20.あなたが私の代わりに怒ってくれるから
「アデル、遅くなってすまない。星たちの力を借りないと、この場所に辿り着けなかったんだ」
クロード様が指を向ける先には先ほどの光の粒が浮かんでいて、私たちの周りをくるくると回ると、そのまま空へと消えていった。
頭上に広がるのは良く晴れた青空で星の姿は全く見えず、思わず首を傾げてしまう。
「どうやって星たちに話しかけたんですか?」
「いつも通りにだよ。前に彼らが言っていたんだ。昼間の明るい空からも俺たちのことがよく見えるらしい」
「星には何も隠し事ができませんね」
「そうだね」
優しい微笑みを見せてくれたクロード様は、そのままそっと私の目尻を拭う。いつの間にか涙が出ていたようで、涙の痕を辿るように頬を撫でてくれた。
そんなクロード様の手が温かくて大きくて、触れられているとホッとする。
「クロード、まずはこの罪人を捕らえてからアデル嬢といちゃついてくれ」
国王陛下が溜息交じりで現れると、クロード様は「それは俺の仕事じゃないです」と言ってそっぽを向いた。
いくら国王陛下と仲が良くても、そのように言っては不敬なのでは、と心配していたけれど、陛下はただ楽しそうに笑うだけで咎めることはなく。
代わりに、私の護衛をしてくれていた騎士に命令してカイン様を捕らえた。
「ここまでだ、ハウエルズ侯爵。どう動くのかと思って様子を見ていたら、魔術が使えないアデル嬢をこのような空間に閉じ込めて自分のものにしようとしていたとは、実に見苦しい」
「……様子を見ていた?」
クロード様の手に微かな力が入り、見上げるとクロード様は国王陛下を睨みつけている。
「っ陛下! ハウエルズ卿を泳がせるためにアデルを利用したんですか?!」
「そうだ。アデル嬢を狙っているならアデル嬢に囮になってもらった方がすぐに尻尾を出すと判断した」
「アデルに何かあったらどうするつもりだったんですか?!」
「そう怒るな。何も起こらないようにこうして俺も出て来たんじゃないか」
クロード様が声を荒げるのを見るのは初めてで、そうなるほど私のことを心配してくれていたのが嬉しいと、思ってしまう。
「クロード様、私は大丈夫ですから怒らないでください」
「アデルが危険な目に遭ったのに平静でいられないよ」
ああ、この人は本当に、私のことをずっと気にかけてくれているんだ。私のために怒り、心配してくれる。
そうやって、私の心に寄り添ってくれている言葉も眼差しも愛おしい。
クロード様の背中に手を回して抱きしめ返すと、クロード様は国王陛下に苦言を呈するのを止めて、頭に口づけを落としてくれた。
「さて、邪魔者は退散するとしようか」
国王陛下はカイン様を連行し、カイン様は王宮内で特定危険魔法を使った罪に問われて投獄された。
その後一週間は国王陛下じきじきに取り調べがあったのだと、クロード様が教えてくれた。
罪を認めハウエルズ家が賠償金を払ったことでカイン様は解放され、そのまま領地に戻ったらしい。
今回の件で国王陛下直々に私への接近禁止令が下り、もう二度と会うことはないと、国王陛下は話してくださった。
「……クレアは、どうなってしまうのかしら」
カイン様との婚約が決まって嬉しそうにしていたクレアのことを思うと、いたたまれない気持ちになる。
手紙を書くべきか悩んでいたが掛ける言葉が思いつかず、手紙を送れないまま、時が過ぎていった。
国王陛下はしばらくクロード様に口をきいてもらえなかったようで、寂しそうにしていたらしいです。
(アデルを護衛していた女性騎士談)




