【電子書籍発売記念】手を繋ぐ
本日発売を記念して、SSをお届けです!
夜の帳が下りて月が顔を覗かせると、星詠みの時間が始まる。
私とクロード様はアダムと手を繋ぎ、バルコニーに出た。すると、夜空に煌めく無数の星たちが私たちを迎えてくれる。
「アダム、とても眠そうだね」
クロード様は足元を見て微笑んだ。彼の膝には息子のアダムがしがみついており、睡魔と戦っている。
アダムはとろんとした目になっており、今にも閉じてしまいそうだ。
本来なら寝ている時間なのだから無理もない。クロード様も幼い頃は眠気と闘って星詠みの練習をしていたらしい。
「星詠みをしている間に眠ってしまってはいけないから、今日はお留守番しよう。お父さんが仕事をしている間、お母さんを守っていてくれ」
「……嫌だ。僕も星詠みする。起きていられるもん」
小さな星詠みの魔導士は、目を擦りつつ私たちに抗議する。
私とクロード様は顔を見合わせた。
星詠みの練習に積極的なのはいい事だが、星詠み中に眠ってしまうと、帰れなくなる事もあるから危険なのだ。
「星詠みの練習を休むのは悪い事ではない。休憩する事も大事だよ」
「そうよ、起きていられる時にお父さんと一緒に星詠みをしましょう」
「嫌だ。今日する」
頑なに留守番を嫌がるアダムに、私もクロード様も困り果てる。
今までこんなにも意固地になった事が無く、どのように声を掛けてあげるべきなのか、迷ってしまう。
すると、クロード様がアダムを抱き上げ、彼と目線を合わせた。
「アダム、星詠みの最中に眠ってしまうと、迷子になってしまうかもしれないんだ。お父さんとお母さんのもとに帰れないのは嫌だろう?」
「うん……でも……」
「どうしたんだい? 言ってごらん?」
クロード様の声は、頑なになっているアダムの心を包んであげているように柔らかくて。
心なしか、アダムの表情が少しずつ解れていく。
「僕も、母上と手を繋ぎたいから、星詠みする……」
「……なるほど、お母さんと手を繋ぎたいから必死だったのか。その気持ちはよくわかる。……うん、仕方が無いな」
と、二人はいささか不思議な会話をしている。
会話の行方を見守っていると、クロード様は労わるようにアダムの頭を撫で、彼の額に口付けた。
「では、三人で手を繋ごうか。それなら、アダムもお母さんと手を繋げるだろう?」
「どうやって三人で手を繋ぐの?」
「こうしよう。まず、アダムはお母さんの膝の上に座って」
アダムは私の膝の上にちょこんと座った。クロード様は私の手を取ると、掌の上にアダムの手を乗せる。そして、その上からクロード様が私の握った。
私とクロード様の手が、アダムの小さな手を包んでいる状態だ。
アダムの小さな手の熱も、クロード様の大きな手の熱も愛おしい。
掌にそっと力を籠め、二人の手を握った。
「ほら、みんな手を繋げただろう?」
「うん! お父様の手もお母様の手も温かい!」
アダムはふにゃりと嬉しそうに笑った。そんなアダムを見て、クロード様は目を細めて微笑む。
微笑み合う二人を見ていると、胸の奥に温かなものが広がっていく。この大切な人たちと一緒に過ごす日常が、今の私の宝物だ。
「アダム、お母さんをよろしく頼むよ」
「うん! 任せて!」
アダムはクロード様からお仕事を任せてもらい、誇らしげに胸を張っている。すっかり機嫌が治ったようだ。
アダムの柔らかい頬に頬を寄せていると、クロード様が床に膝を突き、私たちを真っ直ぐに見つめる。
クロード様の金色の瞳は今日も星のように輝いており、その美しさに目を奪われた。
「アデル、今夜も星詠みに付き合ってくれてありがとう。すぐに仕事を終わらせてくるね」
「どうか無事に帰ってきてくださいね」
「アデルが待ってくれているんだから、何が起こっても絶対に帰ってくるよ」
「それでは、お仕事の後にはまた三人で星を見ませんか?」
「ああ、そうしよう」
クロード様はそう言うと、そっと口づけてくれた。
温かな熱が唇を通して伝わる感覚が愛おしい。
クロード様はゆっくりと唇を離すと、目を閉じて星詠みの魔法を始めた。
程なくして、きらきらとした光の粒子に包まれ、幻想的な美しさを纏う。
そんなクロード様を見つめていると、アダムが小さな声でひっそりと、私を呼んだ。
「どうしたの?」
「あのね、僕にも星詠みをする時に手を繋いでくれる人が現れるのかなぁ?」
「大丈夫よ。きっと現れるわ」
いつか、お互いを大切に想える相手と出会えるだろう。
たとえ、私とクロード様のように長い間会えなくなる事があったとしても、いつか巡り会えるような、運命の人に。
「それまでは、お母さんがアダムの手を繋ぐわね」
「本当に?」
「ええ、大切なアダムが迷子にならないように、ずっと手を繋いでいるからね」
「よかった。一人で星詠みするのは寂しいから嫌だなって思っていたんだ」
この子は、いつか一人で星詠みをしなければならないと思い、不安になっていたのだろう。
心の底から安堵しているような笑みを浮かべている。
(そう言えば、以前クロード様が「一人の星詠みは孤独だった」と言っていた……)
星詠みをした事が無い私は、その孤独がどれほどのものなのかわからない。だからこそ、この先も二人が孤独を感じないように、私ができる事をしたい。
「大丈夫よ。絶対にアダムをひとりぼっちにはしないからね」
「うん。約束だよ――」
アダムは甘えるように私に寄りかかると、そのまま眠ってしまった。ややあって、健やかな寝息が聞こえてくる。
「――アダムにも、道標となる方が現れますように」
どのような困難が起ころうと、お互いを支え合って乗り越えられるような方と出会えるよう願う。
いつか、アダムが好いた人の話を聞かせてくれる日が楽しみだ。
「アダムもきっと、クロード様が私にしてくれたように、その方を迎えに行くような気がします。クロード様、あの日、私を迎えに来てくれて本当にありがとうございました」
あの日のクロード様は、闇夜に閉じ込められたかのように真っ暗だった私の心の中に光を灯してくれた。
二人の手を握る力を強めると、星詠み中のクロード様もまた、手を握り返してくれた。
とてもとても素敵な表紙を作成いただきました!
アデルもクロードも美人で優しそうで、見ていて癒されます。
ちなみに、アデルが着ているドレスは作中でクロードが贈ったあのドレスです!
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電子書籍では本編約二万文字分の加筆の他に、番外編を二本ご用意しております。
WEB版既読の方もお手に取っていただけますと嬉しいです!
今後とも『星詠み侯爵様が守り続けてきた約束の婚礼』の応援をよろしくお願いいたします。




