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良い感じの樹。お兄ちゃんそれは世界樹です。




昼休憩を終えて今は山を歩いて進行している。

進行方向の確認は母が魔道具のアーバン王国専用コンパスで行っている。

ちなみにこの世界のコンパスは磁気で指針を示すのではなく、その国が発する特有の魔力を感知して指針を指す仕組みらしい。


私と兄のゆっくりとした歩みに合わせて両親も歩いてくれている。


「飛翔だけでは足腰が鍛えられずに軟弱になるからな。幼い時から土台はしっかり作らないといけない」と父。

そうだ前世でも幼少期から二人とも走り込みやらなんやらで鍛えられていた。

「前世では、近年の子は足腰が弱いからってすぐに電動自転車とか使ってたわよね。

そんなんじゃ、おじいちゃんおばあちゃんになった時に大変よ!」と母。

前世で子供連れでもないのに、電動自転車だと楽になるから、と購入を検討していたことは口が裂けても言えない。


そんな理由もあってか私は今、一生懸命ぽてぽてと歩いている。かれこれ40分くらい経っているか。兄はもう5才なので割と早く歩けている。

しかし、悲しいな。みんな私が歩くのが遅いからと私を一人にしないように交代制でフラフラ寄り道している。しかも皆自分に合った大きさの木の棒を片手に持っている。手持無沙汰と言いたいのか!


そんなに暇なのか!くそぅ


「う…恨めしいっ幼児ボディ」もうね、あんよ(足)がプルプルしてきちゃったよ。

「はは!そうだろうな。もうそろそろ足が疲れたんじゃないか?

その歳でここまで歩けたら上出来だ。今日は初日だしな。」

と父が軽々しく私を持ち上げる。


「あらセイちゃん。よくここまで頑張ったわね。何回も転びそうになってひやひやしたけどね。お兄ちゃんは疲れてない?」

「俺は平気。それよりセイ!あっちにいい感じの樹を見つけたんだ!寄り道になるけど行ってみないか?」


「いい感じの樹!行ってみたい!」

「二人のいい感じが何なのか分からないが行ってみるか。ここまで特に変わった事もなかったしな。」

「ええ。魔物の気配もなさそうだし。なによりあなたに近づく魔物もあまりいないしね。」


兄は母の手を引き「こっちこっち」と引っ張っていく。

父も私を抱っこして、兄についていく



「でかいっ!何年生きてるんだろう!なんか威厳を感じるっ」

驚いた。そこらの木々と比べても、圧倒的にでかい。目の前に立つと家族四人が小さく見えるほどだろう。それほど巨大。しかも山の主の様な雰囲気がある。


「だろっ!でかいし何かかっこよくないか!?」

兄もひしひしと伝わるオーラに目を輝かせている。


「これは…世界樹じゃないか?」

と父が落ちている葉っぱを見ながら異世界ワードを言い放つ。


「「世界樹っ!」」


「そうね、これは世界樹ね。

あ、でも世界樹って今はそこまで珍しいものでもないのよ?昔は数が少なくて世界樹を巡って戦争が起きたりしたのだけど、お父さんの祖先の勇者が挿し木を伝えて数を増やしたのよ。だから今は保護対象として刈ったりする事は禁じられている程度なの。

…ただ野生の世界樹でここまで大きいのは初めて見たわね。」


「世界樹ってこの感じる魔力で分かったのか?」兄が幹に触れながら言う。

「そうよ。心地いい魔力でしょう?世界樹には癒す力があるのよ。

この周辺も空気が澄んでるものね。ありがたい存在だわ」


「空気清浄機なのか。拝んでおこう。」

二礼二拍手一礼。パンパンッっと。

少し願い事も願っておく

(モチが見つかりますように、再び家族でいてくれますように)と。


「おれも何となくやっておくか。日本人のさがだ。」

隣で兄も二礼二拍手一礼。


「何かお願いした?」兄に聞くと

「安全第一とモチと早く出会えますように!ってお願いした」

兄もモチが気になっていたみたいだ。当然だよね。あと安全第一、これも大事。


「あらあら、二人ともモチのことやっぱり探してたわよね。飛んでる最中もずーっとキョロキョロしていたもの。私もモチと会いたいって拝礼しておこうかしら。」

母も二礼二拍手一礼をする。


「俺もやっておくか。ここまで大きいと何かご利益ありそうだしな。

お、そうだ。いい酒持ってたんだ。これをお供えしよう。」


といい父が空間に手を突っ込み酒を出した。


「え。空間魔法…アイテムボックス使ってんじゃん。…そりゃ勇者だもんな。逆になんで気が付かなかったんだ。」兄は驚きよりも悔しさが勝ってしまったようだ。ドンマイ


「お父さん。なんでそんな便利機能教えてくれなかったの!?しかもマジックバック使ってたしてっきり使えないんだと!私を裏切ったのねっ!」私は被害者の様に父を責める。


「いや。あれはお母さん用だぞ。俺はただ取り出す物がなかったから使わなかっただけだ!無罪だっ!」父にしては珍しく乗ってきた。


「じゃあ俺らも使えるの?!

