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悪魔は執事喫茶でバイト中

 界斗かいと伊予いよからそんな風に告げられていた頃、秋葉原のとある喫茶店きっさてんでは――。

「ようこそお越しくださいました、お嬢様」

 のりいた長袖ながそでの白シャツに黒のベスト、両手には白い薄手の手袋を身に着けた一人の青年が、来店した女性に声を掛けた。

 いや、彼は貸与式のカチッとした服装に身を包んでいるため一見すると大人びて見えるが、顔つきにはどこか幼さが感じられ、歳としては青年よりも中学生か高校生くらいに見えた。彼の胸には白プレート(この店、喫茶店「ベルモント」ではアルバイトであることを示す)があり、バイトをしていることから客は彼を高校生であると考えるだろう。

 確かに彼は自らの年齢を十六歳とアルバイト申込書に記入したが、実際の彼の年齢はもっと上だった。

 ――それこそ、数千年ほど、生きていた。

 この世界で、ということであれば、彼は生まれて三日目ということにはなるのだが……。

 彼は、悪魔だった。

 異世界アタンで十二の大陸を巡って天使と争い、引き分けて、そして日本の秋葉原へと飛ばされた。彼もまた天使が日本に飛ばされたことは昨夜の天使とのテレパスで聞いていたが、同じ秋葉原にいることは知らない。……彼女が今、秋葉原で着せ替え人形にされていることも、もちろん知らない。

 喫茶店「ベルモント」は女性客を主な対象にしており、執事しつじが客のために最高の一杯を提供するというコンセプトで経営が行われている。メイド喫茶の女性客バージョンと言えば分かりやすいだろうか。一部のコアなファンの間では「執事喫茶」なんて風に呼ばれているらしい。

「ご注文がお決まりになりましたら、お手元のボタンを押してお知らせください。――それでは、ごゆっくりおくつろぎくださいませ」

 女性客を席へと案内した悪魔はさわやかな笑みを浮かべて一礼すると、音もたてずに華麗かれいに立ち去った。

 アタンでは「くっくっく」と金属同士をこすり合わせたみたいな笑い声を語頭ごとうにつけていた悪魔だったが、店の従業員として相応ふさしくないことを知ったため、使用をひかえていた。

 もし彼の今の振る舞いを天使が目にしたら、開いた口がふさがらなかったに違いない。

 アタンでは五万の軍勢を率いて暴虐ぼうぎゃくの限りを尽くしてきた悪魔が、どうして礼儀正しく言葉を改めてまでアルバイトなどしているのかと言えば、それはひとえに生活費のためである。

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