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1話:大迷宮と犬1

大迷宮カオス---零階層、共有大ホール前。


そこはまるで、城下町を連想させるほどに様々な物であふれていた。露店らしき物が立ち並ぶフロアーや飲食店が入っている建物も見えた。本当に町一つがこの広大なエリアに濃縮され詰め込まれたような感覚。見たことの無い物も多くあり謎多き建物も見える。天にまで伸びるかのような建物。現代人が見たならばそれがタワーマンションであると気づくのだが、その知識を持ったものはこの世界にはわずかにしかいない。勇者たちならばその知識を知っている者もいるだろうが、しかし、ここは大迷宮カオス。魔王たちの迷宮である。勇者の介入はなく現代日本の知識はほとんどの者たちには認識されないのであった。不運な運命でこの迷宮へ連れてこられた老人『犬』もその対象であるのだが。


「ここが迷宮カオス……なんだか、すごいのぉー」

「この空間にはおおよそ5000人近い魔王が集まっております。その配下を合わせると10万人以上の魔物や魔族たちがこの地に集まっているとされています。それらの方々に迷宮外では安心してお寛ぎいただけるようにっと、この迷宮都市は作られました。ここでの飲食や買い物に関してはすべてポイントで支払われられており、住まう住居に関してもランキングによって格付けされ、より高いランクの方々には好待遇が約束されております。ですから魔王の方々はみなさん必死でランクを上げているようですね」

「全てはポイントと実績というわけかのぉーなかなか厳しい環境のようだのぉーだが、成長し自らを高めればより良い生活が約束されているわけか。ここを作った者は人の行動原理をよく理解しているようじゃ」


人は目標があるから頑張れる。目標無きものは結局は何事もなく生を終えることになる。そして気がつくのだ。己の人生とは一体なんだったのか?っと。あのとき頑張っていれば、あのとき諦めずに突き通していれば、幾重にも重なっていく後悔が死を前にしてより強く思い出されるのだ。だからこそ先人たちは言うのだ。後悔をせぬように行動し、そして失敗せよと。仮に成功したのならそれは努力の結果であり行動した結果なのだから、それは将来人生という道の中でより多くの経験と自信を与えてくれるだろう。行動こそがすべてであり行動しないことこそが罪なのだ。もし目標を達成したのなら更に高い志を持って一段回上の目標を見出すこと、それがこの世で成功している人間たちの共通する行動原理である。そしてここでは成功という値がポイントとして表示されているという。

迷宮を攻略しポイントを稼ぎ、そして誰もが憧れる生活をおくる。そんな人物をみて目標にし更にそれを目指す者たちが増える。この迷宮を攻略することが成功への一歩なのだとこの街はこの世界に招かれた人々に訴えかけているのだ。


まぁーワシにとって財産や名誉など二の次である。

まずは魔力、次に魔力、とにかく魔力じゃ。


この世で最も魔力量に飢えている哀れな老人の目にはやはり高層ビルやにぎやかな景色などどうでも良いと思えてしまうのであった。ワシにとっての成功とは魔力量を増やすことなのだから。以前のワシも今のワシも思う物は結局は同じなのである。


魔力無き哀れな老人。この世界において魔王でありながら『犬』である最も弱き存在であるワシはこれから始まるであろう迷宮攻略にわずかばかりの不安と『進化』というパワーワードを天秤にかけ恐怖よりも期待のほうが上回るという結果に落ち着くのであった。早く進化して魔力がほしいのじゃ。


期待に膨らむ老人の背を無機質な眼差しで見ていた監視人は小さくつぶやくのである。


「面白い」


 その声は『犬』である老人に聞こえることなく街の喧騒に消えていく。


 それからまもなくして都市の中央部、巨大なモニターが置かれた大広間に到着すると監視人が一礼し、モニター横に設置されたギルドカウンターのような机が用意されている区画を指差し別れを告げてきた。


「私めの役割もこれにて完了いたしました。あとのことはあちらの受付嬢の皆様にお聞きになれば大丈夫かと、機会があればまたお会いすることもございましょう。その時はよろしくお願いいたします」


「こちらこそ丁寧に対応してくれて感謝するぞ。そういえば名前を名乗っておらんなんだな。

ワシの名前は……」


 そこで執事服の男は白い手袋をした右手を胸のあたりに載せて、首を左右に降った。


「我々に自己紹介は不要でございます」

「そ、そうか」

「それでは失礼いたします」


 すると男はまるで幻影でも見ていたかのように忽然と姿を消したのだった。

 一人取り残されたワシは頭を左右に振って指さされていたカウンターの方へ歩きだした。あの男、やはり只者ではなかった。そもそも魔王を実力行使で連行できる力があるから監視人なる者を任されているわけなのだが、それにしても恐ろしいことよ。まるで目で捉えることができなかったのじゃ。ワシはそんなことを思案しながらカウンタへーとたどり着く。


