もしも願いが叶うのなら
ご無沙汰しております。
七夕の番外編を思いついたのでお届けです(∩^o^)⊃━☆゜.*・。
※アダムが生まれる前のお話です
日が傾き、窓の外には薄紫色の紗がかかったような夕空が広がっている。
今日は星祭が開催される日で、王都は朝から出店が並び、いつもに増して賑わっているそうだ。
「アデル様、支度が終わりましたわ」
ジャスミンが手に持っている鏡を覗き込むと、星を模した繊細な金細工の髪飾りが頭の後ろできらりと輝いている。
「ありがとう。今日は星祭仕様の髪飾りなのね」
「ええ、旦那様が今日の為に用意していたんですよ」
「まぁ、いつの間に……」
こっそりと用意してくれた贈り物は、これで何個目なのだろうか。
クロード様は時折、さりげなく贈り物を用意してくれるのだ。
いい香りの花や、意匠が凝らされた髪飾りに、細部までこだわりのあるドレス。どれも私が好きそうな物ばかりで驚かされる。
「あらあら、さっそく旦那様が来ましたよ」
ジャスミンが言い終えない間に扉が開き、クロード様が部屋の中に入ってくる。
身支度が終わってからものの五分くらいしか経っていないように思える。
(もしかして、扉の前でずっと待っていた……?)
頭の中に過った疑惑は、クロード様の嬉しそうな笑顔を見ると瞬く間に霧散してしまった。
「アデル、今日も眩しいくらい綺麗だよ」
優しいクロード様は、いつも開口一番に褒めてくれる。その度に私は照れてしまい、顔が赤くなってしまうのだ。
両手で頬を隠していると、側に控えているリリーとジャスミンが揃って唇を尖らせた。
「旦那様ったら、いつも同じ言い回しですわ!」
「アデル様の美しさを『綺麗』だけ済ませないでくださいませ!」
「そうですわ! アデル様の為にも語彙力を増やすべきですわ!」
次々と指摘されてしまい、クロード様はたじたじだ。
「語彙力を増やそうと努力しているけれど、いざアデルを前にすると全て記憶から消えてしまうんだ」
「それなら仕方がありませんね。アデル様は日々魅力的になっていますもの。わたくしなんて、毎朝アデル様を見る度に感動して神様に感謝のお祈りを捧げていますわ」
「俺も毎朝やっているよ」
その後、クロード様とリリーとジャスミンにべた褒めされ、今度は私がたじたじになる番だった。
三人の話は一時間ほど続き、お屋敷を出る頃には外はすっかり暗くなっていた。
おかげで、真っ赤になっている顔を見られずに済んだ。
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馬車に乗り王都に着くと、街は星祭の装飾で彩られている。
宙に浮かぶ魔法灯には星の形をした飾りが入れられており、可愛らしい飾りつけだ。
「アデル、こっちへ。少し歩くから、疲れた時は教えてね」
「どこに向かうんですか?」
「とっておきの場所だよ」
クロード様のエスコートで高台に辿り着くと、そこは星空と街を一望できる場所だった。
「わあっ! こんなにも綺麗な景色が見られる場所があったんですね!」
「実は、ずっと昔に国王陛下に教えてもらったんだ」
学生時代に王都に出ると、必ず国王陛下がついて来たらしい。そして、クロード様におすすめの場所やお店を教えてくれたそうだ。
学生の頃のクロード様と一緒にお出掛けしていた国王陛下を羨ましく思う。
「せっかくだから、ここで願い事をしよう」
「そうですね。こんなにも星が近い場所なら、お願いを聞いてもらえそうです」
星祭の夜には特別な言い伝えがある。
星の絵を描いた蝋燭に火を灯し、心の中で願い事を唱えてから火を消すと、星が願いを叶えてくれると言われている。
私たちは近くにあるお店で蝋燭を購入し、それぞれ手に持った。
(どうかこれからも、クロード様が星詠みのお仕事から無事に帰ってこられますように)
心の中で願い事を唱え、蝋燭の火に息を吹きかける。
ふっと消えた跡から細い煙が立ち上り、夜空へと昇ってゆく。
「アデルは何をお願いしたの?」
「クロード様が無事にお仕事できるようお願いしました」
「俺の為に……?」
クロード様は目を見開いて驚いている。ややあって、口元を手で覆って俯いてしまった。
「クロード様、どうしたんですか?」
「ごめん……嬉し過ぎて、どうしてもだらしない顔になってしまうんだ」
そう言うと、金色の瞳をとろりとさせて微笑んでくれた。
「クロード様は何をお願いしましたか?」
「アデルと楽しい思い出をいっぱい作れるように願ったよ」
「それなら、一緒に叶えていきましょうね」
クロード様が私の事を願ってくれた事が嬉しい。
星たちが叶える前に、私が叶えてしまいたいと思う。
すると、クロード様は「もしも――」と呟き、星空を見上げた。
「星が何でも願いを叶えてくれるなら、――アデルと一緒に居られなかった時間を取り戻したいと願うつもりだよ」
「クロード様……」
「ずっとアデルの隣に居たかった。これまでに何度、カイン殿に嫉妬したかわからないくらいだよ」
幼い頃に「結婚しよう」と約束してから、ずっと私の事を想い続けてくれていたクロード様。そんな彼の深い愛情を改めて感じ、胸の奥が軋む。
私は手を伸ばしてクロード様に抱きついた。
クロード様がつけている香水の匂いが優しく包んでくれ、安心する。
ここが私の居場所なのだと、改めて実感できるのだ。
「一緒に過ごして、お出掛けをして、沢山思い出を作りましょう?」
「もちろんだ。アデルが一緒に居てくれるなら、全部幸せな思い出になるよ」
クロード様は抱きしめ返すと、私の頭にそっと口づけてくれた。
「明日は馬の遠乗りをしよう」
「軽食を持って行って、森でご飯を食べませんか?」
「いいね。リリーとジャスミンに言っておこう」
これからの予定を話し合う私たちを、夜空に居る星たちが見守ってくれていた。
電子書籍が現在販売中ですのでお手に取っていただけると嬉しいです…!
これからも本作をよろしくお願いいたします。




