27.道標
「クーストース、星のあなたがなぜ真昼の地上にいるのですか?」
「アデルを助けに来た。クロードが魔法でその栞と私を繋げていてね。アデルに何かあれば私が駆けつけられるようにしていたのさ」
クーストースはしっぽをふりふりと大きく動かしてこちらを見上げており、まるで本物の犬が褒められているのを待っているかのような姿は愛らしい。
ついつい撫でてしまいそうになるのを、どうにか堪えた。相手は敬うべき夜空のお星様だから。
「アデルは私にとって古い友人のようなものさ。クロードが幼いころからずっと、その栞に込められているアデルの魔力を連れて来ていたからね。だから私はお前たちを助けるためにここに来た。小説とやらに出て来た私のように、粋なことをしてみるのも愉しいかと思ってな」
「魔力、ですか。私は魔法を使えませんよ?」
「魔力と呼ぶべきか祝福と呼ぶべきか。いずれにせよ、クロードを思いやる気持ちが奇跡の力を伴っていたのだ。アデルは幼いころからクロードの道標になっていたのだよ」
そう話すクーストースは、何かを懐かしむように目を細めて私を見た。遠い昔の記憶を辿っているような、そんな眼差しだ。
クーストースが言うには、クロード様はよく私の話をクーストースに聞かせていたらしい。
幼い頃には一緒に遊んでいた時のことを。大人になってからは、私を見かけた時の事や、私についての噂を聞いてはクーストースに話していたようだ。
私が知らなかっただけで、クロード様はずっと私のことを気にかけてくれていたのだと、改めて思い知らされる。
「それに、クロードはアデルと一緒になることを強く願っていた。アデルがずっと笑顔でいられるように傍にいたのだと」
「っ私はすぐに約束を破ってしまっていたのに……」
「クロードはどのような事態が起ころうとアデルと交わした約束を守り抜きたいのだろう。それほど、アデルを大切に想っているんだ」
たとえ約束を破られてしまっても、疎遠になったとしても、それが私との唯一の絆であるから守り続けているのだと、クーストースに話したらしい。
そしてクーストースは苦笑した。星詠みという生き物は恐ろしいほど愛情深くて一途で、「呆れてしまう」と零して。
「アデル、お前の願いを一つだけ叶えてやろう。こうして地上で出会えたのも何かの縁だからな。私の力を使えばあの偽者たちを消し去ることもできるし、お前に魔力をくれてやることもできる。さあ、どうする?」
「それでは、クロード様を助けられるよう手を貸してください」
「お前を騙していた人間に復讐しなくていいのか?」
「ええ、クロード様の命が助かればそれでいいんです」
クロード様が無事ならそれでいい。お父様やお母様を閉じ込めフィリスを攫った偽者たちは確かに許せないのだけれど、今はクロード様を失うことがただただ恐ろしいのだ。
私の答えにクーストースはニヤリと口元を歪めた。
「なるほど。お前は今も昔も、クロードが愛している通りの人間なのだな」
そう言い終えるや否や、急に私たちの目の前に星屑を散りばめたような輝く道が現れた。枝分かれはしていない、綺麗な一本道だ。
「クロードの魔力を辿ってできた道だ。行くぞ」
私たちはクーストースに続いて森の中を進む。深い森の中は道標がないとどこにいるのか全くわからず、迷ってしまいそうだ。
しばらく歩いていると、微かだが人の声が聞こえてきた。
声がする方に歩みを進めるとその声は鮮明になる。クロード様とカイン様の声だ。
近づくと二人の姿が見えたのだけれど、二人とも対峙するように向き合っていて、その眼差しは鋭い。
「クロード様!」
名前を呼ぶとクロード様は私を見て、安堵の表情を浮かべた。
はやる気持ちのまま駆け出してクロード様の元に行こうとしたその時、ぐにゃりと空間が歪む。魔法で空間を歪められたようだ。
その歪みの中から、偽者のお父様とお母様、そしてクレアが現れた。




