調査開始です!...あれは?
今日は黒龍調査の日だ。
作戦としてはこうだ。
まず両親は勇者と聖女としてこの国、アーバン王国テイル辺境伯領の冒険者ギルドを訪れる。
その間私達はモチと共に森の先で待機。結界魔法をかけて安心安全の状態で待つ。
その後は両親が転移で飛んできて合流をし、調査開始だ。
最悪は野営で調査続行も考えているとのこと。
黒龍は魔力探知でも分からないほど、隠密能力に優れているらしく、両親でも場所の感知が困難らしい。なので地道な調査が必要だ。
「おはよう。今日は黒龍調査の日だ。
昨日話した様に、2人とモチは森で待機。
お父さんとお母さんは、この街に正式に顔を出してからそっちへ向かう。何かあったらモチに伝える様に。念話でお母さんと通じてるからな。
あ、それと昨日のご褒美。ハイヒールも一応できていたからな。」
「おおぉ!ありがとう!トリュフチョコと、あと秘密のやつ!」
「秘密のやつ!なぁ、セイ!待ってる間暇だからこれ食ってようぜ!」
『わぁ!良い香りのジャーキーだね!たっぷり!
ゴウ君!僕のもアイテムボックスに入れて置いて!』
美味しいものを貰った私達は早く森へ行ってご褒美パーティを繰り出したい。そんな顔になっているだろう。
「2人とも、少し退屈だろうけどちゃんと待ってるのよ?あぁ、心配だわ。とにかく、結界は自分自身でもしっかり張っておくのよ!モチ!随時報告よ!」
ママンは心配でならない様だ。うむ。多分大丈夫だよ。そう、多分ね。兄もこちらに目をチラチラ向けてきてる。こっち向くな。お前もやらかす可能性あるからな、と睨んでおく。
「暇だったらモチとお散歩行くもん〜大丈夫だよ〜」
「お!!いいな!久しぶりに綱引きとかもしてみような!」
『綱引き!やるやる!わーい楽しみ〜』
絶対何かやらかすわよ、と母が父に心配そうに話している。父も心配で何かないかアイテムボックスから探している。
よって、それぞれに結界石やら傷薬、水を数リットル、毛布、簡易テント、お出かけキットなどを渡された。
簡易テントと、毛布…お昼寝しちゃうではないか。
じゃあ、少し飛ぶわよ?と母が昨日マークして置いた森の位置に転移する。
父も転移で来た。
「いいな。良い子にしてるんだぞ。そう、良い子にだ。わかったな?モチ!お前にかかっている!報告だけは絶対だ!分かったな?!」
『「「ラジャー!」」』ピシッ!
「あぁ、不安だわ。できるだけ早く戻ってくるからね!じゃあ、モチちゃん頼んだわよ?」
そういい2人は転移していった。
正直、宿かバーレッド君のお宅で待機させてもらっても良かったが昨日の訓練でヘトヘトなのだ。
モチも居るし、のびのびと過ごしたかったため森で待機という形にしたのだ。
「よし!まずは菓子パーティだ!」と兄。
「ねね!前みたく、かまくらつくってヒンヤリしながら食べよう?」と提案。チョコも溶けないし最高だろう。
どうせなら良い雰囲気の落ち着いたところでパーティしよう!とモチが提案してきた。
よって今はモチの背中に乗って移動中。しっかりと母に報告済みだ。
良い雰囲気とは、何なのか。
よく分からないがモチが張り切っているのでお散歩がてら好きにさせている。
「モチ〜張り切ってるねぇ〜かわいいねぇ」
背中に乗りながらモフモフを堪能する。
その間もちゃんと結界は張る様にしている。モチの感知はかなり凄いものらしいが念には念を。
背中の上で寝転がり、移り変わる森の景色をボーッと眺める。兄も無言でボーッとしている。
車の中で景色をボーッと眺めるのと同じ感覚だ。
…
若干眠くなった頃
『ここ!清い魔力が沢山流れてるの!』
到着だ。モチのいう通り清々しい感じがする。
ここにシートを敷きかまくらを氷魔法で大きく作る。雪の様にふんわりとはまだ出来ず、氷の塊みたいになってしまったが逆に綺麗な仕上がりだ。
中に入ると肌寒い位だったので、以前買ったうさ耳のローブを羽織る。
中央に結界石を置き結界を張る。魔力がごそっと持ってかれた感じはするが、私の魔力は結構あるから大丈夫だろう。
兄がかまくらの前で焚き火をしている。
兄曰く、炎と氷の融合する景色が幻想的なんだと。
…好きにさせておこう。
「よし!準備は整ったな!セイ結界ありがとな!
