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6話:トリックスター

あれから、おおよそ二十分が経過した頃。ワシらは未だに誰一人欠けること無く戦闘を継続していた。全身ボロボロになりながらも致命傷を避けながら戦い続けている。その頃になるとワシは小さな違和感に気が付き始めていた。


確かに奴らの攻撃は鋭く、強烈な物なんじゃが、最初の鎧の魔物と比べて

少し性能が低下しているように思えた。何より集団で行動しているときの

動きのキレがなんとも噛み合っていないような気がしてならなかったのじゃ。

その考えは次第に強くなっていく。更には奴らを破壊すると何やら糸のような物が

奴らの体に巻き付いていることが判明した。そしてその糸はあの赤い月の方から

垂れ下がっているように見えた。そこでワシの考えは一つの答えを導きだしたのだった。


「ゴブニ、今からあの赤い月めがけて矢を撃ってくれ」

「月にですか?」

「あぁ、そうじゃのぉー10本ぐらい打ち込めば一発ぐらいは当たるやもしれぬ」

 

ゴブニは首をかしげつつももワシの言う通りに月へめがけて矢を放ち始める。

1発、2発、3発、4発、5発、6発、7発。

7発目にして突如それは鳴り響いた。まるで何かに悶え苦しむような生物の悲鳴。

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 すると、赤い月から、黒い何かが地面に向かって落下し始める。

 同じくして周囲を今まで取り囲んでいた鎧たちが一斉に地面に倒れ伏したのである。

「ワシの予想通りじゃな。やはり操っていた者が存在したか」

 

 ゴブニは一体何が起こったのか理解できずに目をパチクリさせていた。

 ゴブイチは突然動かなくなった鎧たちを見据えて困惑の表情を浮かべている。

 長老だけが、落下してきた何かに気づき、それに対して杖を構えていた。


「ゆ、許さぬぞ!貴様ら程度がこの私に矢を向けるとは……」


 その言葉を聞いてすぐさま長老がプチファイアーを放った。


「ッホッホッホ」

「うぎゃぁぁぁぁ」

「容赦ないのぉー長老さんは」


 問答無用でまほうを行使する長老ゴブリンを見てワシは苦笑を浮かべる。

 ちょっと前にも思ったことだが、このパーティーのメンバーで一番冷酷なのは

 長老さんに違いない。森のステージでは笑顔で森を焼き払い。スライムのエリアでは「っほっほっほ」っと言いながらスライムたちを火炎の名の下に躊躇なく浄化している。頼れる魔法使いだが、恐ろしくもある。この問題はしばらく保留としよう。これから先やりすぎてトラブルに巻き込まれるようなことがあるのなら、その時は丁重に……などと内心で思っていると、黒い火炎に焼かれ続けているそれは手を突き出して攻撃をやめるように言ってきた。


「私が悪かった。謝るから打つのをやめてくれぇぇぇl」

「長老、もうよい。攻撃をやめてやるのじゃ」


 長老はどこか不服そうに、しかし、すぐに魔法の行使をやめた。


「はぁ……はぁ……な、なかなかやるじゃないか。こんな階層に来るような脆弱な魔王が、この私にダメージを与えるとは……追放された身ではあるが、神であった私を……このトリックスターである私にダメージを、良いぞ、私は決めた。お前の配下になってやろうじゃないか」


 っと、長老にいい放つトリックスターと名乗る男。そう、それは男だった。

 見た目もどこか馬鹿げている。まるでピエロのような道化のような格好をしていたからだ。


「ホッホッホ」

「何? 貴様は魔王では無い?」

「ッホッホッホ」

「そこにいる犬が魔王様だと?」

「ッホッホッホ」

「何を馬鹿な!力の総量では明らかに貴様の方が」

「ッホッホッホ」

「力が全てではない?どういうことだ?」

「ッホッホッホ」

「自分で考えて理解しろ? 貴様何様なのだ!」

「ホッホッホ」

「ただの魔王様の配下?では本当に……」

 

 ワシは驚いていた。あの長老と言葉を交わしている

 長老の言葉は前も今も全く同じ、ホッホッホである。なのにも

 関わらずあの道化はそれを理解しているようだった。


「確かに『犬』にしか見えないだろうが、ワシはこう見えても魔王なのじゃよ

 ところで、どうして長老の言っていることがわかるんじゃ?」


 道化師のような男はッフっとワシをバカにしたような目で見ながら

 呆れたように答えた。


「念話も知らぬのか?我々神々に系統する者にとっては常識だぞ」

「念話か……なるほどのぉー」


 昔聞いたことがあるな、確か東の宗教国家で使われている会話方法だったか、

 その原理は謎に包まれておるが、なぜか、同じ宗派の者たちとなら会話が成立するらしい。ワシにはさっぱりわからない原理じゃったが。まさかそれを使っていようとは、ま、その原理を知らぬのだからワシにはきっと使えないんじゃろうけど。


