【電子書籍化記念SS】デートの約束
このたび、ミーティアノベルス様より、電子書籍として配信していただくことになりました!
このような嬉しい機会をいただけたのは、皆様がアデルとクロードを応援してくださったおかげです。
本当に本当にありがとうございます!
つきましては、電子書籍化記念のSSをお届けです。
結婚後~アダムが生まれる前のお話です。
「アデル、そろそろ休憩にしよう」
執務室で仕事をしていると、クロード様がやって来て、庭園に連れ出してくれた。
透かし彫りの椅子に腰かけると、リリーが紅茶とお菓子を持って来てくれる。
今日は薔薇の紅茶を淹れてくれた。
茶器は紅茶に合わせてくれたようで、薄紅色の薔薇の花が描かれた可愛らしい絵柄だ。
彩りが美しいフルーツタルトや、真っ白なクリームが美味しそうなショートケーキに、淡い色合いが可愛らしいマカロン。
クロード様が口に運んでくれたフルーツタルトは、とろりと甘いカスタードと、果物の酸味の組み合わせが絶妙で美味しい。
数字とにらめっこして疲れていた体に、甘いお菓子の美味しさが染み渡る。
「アデル様、毎日お仕事ばかりしていますわよ。たまにはのんびりとしなくては、お体に障りますわ」
「心配してくれてありがとう。仕事が楽しいからいいのよ」
「それでも、たまには仕事を忘れてお出かけしませんと!」
近くにいたジャスミンまでもが加勢する。
アシュバートン家の使用人たちは、私を甘やかし過ぎだと思う。
「ちょうど、人気の劇団が王都で公演しているそうですわ。旦那様と一緒に行かれてはいかがです?」
「観劇……ねぇ。ずいぶん行っていないわ」
アシュバートン家に花嫁修業に来たずっと前から、観劇には行っていない。
最後に見たのがいつであったのか、定かでないほど昔だ。
「――カイン様と一緒に観に行ったのが最後……かしら?」
「ゴホッ」
急に、クロード様がティーカップを片手に咳き込んでしまった。
手に持っている琥珀色の水面が、荒れた波のようにうねっている。
「クロード様、大丈夫ですか?!」
慌てて立ち上がり、クロード様の背中を撫でた。
「……ああ、みっともないところを見せてすまない」
背中に触れていた手を離そうとすると、クロード様に手を取られる。
いつになく焦っているような表情をしていて、見ていると、こちらまでそわそわとしてしまう。
「カイン殿と一緒に行ったのは……いつ頃だったの?」
「ずっと昔ですよ? 学生の頃に一度だけです。カイン様は演劇が苦手でしたので、それ以来行っていません」
そう答えて、はたと気付いた。
クロード様は、私たちがまだ一緒に観劇に行ったことがないのを、気にしてくれているようだ。
どうか気に病まないでほしい。
夜は星詠みが控えているから、出掛けられないのは当然だ。
星詠みはクロード様と私にとって大切なお仕事だから。
それに、私は星詠みの時間が好きだから、外に出掛けられなくても残念に思ったことは無い。
むしろ、クロード様と二人きりで過ごせるあの時間が好きだ。
「――よし、休暇をもらおう」
「え?」
「まる一日休暇にして、一緒に劇場に行ったり、レストランで食事をしたりして、気分転換しよう。アデルを一日中、独り占めさせてくれるかい?」
「い、いいのですか?」
クロード様は、よほど重要なパーティーがある時を除いて、毎日欠かさず星詠みをしている。
それなのに、私と出掛けるためだけに休暇をもらうことなんて……できるのだろうか。
「大切なお仕事の邪魔をするわけにはいきませんから、大丈夫ですよ」
「いや、俺がどうしてもアデルと一緒に観劇したいんだ」
「クロード様……」
どうしよう。
私の余計な一言のせいで、クロード様に迷惑をかけてしまいそうだ。
「いいんですよ。どうか、ご主人様と一緒に気分転換してきてくださいませ」
戸惑っていると、リリーが宥めてくれる。
「それに、旦那様はカインさんに妬いているから、どうしても奥様と一緒に観劇に行きたいんですよ。――そうですよね?」
「ああ、その通りだよ」
クロード様は金色の瞳を優しく眇めた。
「アデルがカイン殿の事を忘れるくらい、俺との思い出を沢山作りたい。俺の我儘、叶えてくれるかな?」
「……っは、はい! クロード様のお願いは、絶対に叶えたいので……!」
我儘なんて言っているけれど、ちっともそのようには思えない。
私も、クロード様ともっと一緒にいて、思い出を沢山作りたいから。
クロード様が一緒に居たいと望んでくれるのが、何よりも嬉しい。
「どうしよう……。幸せ過ぎる」
クロード様はそう言うと、私の額にそっと口付けてくれた。
その数日後、クロード様は無事に休暇を貰って、一緒に出掛けてくれた。
クロード様の話によると、同僚たちが「是非一緒に出掛けてきなさい!」と後押ししてくれたらしい。
伴侶を大切にする星詠みたちにとって、伴侶と一緒に過ごす時間は、仕事よりも大切なのだという。
おかげで、私とクロード様は時々、星詠みを休んでデートや旅行に行くことができるようになった。
「――アデル、次はどこに行きたい?」
「そうですね……次は、クロード様が行ってみたい場所にしませんか?」
今では、次のお出掛けの約束をするのが楽しみになっている。
詳細につきましては、活動報告やTwitterにてお知らせいたします。
二万文字の書き下ろしや番外編がございますので、更にお話をお楽しみいただけるかと思います!
これからも、アデルとクロードをよろしくお願いいたします。




