【電子書籍発売4周年記念】星空の刺繍
クロード様と一緒に屋敷の庭園でお茶をしていると、七歳になった娘のクローディアが周囲を伺いながらやって来た。
かくれんぼうの最中なのかしらと思い、私は声を潜めて彼女に話しかける。
「クローディア、どうしたの?」
「お母様にお願いがあるのだけど……この近くにお兄様はいない?」
「ええ、いないわ。二人でかくれんぼうをしているの?」
「いいえ、お兄様に内緒のお願いがあるの。お兄様の誕生日が近いから、贈り物を作りたくて……だから、私に刺繡を教えてください!」
刺繍は貴族女性の嗜みのため、子どもの頃から教えるものだけど、針で怪我をする懸念があるため、クローディアにはまだ教えていない。
だけど、クローディアはしっかり者だから、あらかじめ注意すれば怪我をしないように刺繍ができるだろう。
それに、学ぼうとしている気持ちや、兄への贈り物を作りたいという気持ちを大切にしたい。
「とてもいい案ね。どんな刺繍をしたいの?」
「栞に星を刺繍したいわ。お父様が昔お母様から貰った栞の話を聞いて羨ましそうにしていたから、私があげたいの!」
「まあっ、そうだったのね!」
その栞は、私が幼い頃にシルクリボンに刺繍を刺してクロード様に贈ったもので、クロード様は今も大切に持ち歩いてくれている。
子どもの頃からずっと宝物であり、お守りでもあるのだと教えてくれたときは、とても嬉しかった。
ちらりとクロード様の顔を見ると、彼の金色の瞳と視線が交わって、私たちは微笑み合う。
クロード様はジャケットの胸ポケットがある辺りを、愛おしそうに手で触れた。
いつも胸ポケットの中に私が贈った栞を入れているから、ジャケット越しに触れているのだろう。
そんなクロード様を見ていると、心をやわらかな羽でくすぐられたような感覚がして、口元がむずむずとする。
「クローディアならきっと上手に刺繍できるよ。必要な材料があれば、いつでも言ってくれ」
クロード様はそう言うと、立ち上がってクローディアを抱き上げ、彼女の頭にキスをする。
優しい眼差しでクローディアを見つめており、彼女の挑戦を応援しようとしている気持ちが伝わってきた。
「ありがとう。頑張って刺繍を練習するわ。お父様とお母様には、お揃いの刺繍を刺したハンカチを贈るわね!」
「今からとても楽しみだ。アデルの刺繍と一緒に大切に持ち運ぶよ」
嬉しそうなクロード様も、張り切っているクローディアも愛おしくて、見ていると心が癒される。
私はほのぼのとした気持ちで二人を眺めた。
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それから私は、毎日クローディアに刺繍を教えた。
クローディアは飲み込みが早いうえに丁寧だから、練習で用意した黄色の花の図案を怪我なく上手に刺したので、私やそばに控えていたリリーとジャスミンは感激して拍手する。
「とても上手よ。クローディアが初めて刺した記念すべき刺繍だから、額縁に入れて飾りましょう」
「ぜひそうしましょう! ジャスミン、商人を呼んでくるから、ここは任せますわ!」
「わかりましたわ。お嬢様の作品をより引き立てる額縁を持ってくるよう伝えてね!」
非常に乗り気なリリーとジャスミンがすぐに動いてくれたため、クローディアの作品はその日のうちに屋敷の居間に飾られた。
クロード様もアダムも刺繍を大絶賛したので、クローディアは照れくさそうに頬を染めて、嬉しそうだ。
その翌日、私とクローディアはいよいよ、アダムへの贈り物作りについて話し合った。
「アダムに贈る栞は、どんなリボンに刺繍したいかしら?」
「お父様のと同じサテンリボンで、色は……夜空のような深い青色にしたいの」
「いい色ね。一緒にお店へ行って買いましょう」
商人を屋敷に呼んで購入することもできるけれど、実際に店舗へ行った方が選べる色の幅が増えるはずだ。
私とクローディアは、クロード様やリリーとジャスミンの協力を得てアダムに内緒でリボンを購入し、密かに刺繍を進めた。