じゃあ、2人とも良いな?!
…
お菓子パーティの始まりだー!!」
『「いぇーーーーーい!!!」』
こうして私達は、森で呑気にパーティを繰り出した。
「「…。」」
ーーーーーーーーーー
一方両親達の様子は。
「はぁ。行くか。早く終わらせて子供達のところに行こう。よし…行くか。」気怠げな父
「あなた、あの子達の事は内緒よ。黒龍を調査するってことを口実に早く戻るのよ、良いわね?」
そう話しながら、変身を解きアーバン王国の防壁を通る。もちろん門番は驚きのあまり固まっているが、テイル領の騎士らが対応しスムーズに入国させてくれた。
両親はそのままギルドへと向かうが、目立つ2人。
すれ違う人々は目を見開いて驚いている。
その間ギルド内では…
「おい!おいおい!聞いてくれ!
この街に勇者と聖女が来たらしいぞ!」
噂はすぐに伝わったようだ。
門を通り抜けギルドへと向かう際多くの人が伝説を目撃した。
すると…
ギィ…
ギルドの扉がゆっくりと開いた。
そこには漆黒の黒い髪、紫色の瞳の大柄な男。
そして、煌びやかなハニーレモンの髪色と空を映した蒼色の瞳を持つ美女。
ゴクリ…ギルド内の冒険者達は男の気迫、女の浮世離れした美しさに息を呑む。
「勇者殿。聖女殿。よくぞ来てくれた。
此度は黒龍の件、受けてくれて感謝する。」
元から話を合わせていたギルマスが、彼らを出迎た。
「やはり黒龍か…」所々でそんな話が聞こえてくる。彼らも想定済みの様だ。
また違った反応もある。
受付嬢は父を、冒険者の男も女も母を凝視して、頬を赤らめている。
「早く入らせて、ギルマス。」母は部屋への案内を催促させる。
「あぁ、頼む。」父は母を見て顔を赤くしていた男の冒険者をひと睨みしてギルマスに頼んだ。
部屋の中に防音、障壁結界を即座に張る。
部屋へと入るや否や…
「おい、勇者、威圧するな!殆どの冒険者腰抜けちまってたじゃないか。」呆れるギルマス。
「うるさい。少しだけじゃないか。妻の事を目に入れさせたくなかっただけだ。減る。」
「ふふふ。嬉しいわ。」
「まぁ、落ち着け。茶番はお終いだ。
取り敢えずテイル辺境伯爵が、お前らが来た事を領民に正式に発表したからこの後は囲まれると思うが、まぁ頑張れ。転移ですぐ向かった方が得策だぞ。」
「ええ、元よりそのつもりよ。
あの子達ったら森でお菓子パーティしているらしいのよ。
不安で仕方ないわ。」
ゴンゴンゴンっ!
突然ギルマスの部屋を思いっきり叩く音が鳴り響く。
「ギルマス!お話中すみません!至急お伝えすることが!」
「いいぞ入れ」とギルマス
父は結界を解く。入ってきたのはギルド職員だ。
「突然すみません!至急お話があります!
Cランクのロイドが一昨日森に入って帰ってこないとのこと。行方不明だと、彼の知り合いから先程話が入りました!
