を支配していた。

 つい最近まで帝国が領土拡張戦争を行っていた最中であったが、数ヶ月前に正式に停戦したばかりだ。

 軍隊が動いていたのもあって、縄張りを追われた魔物たちが近隣の村を襲うことがあり、ロニはよくその討伐依頼を引き受けていた。


「さて、報告しに戻るか……ん?」


 剣を納めたロニが帰路につこうとすると、何かに気づいた。


「……ぐす、ひっく……」


(泣き声……子供のか……?)


 とても微かな、啜り泣きのような声がロニの耳に入ってきた。

 この森の中、子供の泣き声が聞こえてくるのは明らかにおかしい。


(村の子が迷い込んだか?)


 ロニはそう考えて、声のする方向へと向かった。

 森の茂みを掻き分け、慎重にそちらに近づく。


 すると、声の主の正体が見えてきた。


「泣かないで」

「ぅ……ぐす……」


 そこに居たのは、2人の少女だった。

 年は10歳ぐらい。

 服は薄汚れたぼろ着で、村の子供といった風ではない。

 片方の少女は金髪。もう片方の少女は銀髪の、美しい少女たちだ。


 だがいくつか、普通の子供とは違う点があった。


 一つは、頭から水晶のような美しい角が生えていること。そして服の隙間から、太い爬虫類のような尻尾が生えていること。

 金髪の方の少女には、真っ赤なルビーのような赤い角が。銀髪の方の少女には、青いサファイアのような青い角が生えていた。


 もう一つは、金属製の首輪をつけていることだ。

 この特徴的な首輪は、奴隷であることの証であり、彼女たちが奴隷の身分であることを示していた。


(角に尻尾……ドラゴニアンの奴隷か……)


 竜人(ドラゴニアン)

