17.星とあなたに誓う
祝賀パーティーは夕方ごろに終わり、夜にはいつも通り、星詠みの仕事が始まる。
王宮の庭園で口づけしてからクロード様を意識してしまい、クロード様に話しかけられる度にどぎまぎしてしまって。
すると私の変化に気づいたリリーとジャスミンがクロード様を捕まえて尋問をして――今に至る。
「坊ちゃ……旦那様はアデル様に近づかないでください」
リリーがクロード様を睨むと、クロード様は気圧されてたじろぐ。そのまま星の間の隅にまで追いつめられてしまった。
祝賀パーティーに合わせて黒を基調としたジュストコールとズボンを身にまとう厳かな雰囲気のクロード様も、リリーとジャスミンの前に立つと「坊ちゃん」に戻ってしまう。
「アデル様に強引に迫るなんて紳士のすることではありませんわっ。見損ないましたわよっ!」
「そうですわ。口づけはアデル様の気持ちを待つんじゃなかったんですの?」
二人は私の心配をしてくれているようで。
クロード様には悪いけど、私のために怒ってくれるリリーとジャスミンの気持ちがとても嬉しい。
「あの、私……く、口づけはびっくりしたけど嬉しかったので……だからクロード様のこと、怒らないでください」
言い終えないうちに自分の言葉で頬が熱くなる。
ここで「嬉しかった」と言うのはおかしいかもしれない、と自分の言葉に自信が持てず俯く。
するとクロード様が私の頬に手を添えてそっと顔を上に向けさせて。
「アデル……俺のことを好いてくれていると、期待していいかな?」
微笑みながら、そう言ってくれた。
少年のように顔を輝かせたクロード様に問いかけられると嬉しいのと同時にまた恥ずかしくなって。
黙ってこくりと頷くと、クロード様は私を抱き上げてバルコニーに出た。
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今日の星詠みはいつもより長くて、終わるとクロード様はひどく疲れ切っていて。
このまま倒れてしまうんじゃないかと不安になるほど顔色が真っ青だ。
早く就寝した方がいいと勧めたけれど、クロード様は「大丈夫、大丈夫」と言ってよろめきながら立ち上がると、私の隣に座った。
「今日話した星はね、かなり遠くにいる星なんだけど、この国のことをよく見てくれていた」
クロード様はそっと指を空に向ける。
漆黒の夜空は無数の星々がきらめいており、小さな宝石が散りばめたように輝いている。
「あの赤く光るひときわ大きな星と話したんだ」
「あの星は……、クーストースという名前の?」
「正解。サイラス・オールストンの『渓谷の番人』で出て来た星さ」
「その作品を読んで初めて知りました。番犬座を形作る最も大きな星で、一年を通してずっと同じ場所から私たちを見守っているんですよね?」
その小説では、とある渓谷を訪れた主人公が一匹の犬と出会い、その犬に導かれて渓谷の主であるドラゴンを心無い領主から救出する。
主人公を導いたその犬こそがクーストースであり、ドラゴンが殺される未来を予知したその星はドラゴンを助けるために姿を変えて現れた、という話だった。
「クーストースと話ができるなんて羨ましいです」
「俺も嬉しくて、小説に書かれていることをクーストースに話したよ」
「それを聞いたクーストースはなんて言ったんですか?」
「次は自分を主人公にして欲しいと言っていた」
「ふふっ、サイラス・オールストンにお願いしないといけませんね」
星がどのような声をしてどのように彼らと話すのかはわからないけど、クロード様が星に本の話をしている様子は想像すると微笑ましい。
「……よかった」
「え?」
急に、クロード様が安堵したような笑みを浮かべた。まるで張り詰めていた気持ちがふっと和らいだような、そんな表情で。
「今夜の星詠みでアデルが手を握ってくれなかったらどうしようとか、目を合わせてくれなかったらどうしようとか、心配だったんだ。昼間はどうしても嫉妬心を抑えきれなくて――強引に口づけをしてしまったから」
クロード様の告白は意外なものだった。
完璧で、いつも優しくて、そして穏やかなクロード様が嫉妬をするなんて思いもよらなかったから。
あの時は、私を助けるためにしてくれたのかもしれないと思っていた。
それなのに、嫉妬心を抑えきれなかったと告白されると、たまらなく胸が甘く軋んでしまう。脈がとくとくと忙しなく打ち続けて、この震えが伝わってしましそうだ。
「あの、クロード様」
「ん?」
「クロード様のことが、好きです」
クロード様は瞠目したまま動きを止めてしまった。
口は微かに開いたまま、言葉を発さずに固まっている。
「優しくて、何をするのも完璧なクロード様を尊敬しています。そんなクロード様が私を必要としてくれるのは嬉しいですし、時々見せるおっちょこちょいな一面を知ってからは、愛おしいと思うようになりました」
クロード様のことが好き。
だけど、今の私では何もかもが不完全で、出来損ないで、クロード様の隣に立つ自信が、まだない。クロード様に迷惑をかけてしまうんじゃないかと思うと、不安で仕方がなくて。
「……だから私、クロード様の力になるために、変わりたいです。守ってもらうばかりじゃなくて守れるように、変わりたいんです」
そっと見上げると、クロード様の金色の瞳は優しく細められていて。
視線が絡み合うとクロード様は抱きしめてくれた。クロード様がつけている香水の爽やかな香りに包まれると心が落ち着いて、私もクロード様を抱きしめ返す。
「すでにアデルの存在自体に助けられて感謝しているんだけどな?」
耳元に落ちてくる声は甘くて優しくて、まるで私の心を包んで守ってくれているようだ。
やはりクロード様は闇夜に閉じ込められた私を照らしてくれる人だ。ウィンストン家からも心無いうわさからも私を助け出して、守り、癒してくれる。
私もクロード様にとって、そのような存在になりたい。
「だけど、俺のことを想ってくれて嬉しいよ。アデルは今でも十分魅力的だけど、もっと輝けるように協力する」
「ありがとうございます。クロード様を支えられるように、頑張りますね」
私たちはどちらからともなく唇を重ねて、星々に誓った。
星座の設定はオリジナルですのでご了承ください……!