カウンターには4人のきれいなお嬢さん方が鎮座しにこやかに笑っていた。その中の一人、ブロンド色の髪をした女性に声をかけることにした。


「初めてここへ来た者だが、これからワシは何をすればよいのかのぉー?」


 中型犬であるがゆえにカウンターからはその姿が机で隠れてみえなかったようで、カウンターに座っていた女性が戸惑いの表情を浮かべている。


「これは失礼した。しかしまいったのぉーこれじゃー互いの顔すら見ることが叶わぬか。失礼を承知で上がらせてもらうことにするぞ」


 少しだけなれてきていた犬の体でワシはピョンっと飛び上がり

 カウンターの上に飛び乗ったのである。


「ワンちゃん?」


 首をかしげる一同。

 見渡すワシ。

 しばらくの沈黙のあと、自分の役割を思い出したのか受付の女性が声をかけてきた。


「これは失礼しました。えーっと貴方様は……」

「ワシはアレル・ウォーレン。こう見えて魔王らしいのじゃが」

 

 魔王というワードを聞いて受付嬢たちの間でヒソヒソと声があふれる。

 若干疑っているような視線をこちらに向けてきたのでワシは言ってやった。


「万物の声で魔王核を獲得したと聞こえていたから間違いないと思うがのぉ」

「魔王核をお持ちなのですね?それでしたら魔王印をお持ちのハズです。見せて頂いてもよろしいでしょうか?」


 魔王印……魔王印とは何じゃ? そんなものワシには……そこで少し前のことを思い出す。そういえばワシの腕に焼けるような痛みを感じたことがあったが……その時に魔王印なるものが浮かびあがったのかの?ワシはそう思い、痛みを感じた腕に目を向けてみる。するとそこには黒色の入れ墨が記されていた。というかわかりづらすぎる。皮膚がもともと黒いから入れ墨なのか皮膚なのか区別ができないほどだ。だが、文様らしきモノはかろうじて確認できた。


「これが魔王印なのかどうかは知らぬが、ホレ、見てみるがよかろうて」

 そう言って犬の前足をカウンターの女性に向けて差し出した。

 カウンターの女性は興味深そうにそれを観察し目を細めると、一度うなずいた。

「確かに魔王印ですね。それでは魔王様の迷宮登録に移りたいと思います。こちらに手をかざしていただけませんか?」


 そう言って取り出されたのは黒色の大きな水晶だった。

 ワシはその水晶に手を載せてみる。すると淡く黒い光が生まれるとすぐに消えた。


「これにて迷宮登録が完了いたしました。これから自由に迷宮への出入りが可能になります。基本的には10階層ごとにこちらに転移できる転移門は出現するようになっており、このホールに戻ることができるようになっております。ポイントを消費すれば10階層に到達しなくとも、途中帰還という処置を取ることが可能です。更にポイントを消費すれば途中帰還でリセットされるはずの踏破階層を記録し、そこからスタートすることも可能になっております」

「なるほど、なるほど」


 基本的にポイントがあれば何でもできるわけか。

 ワシはそう納得しながらも受付嬢の話を聞いていく。


「10階層ごとにエリアボスと呼ばれるボスが出現するのですが、それらのエリアではポイントでの脱出は不可能となっております。つまりボスを倒すしか帰還方法が用意されていないのです。ですので10階層の前のフロアーでは事前に多くの準備が必要になってきます。命を落としたくないのであれば、研鑽を積み上げいかなる事柄にも対処できるようにする必要がございます。毎年多くの魔王様がボス部屋で命を落とされておられますので、本当に気おつけていただきたいのです。ちなみにボスエリアの情報は現在踏破されている最高階層まで揃っております。ポイントを利用または交換にてその情報を買い取ることができるので、興味があれば獲得することをおすすめいたします。」

「うむ、わかったのじゃ」


 とにかく強い魔物がでるから自分を鍛え上げてそれに望めっと、そいうことなのだろう。逃げ場を塞いだ状態での殺し合いか、だからこそ、そのエリアの情報に価値が出てくるわけか。情報とは武器であり商品でもある。この先ワシもその情報とやらを対価と交換して手にすることもあるだろう。知っているのと知っていないのとでは作戦の幅が大きく変わってくるからのぉ。


「それでは続いてこちらに先程から見えている迷宮ランキングについてご紹介いたします。迷宮ランキングとはこの迷宮において現在保有している力の値をわかりやすくするために存在しています。誰が最強なのか、そういうのを順位として示しており、その基準となっているのが到達最高階層というわけです。自己ベストみたいなものですね。現在この迷宮において最高到達階層は1221階層。500年前に達成された記録で現在もその記録を破った者は現れていません。ランキング1位の魔王様はそれ以降迷宮へ潜ることをおやめになられ、今はあちらに見えているタワーの最上階にて過ごされております」