 半竜半人の姿を持つ、極めて珍しい種属。

 その角は宝石のように美しく、ドラゴニアンの奴隷は需要が高く、角単体でも高額で取引されるという。


「ひっ……」


 ロニが彼女たちを見つけると、少女たちは怯えた表情を見せた。

 できるだけ怯えさせないようにロニは声をかける。


「大丈夫だ、襲ったりしないよ。こんなところで、どうしたんだ?」

「あ、えっと……」


 ロニがそんな質問をすると、彼女たちは言い淀んだ。


「お、おねえちゃん……」

「だいじょうぶ……」


 銀髪の方の少女がそう呼びかけて、金髪の方の少女が彼女を抱きしめた。

 どうやら姉妹らしい。金髪の方が姉で、銀髪の方が妹のようだ。


 しばらく沈黙が続いたが、金髪の少女がはっと顔を上げて言った。


「も、もしかして、王国の人ですか?」

「王国の? まぁ、そうだけど……」


 ロニは少し躊躇ってそう答えた。

 王国の人かどうかわざわざ尋ねてきたということは、彼女たちは北の帝国からやってきたということだろう。

 ここは王国の領土、わざわざ逃げてきたのだろうか。


「え、えっと、王国に連れて行ってください、このままだと、あたしたち……」


 すがるような視線で見上げてくる、10歳ぐらいの金髪の少女。

 それに、ロニは少したじろいだ。


 話から察するに、彼女たちは帝国から逃げてきた奴隷なのだろう。

 正しい対応をするなら、帝国の奴隷は帝国に返還すべきなのだ。

 奴隷には所有者がおり、その所有者に返却するのが筋である。

 ただし不当な扱いを受けた逃亡奴隷が別の場所に逃げてくることはよくある話であり、所有者が見つからない場合など、そのままその場所で保護される可能性もある。


「詳しく話してくれないか」


 ロニは少女たちの目線の位置まで屈んで、そう話しかけた。


 少女たちは顔を見合わせて頷くと、金髪の方の少女が話し始めた。


「あたしたちは帝国生まれの、奴隷で……その……」


 少女が言い淀んだ。


「た、沢山打たれて、耐えられなくて……に、逃げてきたんです、た、助けて……」


 少女たちをよく見ると、ボロ着の隙間から生傷がちらりと見えた。

 おそらく鞭かなにかで打たれていたのだろう。このまま所有者に返せば、元の生活に逆戻りだ。

 いや、むしろ逃亡したことで、前の主人により酷い目に合わせられるだろう。


 それを聞いて彼女たちを帝国につき返せるほど、ロニも鬼ではない。


「わかった、君たちを王国の村に連れていくよ。孤児院かどこかが空いてないか聞いてみよう」


 ロニがそう言うと、少女たちはぱぁっと表情を輝かせた。

 よほど前の環境が辛かったのだろう。銀髪の方の少女は涙さえ流していた。


「よかったね、ドロシー!」

「うん、お姉ちゃん」


 喜び合う姉妹を微笑ましく見守りつつ、ロニは尋ねた。


「2人の名前を教えてもらってもいいかな」

「えっと、あたしがターニアで、こっちが妹の、ドロシーです」


 金髪の方の少女、ターニアがそう名乗る。銀髪の方の少女はドロシーというらしい。

 彼女ら姉妹を連れていくべく、ロニは立ち上がった。


「ついてきてくれ。大丈夫とは思うけど、魔物もいるからなるべく離れないようにね」

「はい!」


 ロニがそう言って、ターニアが元気よく返事をした。ドロシーはおずおずと姉の後ろにくっついている。


「じゃあ、こっちだ」


 ロニは、ターニアとドロシーの2人を連れ、村のある方へと戻った。



   ◆◆◆ ◆◆◆



「孤児院で引き取れない?」

「ええ、申し訳ありませんが……」


 村の孤児院の一室。

 ロニが声を上げると、孤児院を取り仕切っている院長の男性が、申し訳なさそうにそう返した。


「何故……? この村の孤児院は孤児を受け入れてくれないのですか?」

「帝国の侵略戦争の影響で、難民が増加しました。そのせいで、孤児も想定外に増えてしまったのです。すでに受け入れが限界状態で……」

「そんな……2人ぐらいなんとかならないんですか?」


 必死の呼びかけにも、院長は静かに首を振った。


「そもそも現時点でかなり危ういのですが、数日後に王都から新しい孤児たちがやってくる予定になっています」

「新しい孤児が……王都から?」


 ロニがそう尋ねると、院長は話を続ける。


「王都の孤児院で、抱えきれないほどの孤児を引き受けてしまって、パンクしてしまったそうなのです。それで地方の孤児院に、溢れた孤児を分散させるという事になったそうで……我々も、限界なのですよ」


 院長はどこか疲れたようにそう話す。

 話の通りなら、一番大きな王都の孤児院はパンク状態。地方の孤児院にも孤児が限界まで分散させられているということになる。

 ターニアとドロシーを引き取ってくれる場所が、ありそうにない。


「そういう訳ですので、申し訳ありませんがこのままお引き取りいただきたく……」

「……わかりました」


 何も孤児院が悪いわけではない。

 帝国の起こした侵略戦争で、多くの難民が生まれた。それが発端なのだ。

 かと言って帝国に責任を取らせることもできない。


 ロニは肩を落として帰路に着く。

 村の中に空き家を借り、そこに2人を待たせていたのだ。


「お帰りなさい!」

「お、おかえりなさい……」


 帰ってきたらロニに、ターニアが駆け寄り、ドロシーがおずおずと出迎える。

 2人の少女は傷跡の手当てをし、村人から古着を貰っている。

 こうして見ると、角と尻尾が生えているだけの、ごく普通の女の子たちだ。


「孤児院の話どうだった?」


 明るく尋ねてくるターニア。

 気が重いが、今からさっきまでの話を、2人に説明しなければならない。


「ああ、それなんだが……孤児院での引き取りは難しいみたいなんだ。どこも定員オーバーみたいで……」

「そ、そうなんだ……」


 ロニの説明に、困惑したような表情をするターニア。ドロシーも、不安げにこちらを見つめている。


 あとに残された選択肢は少ない。

 彼女たちを帝国に引き渡すこと、これは絶対にやりたくはない。

 あとは彼女たちを養ってくれる人物を探すぐらいだが、闇雲に探しても、経済的に余裕があって信頼のできる人を見つけるのは困難だろう。

 もう一つ、酷い話だが、王国の奴隷として、彼女たちを引き渡す事が考えられる。そのまま奴隷身分になってしまうが、もしかしたら良い主人に買われる可能性があるかもしれない。