星の図案は、私がクロード様に刺したものとは少し異なっており、大きな金色の星と黄緑色がそれぞれ二つずつあり、その近くには銀色の小さなの星が散りばめられている。
夜空を再現したような、美しい栞が完成した。
「大きな星は、お母様とお父様と私とお兄様の瞳の色で刺したのよ。星座みたいに、ずっと繋がっていられますようにと祈りをこめたの」
「私たちを星座に見立てて周してくれて、とても嬉しいわ。綺麗なだけではなく、クローディアの温かな心がこもっていて、本当に素敵な刺繍ね」
兄が羨ましがっていたことがきっかけで刺繍を始めたこともそうだが、私たち一家を表した星空を刺繍で表現してくれるなんて、なんと家族想いなのだろう。
クローディアの思いやりに感激した私は、彼女をぎゅっと抱きしめて、頬にキスをした。
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アダムの誕生日の朝、私たち一家は屋敷の居間でアダムにプレゼントを贈った。
私から贈ったのは、アダムがの瞳と同じ星のような色の黄色の魔法石をあしらったブローチとカフスボタン。
魔法石には保護魔法をかけてもらっており、なにかあれば結界が展開する魔法が付与された装飾品だ。
クロード様は黄色の魔法石をあしらった、子どもでも持ちやすい短剣を贈った。
魔石は私が贈ったブローチやカフスと同じ店から取り寄せており、こちらには魔法の威力を増強するための補助魔法がかけられている。
アダムは星詠みを目指して魔法の鍛錬を積んでいるけれど、基礎体力を養うために剣術も学んでいるため、護身用に短剣を贈るということを事前にクロード様から聞いていた。
普段の外出では伯爵家で雇っている騎士の護衛をつけているけれど、もしものことが起こるかもしれないので、持ち運ぶに越したことはない。
「お父様、お母様、贈り物をありがとうございます」
アダムはそれぞれの贈り物をそっと撫でると、笑みを浮かべてくれた。
「お兄様、誕生日おめでとう」
クローディアが栞を入れた黄緑色の小箱をアダムに手渡す。
木でできたこの梱包用の小箱もまた、クローディアがアダムのことを考えながら選んだものだ。
贈り物を準備する過程を全て見守ってきたこともあり、アダムの反応をドキドキとして見守る。
「ありがとう、クローディア」
小箱を受け取り、丁寧な手つきで箱を開けたアダムが、目と口をぱかりと開いた。
両手でそっと栞を広げ、広がる星空の刺繍を見るアダムの金色瞳が星のようにキラキラと輝いて――その様子を見ただけで、彼の喜びが伝わってくる。
「これは――父上のお守りと同じ栞だ! ずっと羨ましく思っていたんだ。もしかして、クローディアがこの刺繍を刺してくれたの?」
「ええ、この栞を作るために、お母様に刺繍を教わったのよ」
アダムが喜んでくれたことが嬉しかったようで、クローディアははにかんだ笑みを浮かべながら、大きな星に込めた祈りをアダムに伝えた。
「僕たち家族を表した星……素敵な贈り物を本当にありがとう。ずっと大切にするよ。星空を切り取ったような栞で、とても綺麗だ」
アダムは何度も栞に刺繍された星をなぞると、大切そうにジャケットの胸ポケットの中にしまう。
「二人とも嬉しそうでよかった。今年もいい誕生日になったね」
クロード様は私を抱き寄せると、こっそりと耳打ちしてくれる。
「ええ、楽しい思い出が、また一つ増えましたね」
私とクロード様は寄り添って、喜ぶアダムとクローディアを見守った。
お久しぶりです。今年も遅刻してしまいましたが、電子書籍発売4周年記念のSSをお届けです!
連載時から引き続き、本作を応援くださり誠にありがとうございます。
ささやかですが、お礼としてこの先も毎年SSを投稿できましたらと思います。
アデルとクロードの幸せな日々をお楽しみいただけましたら嬉しいです!
暑い日が続きますので、お体にお気をつけてお過ごしくださいませ(*ᴗˬᴗ)⁾⁾