いや。んっんん。

だ、だとしても偽った事には変わりはないっ!この落とし前…どうつけようかぁ。」


兄…最後の悪役顔よりも、冒頭の無邪気なキラッキラスマイルが何故か胸に来るっ

こんな茶番始めてしまってごめんよ…


「「「…」」」


「落ちがないならやめなさい。」


「「「グハッ」」」

(う…セイ、後で反省会な)兄がボソッと耳打ちしてきた。

グーサインで了解の合図を送る。


「まぁなんだ。やってみるか?アイテムボックスの出し方」

「うん!」「頼むっ!」私も兄も試してみたくてうずうずだ。

なんてたって某アニメのお腹の袋から取り出すイメージで出来るかどうか実証できるのだから。

父は少し待ってろ。と世界樹に取り出したお酒をお供えし、二礼二拍手一礼をする。


「よし。じゃあやってみるか。

アイテムボックスの説明だが、まず固定の亜空間をイメージすることが大事だ。

要は亜空間への入口のイメージだな。これがちぐはぐだと、毎回同じ亜空間に繋がらない。その点が注意事項だ。あと、もちろんだが生きているモノは入れることが出来ないぞ。生物の魔力に反発してしまうからな。俺らは魔力が多いからその分、亜空間の中も広くとれる。ただ大きすぎても無駄な魔力を発してしまうから適切な大きさが大事だ。」


「なるほど。イメージの固定化が大事なんだな。」

「省エネも大事だね。無駄なエネルギー使うのはもったいないもん」


「そうだ。大きさはその都度イメージで膨らませられるから大丈夫だ。まぁ魔力に限界が来たらそこまでだが…お前らは大抵の大きさなら大丈夫なはずだ。

説明はそんな感じだ。とりあえず試してみろ。まずはイメージだぞ」


「二人とも頑張りなさい。特にセイ。出来たら沢山お買い物しても大丈夫になるんだからっ」

ママン、目が真剣すぎて怖いよ。私利私欲っていうんだよそれ。


イメージしてみる。

某アニメのイメージ。ポケットを空中に出そうと試みる…

がどうもできない。


ちくしょうっ!!!


どうしても!

どうしても!考えてしまうのだ!

あのお腹側の方は一体どうなっているんだっ!と…


私はあきらめて別のイメージで試してみることにする。

そこで一番親しんでいる、がま口のイメージをしてみる。前世でがま口財布、がま口バッグを使っていたのだ。


大き目のがま口をイメージする。


すると目の前の手をかざしていた空間に、がま口の様な歪みが出来た。

そこで、かざしていた手に、がま口を開くイメージを送る。

すると歪みが開き、そこには亜空間が見えた。

亜空間の中は…なんというかギャラクシーしてる(宇宙空間になっている)。


亜空間は、何故かイメージしてしまったのが宇宙だからか、ところどころでキラキラ星が光っている。これは地球から見た夜空のまんまだ。


とりあえず何か入れてみる。

まずはその辺の石


ポンっと投げ入れると吸い込まれていった。


続いて、取り出すイメージをすると目の前の地面にコロンと転がって落ちた。


…出来た。


「おお出来たか。途中から見てたが、なかなかユニークなアイテムボックスを創ったなっ!」

父はゲラゲラ笑っている。ふん。誉め言葉として受け取っておこう。


「にしてもすぐ出来たよ!才能有りじゃないっ?」私が聞くと


「確かにな。これは本来魔力が多くないとできないとできないが、それに加えてイメージがしっかりと出来るかどうかによって変わってくるんだ。なかなかいいイメージだと思うぞ」頭をわしゃわしゃ撫でて褒めてくる。うむ。さっき笑ったことは水に流そう。(根に持ってました)


そこで兄も

「俺もできた!か…かっこいい!俺、なんかかっこよくないか!?」


兄が手の平へ石を吸い込み、そしてポーンっと地上に落とした。

どうやら兄は手のひらにアイテムボックスの入り口のイメージを創ったようだ。


「お兄ちゃんっ魔法使いって感じでイケてるよ!」

「あら、二人ともなかなか面白いイメージ力を持っているのね。これから魔法を教えるのも楽しくなりそうね」ふふふと母が嬉しそうに話している。


「しかもこんな短時間でできるのはやっぱり前世の記憶があるからだろう。

ただアイテムボックスを使えるってことは魔力も高いことを示す。つまりお前ら二人、変装してるときは特に人前で使うなよ。俺は大人になってやっと人前で使ったからな。戦闘力で負けるような力しか持たないならあっという間に捉えられて利用されてしまうからな。そこんところは二人とも気をつけろよ。」


「うん。想像通りだね。気を付ける。」

「わかった。使うときもマジックバックとかで誤魔化しながら行った方がいいね。念には念をってことで。」


「そうね。二人はいろんな意味で危険すぎるから、対策は出来る限り整えましょう。

アーバン王国でその辺も整えておきましょうか」


「そうだな。そういえば、危険ってことで思い出したんだが、そもそもセイ。お前人前で魔法使うなよ。」

「え?なんで」

「あ、教会絡み?異端ってお母さん昨日話してたよな」

兄が昨日お母さんが話していた事を思い出したようだ。


「忘れる所だったわ。あんまりにも普通に魔法使うから。

そうね。教会は力を持ってるし、お祈り無しで魔法が使える事なんて知られたら面倒ごとになる気しかしないわ。一応お父様には話しておくけど…セイ、面倒ごとはメッ!よ。異端ってことで監視でもされたら、あなたのスローライフが台無しよ!教会は元々、勇者と聖女への干渉はしないっていう取り決めに乗り気じゃないからね」


