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少女の通う学校へ

「早速今日からお願いできないかしら。今回は迎えだけになっちゃうけど、それは仕方ないから……はい、千円」

 そう言って佐久間の母親から千円を渡された悪魔は、二つ返事でオーケーし、今は昼前。

 部活は昼までと聞いたので、悪魔は佐久間の通う中学の校門横のへいに背中を預け、彼女が出てくるのを待っていた。

 それにしても学校という場所はおかしなところだと悪魔は思う。

 神から与えられた知識によると、年齢ごとに仕切って集団をつくらせ、その集団に同じ内容のことを学ばせるらしい。

 そもそも年齢によって仕切る意味が分からない。確かに数千年と十数年というれっきとした差がある場合は、知識や経験に圧倒的な差があるためにグループを分けるのは適当かもしれないが(「かもしれない」と断定形でないのは、最近それで痛い目を見たからである)、一年とか三年とかその程度で仕切りを作ってしまうのは細かすぎやしないだろうか。まあ、そこは数千年も生きている悪魔と百年ほどしか生きられない人間との感覚の違いかもしれないが、それでもやはり年齢ごとに分けるというのは能力のある者を「殺して」しまうことにならないだろうか。

 グループに分けるのなら、能力の高低で分けるべきではないのか。

 学校というのが色々なことを学ぶ場所だというのなら、なおさら能力のある者は相応の学ぶ機会を与えられてしかるべきだろう。でなければ彼らにとって学校で過ごす時間が無駄なものになってしまう。まあ、どうやら学校は勉学のためだけの場所ではないようなので、能力のある彼らは彼らなりに学校生活に意義を見出しているのかもしれないが。

 それに、こうして実際に学校近くまで足を運んで気になったのが、学校がやけに閉鎖的である点だ。不審者の侵入を防ぐための高い塀が学校の敷地の周りを囲んでいて中が見えないし、校門では門番ケルベロスのごとく警備員が目を光らせている。

 先ほど悪魔も校門からなんなしに敷地内へ入ろうとしたのだが、警備員に呼び止められて身元をかれ、「この学校の生徒の知り合いで」というような答えを返し、その後も色々と質問されたのだが、結局「学校関係者であることを証明するものがないから敷地内への立ち入りは禁止だ」と言われ、こうして校門の外で仕方なく佐久間が出てくるのを待っているというわけだった。

 過去の日本の歴史を踏まえると、確かに不審者が学校に侵入して生徒に危害を加えるという事件が発生しており、学校という場所がある程度外部から守られた空間として作られなければならないのは分かる。

 だが、それにしてももう少し上手くやれないものかと思ってしまう。

 高い塀で囲ったり、門番を置いたり――これではまるで見た目が牢獄ろうごくではないか。

 外部からの侵入を拒む学校と、内部からの脱出を拒む牢獄が、何とも似たような作りに落ち着くのは、興味深いといえば興味深いが……。

 そんな風なことを考えながら校門を横目に見ていると、佐久間が出てきた。同じ部活の生徒と思しき二人の女の子と肩を寄せ合うようにして歩いてくる。

「あっくん! どうしてここに?」

 彼に気づいた佐久間が、大きな目をぱちくりとさせて問う。

「もしかして琴羽ことはの彼氏?」

「めっちゃイケメンじゃん! うち超タイプなんだけど!」

 佐久間は勝手に盛り上がる二人の女子生徒に向かって、

「ち、違うってば」

「ほんと~? やけにあわててるし」

「ゲロっちゃいなよ! うちらだけの秘密にするからさ!」

 彼女たちの周りがお花畑みたいな空間になっているように見えるが、幻覚だろう。

「ごゆっくり~」

「じゃあね、また明日詳しく聞かせてね!」

 気をかせたつもりなのだろう。そのまま彼女たちは佐久間を置いて、立ち去って行った。

「……はあ、ほんとにもう、……いつも早とちりばっかりするんだから。明日は色々と大変かも……」

 佐久間は小声で可愛らしく愚痴をこぼし、肩を落とす。 

 だけどいつまでもへこんでばかりいられないと思ったのか、

「それでどうしたの、あっくん」

 佐久間の母親から送り迎えをするように頼まれたことを伝えると、

「え、送り迎え?」

 彼女は驚いた様子でそう言って、それから腕を組んで眉根まゆねを寄せる。

「うーん。確かに最近この辺りが物騒ぶっそうなのはその通りだけど、中学生にもなって送り迎えをしてもらうっていうのは、やっぱり人目が気になるし、さっきみたいに誤解されちゃうのも……。あ、別にあっくんとそういう風な関係に見られるのが嫌ってわけじゃないからね。ただその、色々とうわさが立つのはあっくんにも迷惑がかかると思って」

 これまで幾度となくうそをついてきた悪魔は、佐久間ほどではないが、ある程度経験から相手が嘘を言っているのかが分かる。あくまでも悪魔が見る限りにおいて、彼女が嘘をついているようには見えなかった。

 それに彼女の言葉を鵜呑うのみにするのもどうかとは思うが、彼女自身嘘をつかないでほしいと他人に言っていたくらいだ。自らも嘘をつかないようにしていると考えるのが妥当だろう。

 何より彼女は高い天使度を持った人間で、天使度93%というのは、嘘ばかりついていては到底辿(たど)り着けない数値だ。

 ――なんて、ごちゃごちゃと考えてしまったが、今回に限って言えば内容もさして重要なものではないし、言葉の裏を読もうとするのは無駄な行為に他ならない。悪魔は彼女の言葉をそのまま受け取ることにした。

「帰りは途中までだけど部活の子と一緒だし、まあ朝は確かに一人で登校することが多いけど……。それに学校の行き帰りだけじゃなくて他の用事のときもってなると、あっくんにかなり負担をかけることになるし……」

 しばらく佐久間はウンウンとうなっていたが、

「私から一度お母さんに相談してみるよ」

 この場では保留にすることを選んだようだ。

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