26.再会
今日はちょうど七夕ですね!
みなさんの願い事が叶いますように!
私を閉じ込めた少女が塔から遠ざかっていく。
何度呼び止めても少女は歩みを止めてくれず、やがて森の中に消えてしまった。絶望のあまり涙と嗚咽が止まらず蹲っていると、塔の上の方から声が聞こえてくる。
「――お嬢様?」
それはフィリスの声で、塔の階段を駆け上がった先にある牢屋の中にフィリスの姿があった。
「フィリス! あなたもここに連れてこられたのね」
「ええ、夜に廊下を歩いていると眠らされてしまい、気づけばここに閉じ込められていたのです。偽者の旦那様と奥様の使い魔たちが見張りをしていたのですが、奴らの口からお嬢様とセルヴィッジ侯爵をこの森におびき寄せると聞いて、生きた心地がしませんでした」
フィリスははらはらと涙を零しながら「ご無事でよかったです」と言ってくれたけど、クロード様の身が危険に晒されているこの状況で、私は何も言葉を返せない。
「お嬢様、驚かずに聞いてください。この塔の中に本物の旦那様と奥様がいらっしゃるのです」
「ええ、私もその話を聞いたわ。助けに行きましょう」
私とフィリスは階段を上がった。その先に本物の両親がいると思うと、心臓がどくどくと早く脈打つ。
仄暗い螺旋階段を抜けた先には檻が二つあり、その中には痩せ細った男女が居る。
彼らの相貌はまさしくこれまで見てきたお父様とお母様と同じで、しかしどちらもひどく弱っていて身につけている衣服はボロボロだ。
そんな二人を見ると今までどのような扱いを受けてきたのかは想像に易く。
二人がどんな気持ちで過ごしてきたのだろうかと、そう考えれば考えるほど、気づけなかった自分を呪いたくなる。
私とフィリスは壁にかけられていた鍵で檻の扉を開けて二人を外に出した。
「……」
「……」
私とお父様とお母様は長い間、お互いに見つめ合った。やがてお父様が重々しく口を開き沈黙を破る。
「ジゼルの若かりし頃と瓜二つのその容姿……君はアデル、なのか?」
「……っはい」
するとお父様もお母様も顔をくしゃりとさせて涙をこぼした。嗚咽を漏らし、両側から私を抱きしめてくれる。
「すっかり、大きくなったな。お前だけは無事でいてくれと、毎日祈っていたよ」
「お父様、ごめんなさい」
たとえどのような状況に置かれても私のことを心配してくれていた二人には、本当に申し訳なく思う。
私は今まで、自分の近くにいる人たちが偽物と気づかずに生きてきていたのだから。
「ずっと気づけなくてごめんなさい」
「いいんだよ、アデル。むしろ物心ついた頃から近くにいた偽物に気づくのなんて、不可能なのだから。私たちのたった一人の娘が無事で、本当によかった」
私に微笑みと優しい言葉をかけてくれる”お父様”を見るのはこれが初めてで。温もりの灯る眼差しはまさしく父親のものだとわかった。
その眼差しを受けると、嬉しいのと同時にどうしようもない不安に駆られてしまう。
ああ、やはり。あの少女はクレアで、私の妹ではなくて、そして彼女が言っていることは本当なのだと、そう思わざるを得ないから。
クロード様が命を狙われているということもまた事実なのだ、と。
「どうしよう。クロード様の命が危ないのに、どうすることもできないわ」
みんなで塔の一階部分に戻って来てみたけれど、扉を押しても蹴ってもどうにもならなくて。窓から外に出ようにも鉄格子がつけられていて出られない。
真実を知らされないまま森の入り口で私を待っているクロード様のことを思うと、恐怖のあまり体が震えてしまう。
いくらクロード様が魔導士とは言え、複数人を相手にするのは困難だ。それに、不意打ちならなおさら対処するのは難しいはず。
最悪の事態ばかりが頭に浮かんでしまい、視界が涙で滲む。
今すぐクロード様の元に行って助けたいのに、どうにかこの危機を知らせたいのに、私はその術を持っていないのが悔しくて仕方がないのだ。
「クロード様、どうか逃げてください」
私はクロード様に託された栞をポケットから取り出して祈る。私を守るために預けてくれたそれの魔法がクロード様を助けてくれたらいいのにと、願いを込めて。
ぎゅっと栞を握りしめたその瞬間、栞に光が宿り、刺繍で施された星が栞から離れて窓の外へと出て行ってしまった。
「何が起きたのかしら?」
目を凝らして窓の外に広がる空を眺めていたその時、ガチャリと音がして扉の鍵が開いた。
「私が扉を開けてみるから、お前たちは扉から離れていなさい」
お父様はそう言うと扉に手をかける。
みんなが固唾を飲んで見守る中、扉は軽々と開いて。
「――犬?」
扉が開いたその先には人の姿がなく、その代わりに一匹の真っ白な犬が居るではないか。
おまけにその白い犬は仄かに光を纏っており、神聖な気配を醸し出している。利発そうな目には人知を超えた力が宿っているようで、思わず跪いて礼をとりたくなるような感情さえ呼び寄せられた。
まるで、サイラス・オールストンの小説に出て来たとある犬を彷彿とさせるような出で立ちで。
「もしかしてあなた、クーストースなの?」
戯れに問いかけてみると、白い犬はニヤリと口元を歪めた。それはなんとも人間らしい表情で。
「ああ、そうだ。クロードが教えてくれた小説の通り、犬に姿を変えて助けに来てやったぞ」
さらに驚くことに、人の言葉を口にした。