「うわぁ教会ってそういうのありそうだわ。めんどくさそう。

わかった。なるべく幼児っぽく。…何の変哲もない幼児を演じておく!」


「教会は本来ケガとかを癒す機関なんだがな。なんか最近きな臭いんだよ。

俺たち二人への勧誘も激しいしな。特にお母さんなんて、教会の権力者とかその息子から良く結婚せまられてたしな。」


「うわぁお母さん。そういうの怒りそう。」兄が腕をさすっている。


「そうよ!ほんとに当時は腹立たしかったわ。出身が姫だからって世間知らずだと思って接してきたしね!私は夢見た、社会の辛さも知らない甘ったれた人とお付き合いなんて絶対嫌だったわ!お父さんと付き合ってた時でさえ!…」

母のイライラスイッチ入っちゃったよ。


「お父さん。お父さんが回収して。」と私。

「うん。俺もお父さんに頼んだ。今のお母さん収拾がつかなそうだから」と兄。


「だよなぁ。すこし待ってろ。

…いや、自由時間だ。」


お父さんは長期戦を覚悟した。



「お父さん、お母さんが怒る話をまた無意識に話題に出したよな。あんまり変わってないな」

「相変わらずだよね。でもお母さんの事大好きそうでいいじゃん。さっきもあの顔…ぷぷぷ」


そう。お母さんを宥めようとしに行った顔が必死だったのだ。

しかも今はおいしいお菓子をあげてなだめようとしている。

お母さんの座る横に、ちょこんとでかい図体で体育座りしているのが可愛い。


「ま、そうだな。なぁセイ。ちょっとこの世界樹の周り探ってみないか?」

「そうだね。なんか気になるよねこの樹。」


という事で、私たちは世界樹の周りを歩いてみることにした。


木の根を、よいしょよいしょと登っては降りてを繰り返し世界樹の周りを歩く。


ふと。前を歩いていた兄が立ち止まる。視線が下に向いていた。


「セイ。ここに穴がある。」

「うん穴があるね…」


二人目を合わせる。


うんっと頷く


「行ってみるか。俺が先に行く。名前を読んだら入ってきて良い、の合図だ。いいな?」

「ん。わかった。お兄ちゃん気を付けてね。」


「おう。んじゃ行ってくる…「飛翔」」兄は先に魔法を使って降りていく


待つ事数十秒


「セイっ!来てみろ!大丈夫だ!」


兄から合図が来た。

私も飛翔を掛けながら、足元にライトを発動させて下に降りてゆく。


兄がふんわりと抱っこで受け止めてくれた。

地面は枯草で覆われていてフカフカだ。

その上に立ち辺りをライトで照らして見渡すと


「思った以上に広い空間だね。暗くてちょっと怖いかも。」

「俺はワクワクしてきた。セイは苦手だろうな。怖いなら手つなぐぞ」


私は前世でも今世でも本当に怖がりなのだ。心霊系の番組は音がしただけで鳥肌が立つほど嫌いだ。兄もそれを知っているのか少し心配そうだ。

頼りになる兄ちゃんだ…ぐすん


もちろんしっかり手を繋ぎました。何なら腕にしがみついています。許可があったので遠慮はしませんよ。



気を取り直して周りを確認してみると

この空間はドーム型になっている。上を見ると世界樹の幹の中心から下へ覆うように根が伸びてこの空間を作っているようだ。


「不思議な空間だ。略して不思議空間。俺さ思ったんだけど、なんか巣っぽくないか?下はフカフカしてるしドーム型だし…」

「確かに…ちょっと足元も見えるようにライト増やすね「ライト」」


空間全体にライトを飛ばし足元も見えるようにする。

暗いところじゃないなら怖くないな。安心した。


「ん``?なぁ、あそこ動いてないか?」兄が突然眉をひそめて、ある一点を見て言った。

「た、確かに…もぞもぞ動いた?あれ、でももう動いてない」

枯草で埋め尽くされている地面が少しだけ動いた。


「ちょっと見てみるか…」と兄と私、そろ~りそろ~りと近づき、動いたあたりへ移動した

特に何も見当たらないが…

「この下に何かあるのかもな。草、どけてみるぞ」


兄とゆっくりゆっくり枯草をどけて分けていく


すると、見えてきたのは白いもの。触れてみると…


「もふ?」

「もふ。だな…」


私も兄もまさかっと思い、思いっきりかき分けていくと



「「~~~~っっ!!!モチィィィィィ!!!」」


ガバっっと白いモフモフに二人で抱きつく


ふがっ!!!『なっ何ごと!?』




…世界樹の真下。愛犬モチ。発見しました。





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