【電子書籍発売1周年記念】小さなお茶会
ご無沙汰しています!
本日で電子書籍発売1周年ですので、記念のSSをお届けします(^^)
「アデル、お茶会の準備が終わったそうだよ。一緒に庭園へ行こう?」
そう言い、クロード様が手を差し伸べてくれた。
顔を上げると、星のような金色の瞳がとろりと甘い眼差しを向けてくれている。
「とても楽しみです」
「ああ、二人とも張り切って準備してくれていたからね。きっと忘れられないお茶会になるよ」
今日は私たちの子ども――息子のアダムと娘のクローディアのお茶会に招待されているのだ。
クローディアは私たちの第二子だ。アダムの三つ年下で、今年で六歳になる。
金色の髪と若草色の瞳を持ち、幼いながらも整った顔立ちをしており、メイドたちからはお人形のようだと絶賛されている。
クロード様はクローディアが幼い頃の私によく似ていると言っているけれど、私は幼い頃のクロード様によく似ていると思っている。
「今日のお茶会はクローディアの発案のようだよ。それを、アダムとリリーとジャスミンが協力して準備してくれたらしい」
「アダムは妹想いの優しい兄になってくれましたね」
クローディアはアダムに懐いており、いつも彼の後をついて歩いている。
そんな二人の姿が、義父母やアシュバートン家の使用人たちを和ませている。
「そうだね。……過保護なところが気になるけれど……」
「ふふっ、それくらいでいいんですよ」
アダムはクローディアが可愛くてしかたがないようで、勉強時間以外はいつも一緒にいる。
クローディアがアダムの後をついて来ると、アダムは幸せそうに微笑んで彼女の手を繋いでいるから、二人を見ていると幸せな気持ちになれるのだ。
話をしている間に、私たちは庭園に辿り着いた。入口にはジャスミンがいて、私たちを見つけるとにっこりと微笑む。
「旦那様、奥様、お待ちしておりました。会場にご案内しますね」
ジャスミンの案内で庭園の中を歩くと、四阿が見えた。
四阿は花と若草色のリボンで柱を飾っており、いつもとは違う雰囲気だ。
「まあ、素敵!」
「綺麗に飾り付けられているね」
可愛らしい装飾に目を奪われていると、装飾と同じ若草色のドレスに身を包んだクローディアと、お揃いの上下を着たアダムが迎えてくれた。
クローディアは一歩前に出ると、礼儀作法の先生に教わったばかりのカーテシーをしてくれる。
「お父様、お母様、お茶会にようこそ!」
「二人とも、今日は招待してくれてありがとう。とても素敵な会場だね」
クロード様は優しく微笑むと、アダムとクローディアの頭を撫でた。
「お父様が好きな色で装飾したの。リリーから聞いたわ。お父様はお母様の瞳の色が好きだから、いつも若草色のブローチやカフスボタンをつけているって」
「ああ、この世で一番好きな色だからね」
そう言い、クロード様は私に目配せする。
その目には溢れそうになるくらい「愛おしい」という想いが込められているものだから、視線が絡むと胸が軋んだ。すると、側にいたアダムがクロード様の上着の裾を少し引っ張る。
「父上……、母上を見つめるのは席に座ってからにしてください。このままだとお茶会が始まるのが夜になってしまいそうです」
今年で九歳になるアダムは幼い頃のクロード様に似て美しい少年に育った。
勤勉でしっかり者な彼は家庭教師たちから天才だと言われており、その内の一人が王立アカデミーに推薦状を送ったため、すでに入学が内定している。
「アダム、しかし……」
「父上は母上のこととなると周りが見えなくなるんですから、気をつけてください」
「……うっ、気をつけるよ」
息子に注意されてしゅんとしたクロード様が可愛らしい。
くすりと笑っていると、クローディアが私の手を引いて席まで連れて行ってくれた。
「お父様とお母様はいつ出会ったの?」
「今のクローディアぐらいの時よ。お父様がおじい様のお仕事について来たのがきっかけで出会ったの」
すると、私の隣の席に座ったクロード様が膝の上にクローディアを乗せた。
「子どもの頃のお母様も今と同じくらい素敵で優しかったよ。そんなお母様のことがとても好きになったんだ」
「じゃあ、お父様は子どもの頃からずっとお母様が大好きなの?」
「そうだよ。だから子どもの頃にお母様に求婚したんだ」
「わあっ、おとぎ話みたい!」
クローディアはきらきらと目を輝かせる。
「私もお父様のような素敵な人と会えるかな?」
「ええ、きっと会えるわ」
私がそう言うと、クロード様とアダムが揃って表情を曇らせる。
「もしかすると、クローディアに求婚する者が現れるかもしれないのか……」
「父上、求婚の話が来たらまずは僕に教えてください。クローディアに相応しい相手かどうか、きっちりと調べますから」
「ああ、頼んだよ」
父と兄が深刻そうに話しているのをよそに、クローディアはまだ見ぬ未来の婚約者に想いを馳せ、うっとりとした表情を浮かべている。
(クローディアが結婚してこの家から出て行くその時まで、楽しい思い出をたくさん作っていきたいわ)
アシュバートン家には今日も、穏やかで幸せな時間が流れている。