「そんなことよりも!どうだ?私を仲間にする気はないか?」

「お主を仲間にとな?」

「あぁ、さっきもいったとおり、私も昔は神であったのだが、とあることで神界を追放されてしまってな、今ではこの迷宮のこの階層に閉じ込められてしまったのだ」

「神様に閉じ込められるってお主、何をしたんじゃ?」

「大したことではない。厄災の箱をちょっとだけ開けてみただけなのだ。そうしたら父神が怒り出してな……あんなに怒るとは思わなかった。それから私はこの空間に5000年間閉じ込められていたというわけさ。開放の条件は、このフロアーに到達した魔王の配下になること。それ以外の方法は存在せず。神のちからも没収されている。そんな私にはこの場所でただ永遠とも思える時間を費やし、待ち続けるしかなかった。そもそもこのエリアに魔王が訪れる事はなかった。今の今までな。よく考えてみれば1階層から9階層までのすべての魔物を狩り尽くし、なおかつ1階層からスタートできるような弱き魔王がこの世界に存在するはずがないのだ。魔王とは上位種の種族だ。生まれながらにしてLV60以上が約束されている種族であり、LV1からでないと入れない1階層スタートなどあってはならない事柄なのだ。」

「それはつまり、終身刑と同じではないのかのぉ?現れるはずのない存在が開放条件なのだからのぉーそれほどその厄災の箱という物が危険な代物だったんじゃろうて」

「今思えば、父神が自ら厳重に管理しているような箱だった。面白半分で触れてはならない存在だったのだろうな」

「ふむふむ」

「私も反省しているのだよ」

「そうかそうか、たしかに反省するには十分な時間じゃったな」


 ワシならそれだけの時間を一人孤独に生きるのはつらすぎるのぉーちょっとかわいそうに思えてきたぞ。このよくわからん道化師のことが。


「あぁー本当に辛く長い時間だった。君たちも見ただろう?あの人形遊びを」

「人形遊び……あぁーあの鎧のことかの」

「そうだ。あまりにも暇すぎてな、もう4500年はあれで遊んでいたな」

「それは流石に頭がおかしくなるじゃろうて……」

「まぁーそうなのだがな、しかし、やることがなさすぎて毎週違う物語を題材にして演劇に興じていたのさ。今日は黒騎士物語という物をだな~参考にして操っていたのだ。幸い、資材は無限収納箱から取り出せるからな。そんなこんなで今日も会場にいろいろな仕込みをして一人芝居を始めようとしていた時に君たちがこの空間に到達したのだよ。それを知った時の感動は今でも忘れられない」

「なのに殺そうとしたのか?」

「殺す?あぁーあんなおもちゃで魔王たちを殺せるはずないだろう?」

「いや、ワシ、最初のほうとか軽く死にかけたんじゃが」

「……」

「死にかけたんじゃが」


 大事な事なので二度言うワシ。


「そ、それは悪かったな。こちらとしては殺す気などなかったのだ。そう、あれはじゃれ合い。軽い交流だよ」

「ふむ……」

「ところでだ、単刀直入に聞くがさっきの答えはどうなんだ?

 私を配下に加えてくれるのか?」


 ワシは一瞬思案するような表情を男に見せた。すると男は不安げな顔になる。


「まぁーワシとしては戦力が増えるのは大歓迎じゃ。長老とも話せるようじゃしな」

 男の顔はその言葉を聞いた瞬間、一瞬にして笑顔に変わる。

「い、いいのか?私は今やただの道化師となった。そこにいるゴブリンたちと強さはいい勝負だぞ?」

「強さに関しては別に期待しておらんよ。ワシはただ意思疎通をだな……」

 長老とコミュニケーションがとれるだけでも大いに役立ちそうなのである。

「た、たしかに今は弱いが、いずれ以前のちからを取り戻し、必ずやこの恩義を

 返そうと思うぞ。『犬』の魔王殿」

「あ、あぁー期待しておるぞ」

「まだ自己紹介がまだだったな。私の名はトリスタ。トリスと呼んでくれ」

「トリスか、良い名前じゃな。ワシの名前はアレル・ウォーレン

 アレルと呼んでも良いが、魔王でも良いぞ」

「私は貴殿の配下となるのだから、これから主君と呼ばせてもらおう」

「それでも構わぬ」


 こうして新たに元、トリックスターが配下に加わった。それと同時に脳内で

 万物の声が響き渡る。


---EXクエスト『愚者の牢獄』の特殊条件をクリアしました。

  すべてのクリア報酬を獲得しました。


 古き罪人の開放に成功しました。

 トリックスターの戒めの鎖が、消失しました。

 トリックスターの魔力封じの結界が消失しました。

 トリックスターはこれより道化師として配下に加わりました。

 警告=神々があなたの事に興味を持ち始めました。

 最高神よりギフトが届きました。

 

 ん、何じゃそれは……神々がワシに興味を抱いているだと?それに最高神から

 のギフトじゃと?なんじゃ?何が起こっておる?ワシは恐る恐るギフトとやらを

 開封してみた。中には小さな指輪が一つ入っており、一言こう綴られていた。


「息子が世話になる。これは息子に送ってほしい」

 

 ただ、それだけの言葉が記されており、それ以外は何も書かれていなかった。

 ワシはとりあえずそれをトリスに与えることにした。


「おぉーいトリスやい、これをつけて見てくれんかの」

「ん?それをか?いいだろう」

 

 トリスはなんの躊躇もなくそれを指へとはめたのだった。

 それが一体なんなのかワシにはわからない。ただ善意であれを最高神とやらが

 息子であるトリスに与えたとは到底思えなかった。


「ちなみにその指輪はお前さんのお父上からもらった指輪じゃ」

「なんだと!それを先に言え!こ、こんなもの恐ろしくてつけていられるか!」


 そう言って取り外そうとしたのだが、案の定それは外れなかった。


「く、なんだこの指輪はずれぬぞ!糞、くそオヤジが何か仕込みやがったな!!!」

 その日、ワシらは無事に0階層へと帰還するのであった。新たな仲間たちを引き連れて。


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