エピローグ
今年の学校生活も今日で終わり。
そんな年末の生徒会室で。
「この段ボールはどこに置けばいい」
「ああ、それは右端の一番上に重ねてもらっていい?」
一人の少年と一人の少女が大掃除に取り組んでいた。
「まさかこんなにも荷物が溜まっているなんて……。舞歌先輩、片づけ苦手だったんだ」
「……だな。俺も《生徒会室ちょっぴり散らかってるけど、よろしくね》なんて話を聞かされてはいたが、ここまでとは思わなかった」
「引継ぎ直後は忙しかったし、今日まで片づけに手が回らなかったのは仕方がないよね。……今日で終わるかな、これ」
そんな弱気モードの二人のもとに、
「ただいま戻りました!」
胡桃色の髪をした少女がやってきた。
「お帰り、ものっち」
「お帰り」
少女と少年からの迎えの言葉に嬉しそうに笑って、
「無事、今年の報告書は受領されました!」
その少女、笠根藻野花は生徒会書記としての任務完了を告げる。
「やったね!」
「お疲れさん」
二人の片づけに加わろうと思った笠根が、段ボールを片づけている少年にとてとてと近づき、
「佐久間会長、この段ボールはどこに運べばいいですか?」
振り返って、後ろの机で資料の分類に勤しんでいる少女、佐久間琴羽に尋ねる。
「ものっち、あとは私と界斗っちでやるから、気にせず帰っちゃって」
「いや、これは笠根にも手伝ってもらおうぜ。……疲れてるとこ悪いけどさ」
佐久間の意見に異を唱えた少年、古遣界斗は生徒会副会長だ。
「せんぱ~い、私のことをそんなにも頼りにしてくれてるなんて、私超感激です!」
「お、おい、べたべたするな。段ボール運べねえだろうが」
「あー、こうなるから帰ってって言ったんだけどな」
待平の一件が落ち着いてから、伊予と舞歌による「界斗を生徒会長にプロデュース大作戦」の話し合いの場が持たれたわけだが、その作戦は界斗によって却下された。当然のことながら二人からは不満の声が上がったので、界斗は代わりに「佐久間を生徒会長に推し、彼は副会長として彼女をサポートすること」を提案した。界斗が生徒会長の立候補を辞退したのは、自分よりも佐久間のほうが生徒会長に相応しいと思ったからだった。佐久間本人にその話をしたところ、「いいよ」と二つ返事で生徒会長に立候補してくれることになった。笠根はというと、副会長に界斗が立候補することを知ると、「だったら私は書記になります」と言って生徒会書記に立候補し、他の立候補者を押さえて無事当選した。ちなみに会長と副会長は他に立候補者がおらず、信任投票だった。
こうして、今の生徒会が出来上がったわけである。
「よし、笠根。お前は佐久間の代わりに書類整理だ」
「そんな~。私は先輩と一緒に作業したいです」
「あ~、界斗っちには悪いけど、この仕事はものっちには無理じゃないかな」
「む~、佐久間会長、そんなこと言って~。やってやりますよ」
「「(よし、釣られたな)」」
そんなこんなで生徒会は、まあ何とか上手く回っている。
天使と悪魔はと言えば、佐久間が開いた話し合いで無事仲直り(?)して、この世界での争いは一時休戦となった。その理由としては、界斗と笠根救出の一件で起きた、天使度の急上昇および悪魔度の急降下があった。本来は深夜零時に更新されるはずの天使度と悪魔度が目の前で急激に変化するのを目の当たりにした天使と悪魔。悪魔としては悪魔度が一気に下がった原因が分からないままで戦いを続行するのはリスクが大きいし、天使としても原因が曖昧なままで戦いを続ければ予期せぬしっぺ返しがあるかもしれないと、そういう表向きの理由から、一時休戦となった。
本当のところを言うと、あの場で天使度や悪魔度が急激に変化したのは奇跡的なことで、それこそ滅多に起きる現象ではないことくらい天使と悪魔にも分かっていた。
これはあくまでも可能性の話だが、ここ秋葉原はオタクの街。
オタクとは、この世界の常識に風穴を開ける存在。
盲目的で独善的で猪突猛進。周りに偏見を持たれようとも己の好きを貫く気高き者たち。
そんなバラバラな個性を持つ彼らが一堂に会し、同じ勝利の雄叫びに酔いしれた瞬間、それはまさしくオタクの彼らにとって絶頂期とも言える瞬間で、神のシステムすらも貫く一本の槍になっても不思議ではない――なんてことを考えるのはおかしいだろうか。
結局のところ、あのような奇跡は二度と起きないのかもしれない。
天使と悪魔が再び争いを始める日が来るのかもしれない。
だけど、そのときはまた話し合って、きちんと意見をぶつけ合って、それで決めていけばいいのだと思う。
だって、天使と悪魔が話し合うなんて、
――それだけで奇跡だと思うから。
完結しました。最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。