「500年経っても、誰もそれ以上登ったことが無いのか……」

「現在2位の魔王様ですら983階層が最高到達点となっております。現在は力を蓄えていると言われていますが、現状の戦力では984階層を超えることができないっと断言しておられました。そして3位の魔王様も950階層で階層更新をストップされ、そんな状況がもう100年近く続いているのです。そしてそれ以下のランキングの皆様は800階層や700階層で命を落とし、日々ランキング変動が起こっているのです。故に上位ランクの方々は攻略に数十年、数百年の年月をかけ、万全の備えで挑んでいるんです。上位の方々がこれほどの慎重さを持ってして挑むのですが、それでも上位者の中で死者は出てしまいます。ですのでランキングは本当に毎日変動しているのです」

「ふむふむ、上に上がれば上がるほどとんでもない魔物がいるようじゃな。それにしても1位の魔王とは一体何者じゃ?983階層で進めなくなってしまった2位の魔王を遥かに凌ぐ者でそして1221階層到達者なんじゃろ?本当に何者なんじゃ?」

「生と死の超越者。始祖なる魔王にして絶対のちからを誇る古の魔王。エドラ様でございます。レベルに関しては口外されておらず。しかし絶対の力を持っていると言われる3000年以上昔からこの迷宮におられる魔王様です」

「3000年……それはとんでもない魔王じゃのぉー。始祖なる魔王か、世の中ワシの知らん存在が数多くいるようじゃわい」


始祖なる魔王……そんな魔王でも攻略できない迷宮。

ワシ少し気持ちがブルーになっちゃうのぉー。なんてな、そもそも犬からスタートした魔王生活だ。今更悲観してどうなると言うのじゃ。ワシはその考えを払い除け犬の頭を左右に振り気持ちを振り払うのだった。


「そういえばワシのランキングはいくつなんじゃ?」


 一応聞いてみる。迷宮に入ってもいないのだから結果はわかっているが。

 一応のぉ、一応聞いてみたかったのじゃ。


「現在のランキングは5000位でございます」

「ちなみに魔王は合計何人おるんじゃ?」

「この迷宮では魔王様の上限は5000人までとなっております」

「なるほど、なるほどのぉー」


 つまりワシはドンケツのドベすけというわけじゃ。まぁー知ってたけど

 少しだけ凹んじゃうぞ。ワシ、うん。知ってたけどさ。うん、まぁーそもそもワシ犬じゃしな。


「ちなみにこちらがあなた様のステータスの数値となっています」


 そう言って前に出されたのはこと細やかなステータス表だった。

 ---種族名:犬:職業魔王:LV1:攻撃適正△魔力量○{1000}魔力操作☓素早さ○頑丈さ△

  特殊スキル:威圧:格下の相手に有効。

       :疾走:20秒間体力が続く限り限界の速さで駆け抜ける。

       :死んだふり:危ない時はこれを使おう。運が良ければ放置される。


 スキルなど眼中になかった。スキルなどどうでもいい。そうじゃ。ワシは、ワシは、ワシが求めてきた物は、それはまるで遠吠えであった。


「うぉぉぉぉぉ魔力量の適正が○になっとる!これはでかい!でかいぞ!ワシ行けるぞ!この犬の体、なんとあの頃より魔力量が多いらしいぞぉぉ。キタコレ、ワシの時代きたぞぉぉぉうぉぉぉぉぉぉ」

「アレル様?ど、どうされたのですか?」

「見てくれ!これを!」

「は、はぁ……?」


 受付嬢にみせつけるのは魔力量の評価値だ。以前はそれが☓と表記され魔力量も5とか意味わからん数値じゃった。だが、今は違う。それが1000もあるのだ。この犬頃!信じられない魔力を秘めてやがるんじゃ!。そういえばワシ、なんか魔法使える気がしてきたぞ!ふ、フフフ、アハハハ。ワシの夢が叶うぞ。これならかなってしまうぞ!!!。


「魔力量適正が○なんじゃ!これが意味することがわかるかのぉ?」


 受付嬢は首をかしげていう。


「えっと……非常に申し上げにくいのですが……こちらの数値だと他の魔王様にくらべ、かなり劣る数値かと思われるのですが」

「……他の魔王……そ、そうじゃな。確かに魔王に比べればこの数値はゴミみたいなもんじゃよな……ってあれ、ワシって犬より魔力なかったのか?あれ、ワシなんか自分で自分の地雷踏んだ感じがするんじゃが……」

「えっと、そ、それでは配下の召喚についてご説明いたしますね」

 なんかこの話題は良くないと感じ取った受付嬢が突然違う話を降ってきた。

 気遣いをしてくれるのか。ぅぅなんともできた受付嬢じゃ。少しばかり感謝しつつ彼女の話に乗ることにしたのだった。


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