ここ出身の彼は長いこと森で冒険者をやっています。きっと何かあったのではないかと思い報告しました!」
「分かった。お前は下がって良い。他の冒険者にも探索要請かけておいてくれるか?」
一度職員を下がらせる。
「しかし…ロイドか…
きっと何かあったのかもしれん。勇者達、この件も頼めないか?
俺たちも調査はするが、魔力感知が今この地で1番優れているのはお前さん達だろう。」
「いいぞ。どんな子なんだ?」
「あーっと、灰色の髪の毛でまだ12歳の男の子だ。ここの古株なんだ。そして有望でな」
「あら、私分かるわ。前ギルドで話しかけてきてくれた子じゃないかしら?」
「あぁ、ツンデレ気味の。セイがワクワクした目で見てた子か。」
「お、思い当たるのか。じゃあ、その子の件も一緒に頼んだ。黒龍の調査が終わったら、伯爵家に行く前にギルドに寄ってくれ。
と、後これ、子供達にあげてくれ。好きだろ?」
と、チョコレートの詰め合わせを渡す。
「おお、ありがとう。アイツら喜ぶよ。
じゃ、そろそろ行くわ。」
「ギルマスありがとうね。
じゃあ、また」
ギルドを出る。
せいじょさまぁ!!!
きゃー!ゆうしゃさま〜!
外に出た途端、人が群がる。
「結界」と、父が結界を張り人々との間に距離を取る。
「すまない、今は時間がないんだ。
私達は早く行かなければいけない(子供達の元へ)出来るだけ早く(俺の心が)安心するために。」
なんて、お優しいんだ!
流石だ!勇者様!
「皆さん。私達はこれから至急、黒龍の調査に行きます。
黒龍はおとなしい性格です。
動きが活発化しているのは何かしらの異常が出ている可能性があります。不安でしょうが、なるべく早く調査結果を持ち帰る予定です。それまで少しお待ちください。
…では行ってきます。」
おおお、聖女様!
神々しい!女神!
色々な声が聞こえた。母はしっかりと領民へ説明を取る。こういう場は、母のが得意だ。
ーーーーーーーーーー
両親がこちらへ転移してくる少し前のこと。
「お兄ちゃん!チョコ!早く食べてみようよ!まずはトリュフの方から!」
「あぁ、そうだな。あ、モチはジャーキーだよな。ほれ。」
『ゴウ君ありがとぉ〜!』
「では「いっただっきま〜す!」」
オランのピールトリュフチョコ。
口溶けが滑らか。ビター味だ。だがピールの甘みと酸味が苦味を打ち消してしつこく無い味わいだ。
ほっぺたが落ちるではないか。
「つぎ…開けてみるか。マル秘って書いてあるぞ。本当に秘密チョコだな。」
パッケージには㊙︎と書かれている。この世界の字じゃないからただのマーク扱いなのだが…
開けてみる。
球体のチョコレート、特に変なところはない。
「匂いは…うん。カカオの香りが強いな。
取り敢えず食うか…」
かじってみる
「「!!!!」」
お互いを見て驚く。
口の中が緑に光っているじゃないか!
チョコの味と、中の光るもの…ミントの様な清涼感のある味が口の中でパチパチと弾ける。
手に残っってるチョコを見てみると、球体の中に緑の粒が練り込まれている。
これを口の唾液につけると
パチパチと弾けて光る仕組みだ。
「驚いた…」
「絶対面白がって渡してきたな。お父さん。
まぁ面白かったけどよ。」
『ねぇねぇ。2人とも。外に何かの気配微妙に感じない?魔力感知では分からないけど、何となく気になって…
見に行っても良い?』
「気づかなかったな…いいぞ。俺も行こう。ただ慎重にな。セイも行くか?」
「私も行く。」
かまくらの外を出る。自身に結界を纏い、結界石の及ぶ範囲外を出る。
モチに着いていく。
かまくらから数メートル離れたところ。木の上。
目が合った。
…うん?
「「龍??」」
2体の龍がそこに居た。