 ロニは悩んで、口を開く。


「それで、だ……」


 2人の少女が、不安そうにロニを見つめる。

 ロニはしばし悩んで。

 続きを話した。


「2人がよければ、俺と暮らさないか?」




   ◆◆◆ ◆◆◆




 それから、5年の時間が経過した。


 ロニは26歳となり、村の中で暮らしていた。


「うーん……」


 時刻は朝、ベッドの中でまだうとうととしているロニ。

 そんな彼に、襲撃者が現れた。


「ロニー! 朝だよー!」


 突然ドアを開けて部屋に入ってきたのは、金髪に赤い角を生やした美少女、ターニアだ。

 あれから5年が経ち、年齢は15歳になった。

 が、15歳とは思えないほどに発育が良く、身長はロニと同じぐらい、胸元は大人顔負けの成長ぶりで、すっかり女性らしくなったターニア。

 角は10歳の頃から倍以上伸び、ドラゴニアンとしてはかなり立派な角、そして太い尻尾を生やしていた。


 しかし彼女は元気一杯の性格のままで、まだベッドにいるロニの上にのしかかった。


「朝ごはんできてるよー! 起きて起きて!」

「ターニア、部屋まで入ってこなくていいから……。というか重い、乗らないでくれ、起き上がれん……」


 それを日常のように受け入れながら、ロニはターニアをどかして身をおこす。

 ロニの見た目はほとんど変わっていない。

 身長もギリギリでターニアに抜かれてはいない程度のものだ。


「あの、兄さん、朝ごはんできてますよ……」


 そんな2人の元に、おずおずと姿を現したのは、妹のドロシーだ。

 15歳になったドロシーは、身長はロニやターニアと同じぐらいまで伸び、体つきはターニアよりは控えめなものだが、ちゃんと少女らしい体をしている。

 彼女は村娘風の衣服にエプロンを付けて、家庭的な雰囲気を出している。

 角と尻尾はターニアと同様、大きくて立派なものが生えていた。


「あぁ、ドロシー、いつもありがとう」

「い、いえいえ」


 ロニがそう返すと、ドロシーははにかんでそう言った。


「改めて、2人とも無事に成人できてよかったな……」

「えへへ〜」

「に、兄さんのおかげです」


 そんな2人の頭を撫でてやると、ターニアはぶんぶんと尻尾を振って喜び、ドロシーは顔を赤くしてそう言った。


 すっかり年頃の少女に成長した2人。

 15歳はこの国では成人を意味する。

 成人となるまで無事に成長できた。それがロニには少し誇らしい。


 2人は、5年間きちんとロニが引き取り、面倒を見た。

 村の空き家を借りて、村を主体に活動し、村人たちからの助けももらって、なんとか2人を成人まで育て上げることができた。

 なんとも、人に恵まれたものだと、ロニは感謝していた。


「とりあえず朝食にするか。ターニア、そろそれ離れてくれ」

「はーい」


 朝食の前に、何かとくっつきたがるターニアを引き剥がし、一行は台所へ向かった。


 ドロシーが作ってくれた朝食を食べるべく席に着き、そのまま朝食をいただく。


「うん、相変わらず料理うまいな。ドロシーはいいお嫁さんになるよ」

「お、お嫁さん……! なります、絶対に!」


 ロニが何気なくそう言うと、ドロシーは勢いよくそう答えた。


「ねえねえ、あたしも褒めて褒めて!」

「ん、そうだな。ターニアもいつも手伝いしててえらいえらい」

「むふー」


 構ってもらいたがり、褒めてもらいたがりなターニアが、満足げな笑みを浮かべる。

 朝食が終わると、各々が今日の仕事をするべく向かう。


「それじゃあ、気をつけてな」

「うん、孤児院にいってきまーす!」


 ターニアは、孤児院の手伝いをして給金を貰っている。

 元気一杯やんちゃ盛りのの子供達の面倒を見る大変な仕事だが、彼女は苦としていない様子だった。

 その他、とにかく体力があるので力仕事もこなしていた。


「わ、わたしも、行ってきます。これ、お弁当です。兄さんも、気をつけて」

「ああ、いつもすまないな、ドロシー」


 弁当を受け取り、お礼を言うロニ。

 ドロシーは、村の中で裁縫や料理など、細々とした手伝いをこなしていた。

 花嫁修行も兼ねているらしい。

 ドロシーが旦那に選ぶ男性は、きっと幸せ者だろうなとロニは考えていた。

 実際のところ、彼女の熱い視線は彼に向けられているのだが。


「じゃあ、仕事をしてくるか」


 ロニの仕事は、変わらず冒険者。

 様々なトラブルを解決する、何でも屋。

 ロニは冒険者として一定の地位を築き上げる事に成功していた。

 なんとか2人を養うことができるほどには稼ぐことができ、日々大きな怪我もせずに、食い繋いでいた。

 色々と支援してくれた人のいい村人たちのおかげでもあり、頭が上がらない思いだ。


 そんなありがたい村を出て、ロニは仕事へと向かった。



   ◆◆◆ ◆◆◆




「おう、来たか」


 仕事を受け、森へとやってきたロニに、冒険者仲間の魔法使いの男が出迎える。


「じゃあ仕事の手順を決めるか」


 仕事はなんてことのない魔物退治だが、村の安全のために定期的に行う必要があった。

 とはいえ大して重要な話し合いがあるわけでもなく、話が少し横道に逸れ始めた。


「しかしあの子たち、もう成人したんだってな」

「ターニアたちのことか?」

「おうよ。いいよなー、美少女2人と同居生活。嫁に困らないじゃねえの」


 仲間の魔法使いはそう言ったが、ロニは呆れたような答えた。


「あのなぁ、2人とも、俺の妹みたいなもんだ。そういう気は起こさないさ」


 ロニがそう言うと、今度は魔法使いの男が呆れたように言う。


「あんなぁ、お前にその気はなくとも、2人ともお前にべったりだぞ」

「まだ成人したてだからな。甘えたい盛りなんじゃないか?」

「はぁぁ……」

「なんだよ」


 何か言いたげにため息をついた魔法使いの仲間に、ロニは不満げに尋ねた。


 それからしばし。

 結局のところ、ターニアもドロシーも、全然結婚する素振りなど見せず、ロニにべったりくっついて日々を過ごしていた。

 時には一緒に寝たい、一緒にお風呂に入りたいなどと、行きすぎたスキンシップを要求され、却下する日もあった。


 2人の少女の、熱い視線に、なかなか気付けないまま。

 ドラゴニアンの少女たちと、冒険者ロニの日常は、平穏に続いていった。


短編ですのでこのお話はこれでお終いになります。

修作ですが、ここまで読んでくださった皆様方、ありがとうございました。

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