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シスコンはカフェラテに口をつけない

かおるが深夜アニメにハマってるっぽいんだ」

 薫とは政也まさやの妹である。ちなみに界斗かいとが彼女に会ったことは一度もない。

「確かラッキーの妹って……」

「二つ下……小六だ」

「それは、早いな」

 界斗と政也は学校からの帰り道にある駅近のカフェで二人用の対面席に腰を下ろしていた。二人は自転車通学だが、家と学校の間に駅を挟む位置関係になっているため、通学の際には二人とも自然に駅前を通ることになる。界斗の家と駅を、政也の家と駅を、そして駅と学校を線でつないで空から見てやれば、ちょうどYの字を描く。学校帰りの寄り道について、都立や公立の中学であれば固く禁じられているところが多いだろうが、二人の通う中学は私立で、校則も厳しくなく、寄り道や買い食いなど常識的な範疇はんちゅうの行動であれば特にとがめられることもなかった。

 政也は顔の前で両手を組み、沈痛な面持ちを浮かべている。学校生活ではまず間違いなく見せない表情だった。

 学校での彼はいつも飄々《ひょうひょう》としており、何の悩みもないように振舞っている。何も悩みがないというのは、彼が彼自身について何も悩んでいないという点では確かに正しいのだろう。何せ彼の悩み事は決まって妹の薫に関することなのだから。

 今回の政也は、深夜アニメに夢中の薫を心配しているようだった。

 そんな政也に対して界斗ができることは精々《せいぜい》話を聞いてやることくらいで、これまでも何度か相談(?)されたことがあるが、特に何かアドバイスができた試しはなかった。……それに正直な感想を述べると、政也の薫に関する悩みはぶっちゃけ悩みと言うほど深刻なものではないと思えてしまうのだった。

 例を挙げると、

 ――薫がバレンタインデーのチョコを手作りしたいと母に頼んでいた、

 ――薫の反応が最近やけに冷たく彼を子ども扱いしてくる、

 ――薫が塾に行きだして顔を合わせる機会が減った、

 などなど。

 もちろん、妹を愛する彼にとっては一大事に他ならないのかもしれないが……。

 界斗はブレンドコーヒーで口を湿らせる。

 政也はカフェラテを購入したものの一度も口をつけておらず、先ほどから細々と白い湯気が彼の前を漂うばかりだ。

 心底悩む政也を前にして「そんな些細ささいなこと気にするなよ」などと言えるはずもない。

 界斗は小さく息を吐き、とりあえず話だけでも聞こうと口を開く。

「ラッキーの妹が深夜アニメにハマったきっかけは?」「

「……知らねえ。この二週間で薫の部屋に次々と女の子のフィギュアが置かれるようになって、何のフィギュアなのかと思ってネットで調べたら、深夜アニメのキャラクターばかりだったんだ。きっかけがあったとすれば二週間前じゃねえかとは思うんだが……」

 薫のことになると、政也は普段と打って変わって歯切れが悪くなる。初めて彼女についての相談を受けた場所もこのカフェだったが、そのときは目の前に座る彼が別人に見えたものだ。

 今の返答を聞くに、政也自身は深夜アニメに詳しくないようで、となると、きっかけが家の中の誰かの影響を受けて、というのは考えにくい。政也の兄弟は薫だけで、仮に二人の両親が深夜アニメを観る人ならもっと前から彼女は興味を持っていただろうし、政也もそれがきっかけだと考えたに違いない。

 であれば、家の外で何か彼女が深夜アニメに興味を持つ出来事があったことになるわけだが……ん? 待てよ。

「ラッキーって、小遣いいくらもらってる?」

 突然の質問に首をかしげる政也だったが、

「二千円。それがどうしたよ?」

「だよな、中学生の僕たちでもそれくらいしかもらえない。――ラッキーの妹はどうやってそんなにたくさんのフィギュアを買ったんだ? 僕も詳しくは知らないけど、フィギュアってめちゃくちゃ値段が高いんだろ。小学生がそんなポンポンと買えるものじゃないって思うんだ」

「……そう言われりゃ、そうだな。昨日の時点で薫の部屋には十三体のフィギュアが飾られていたから、それらを二週間でそろえたってなると、ほぼ一日に一体のペースでフィギュアを買ってることになる。素人目しろうとめだがフィギュアは精巧に作られているように見えたし、とてもじゃないが薫の月千円の小遣いで買えるもんじゃなさそうだった。もし小遣いを貯めていたんだとしても、精々一体のフィギュアを買うのが限界ってところか」

 政也の妹は何らかの方法でお金を手に入れていた?

 だけど小学六年生だぞ。お金を稼ぐ方法なんてそもそもあるのか?

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