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7話:深淵部を散歩する者たち

タワーの最上階よりも、更に上空。闇の広がる漆黒の世界の中をまるで足場があるかのように慣れた足取りで進む一人の青年がいた。黒い髪に薄赤色の瞳をした執事服の男。

彼は足元に広がる広大な都市を、どこか思案しながら眺めていた。


太古の神々が創造せし、生み出された大迷宮。魔の迷宮『カオス』光の迷宮『エデン』それぞれに魔王と勇者の血族が派遣され多くの犠牲を生み出してきた大迷宮。なぜ、どうして、彼ら、彼女らは迷宮攻略をしなければならないのか、なぜ太古の神々はこのような迷宮を作り出し、多くの犠牲を払わせながらも魔王を、勇者を進化させるような迷宮を作り出したのか、あの最高神すらも知らぬ理由がこの迷宮の最下層には存在するとされている。数億年の年月が経過した今でもいまだその迷宮を踏破した者はいない。かつて、勇猛果敢な英雄神がいた。神々の中でも戦闘能力に関しては史上最強とまで言われていた『武神』は太古の神々が残したこの大迷宮へ挑んだ。この迷宮は魔王や勇者が攻略を受け持っているが、神々もその参加資格を有している。挑戦する者がここ最近は一人も出ていないためその事は広く知られることはないが、最も初期の頃は神々もよくこれら2つの迷宮に挑んでいた。だが、その多くは1000階層以降で命を落とし、帰らぬ者となってしまっていた。武神と呼ばれた神もまた、数人の部下と共に1220階層で姿を消したのだ。その消失事件がきっかけとなり、神々は迷宮攻略を断念することになる。神ですら1200階層以降は攻略が困難であると知らしめた事件であった。魔王や勇者は永遠に生まれ続けるが、神々は違う。失えば多大な損失が発生するのだ。

武神を失った頃は、世界がひどくあれたものである。あの頃の事を思い出しながら青年は苦笑した。

同時にパチンっと指を鳴らし、暗闇の世界に歪みを発せいさせる。

歪の中へ青年は消え、そして場面は移り変わる。

そこは激しい戦闘が繰り広げられた痕跡の残る場所。7本の大剣が地面に突き刺さり

どれもがひび割れ、砕け、折れている。そんな中、遺跡を背にして石化している巨大な人型の何か。

かつて武神とまで呼ばれたそれは、今やただの石化した石像と化していた。青年はそれらをぼんやり

と眺めながらコツコツと、その足音を響かせる。


「圧倒的な力を持っていた神々ですら……このような有様になる」

「キッキッキ、カカカ」

 

 いつの間にか青年の肩に登ってきた黒き影のような魔物はそう声を発する。


「そうだね……このままでは我々の悲願は成就しないかもしれない」

「キキキ、カカッカ」

「君も同じ気持ちなんだね。僕もその事は思っていた。彼らには少し荒療治が必要かもしれない」

「キキキ、カカカカ」

「エクストラクエストの出現情報を流してみてはどうかって?確かにそれもいいかもしれないね。

 エクストラクエストは手っ取り早く魔王や勇者を進化させるために用意された隠し要素だしさ」

「キキキ・カカカ」

「それでもダメなら諦めようだって?本気で言ってるのかい?」

「キキキ・カカカ」

「確かに僕たちは長く待ち続けて、それでも僕たちの光になりえる者は現れなかった。

 だけどさ……僕は信じたいんだよ。あの人が作った彼らが、僕でも成し遂げられなかった

 夢を達成してくれる事をさ」

 

 ---1220層のボスが活性化しました。これよりボス戦闘を開始します。

 

 青年の脳内で響き渡る万物の声。しかし、青年はそれを気にかけることなく話を続ける。


「そういえば、君のお気に入りの彼女はあの呪いを解くことができたのかな?」

「キキキ・カカカ」

「それは残念なことだね。彼女には僕も期待してたんだけど」

「キキキ・カカカ」

「彼女なら大丈夫?周りがその方法を探している?もう少しでかいけつできそう?

 それならいいんだけどね~」

「キキキ・カカカ」


「ウゴォォォォォ」

 

 フロアーに伝わる重々しい唸り声。このエリアを支配する最古にして最強の魔竜

 その、成れの果て。黒き翼に漆黒の雷鳴をとどろかせる神をもうち滅ぼした最強の一角が

 遺跡の大地に降臨した。しかし青年は、表情一つ変えずにまるで散歩するかのような

 軽い足取りでその竜の前へ歩み出る。


「僕の邪魔をするのかい?」

「キキキ・カカカ」

「アレとじゃれつきたいの?」

「キキキ・カッカカ」

「うーん、それは少しまずいかな~だって君の力だとアレが完全に崩壊してしまうでしょ?」

「キキキ・カカカ」

「え?それは僕も同じだって?それは違うよ。僕は手加減を知っているからね」

「キキキ・・・カカカ」

「なんだよその絶対嘘だねって感じの視線は、まぁーそれも仕方ないことなのかな~

 あの頃は確かに僕も血気盛んだったというか、うん。まぁーでも今の僕はあの頃とは違うからね~

 半殺しぐらいには調整できるよ」


 そういった青年の頭上に黒き死の雷鳴が閃光とともに飛来する。無数に分散された雷の柱は青年めがけて加速した。激しい雷鳴と閃光が空間を埋め尽くしていく。だが、その雷撃は彼の姿をとらえることはできなかった。それは突如として消えさり、次に彼が姿を

表す時にはすべてが済んだ後だった。四肢を切り裂き、羽を捥ぎ取り、内蔵を損傷させ、身動きすらとれぬほどのダメージを一瞬にして与え戻ってくる青年。その衣服には一切の汚れは無く、汗一つかいていない。


「ほらね、僕にも手加減くらいできるんだよ?」

「キキキ・・・カカカ」

「フッフッフ、僕も成長してるのさ」

 

 彼らは何事もなかったかのようにして、笑いながら、再び生み出された歪へと消えていった。

 

 

 



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