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ラブラブキッス大作戦

放課後のガンフェティッシュ

 

 序

 1980年代後半。ソビエト社会主義連邦。 

 ゴルバチョフ書記長の行ったペレストロイカ(民主化計画)政策は、歴史的失敗に終わり、旧保守派が勢力を盛り返す。

 そして1990年代の半ば、地下資源の開発を成功させたソビエトは、ふたたび超大国の座へと返り咲く。

そして現在。

 

ソビエトを筆頭とした東側諸国と、アメリカ率いる西側諸国は、激しい冷戦を繰り広げており、世界には、100万人から200万人の諜報員(スパイ)が暗躍しているといわれている。

 

 しかし、ソビエト当局、日本政府、及び葛飾柴又観光協会は、この物語が描くような事実はあり得ないと、非公式ながらコメントしている。





















1stKIIS「ラブラブキッス大作戦]

 シバマタ・トウキョウ・ジャパン


はぁ。ハポンは今日も平和だ。

教室はぽかぽかと春の日差しに照らされていた。

 アタシは窓の外をぼんやり見つめていた。

 暖かい日差し、都会でも田舎でもない町並み。

 ところで六時間目の授業って、どうしてこんなに眠いのかしら。アタシは12回目のあくびを噛みしめた。時間がゆっくりとながれ無限とも思われる。

 中年の黒い眼鏡に春用のカーディガンを着た、担任の心の底からつまらない社会科の授業は続く。

「つまり、さっきオープニングの「序」で書いてあった文書を、わかり易く言うとですね。ソ連は社会主義という国のシステムなんです。この社会主義というのは、個人の自由よりも国家を優先したシステムです。その代わり、国家がいろいろと保証してくれて、財産はみんなで平等にして暮らそうという事なんですね。

 一方アメリカや、我々日本は資本主義というシステムですね。経済や個人の自由を優先したシステムですね。自由だけどその代わりに、お金持ちと、貧乏人の差が大きくなってしまうんですね。

 80年代のおわり頃に、ソ連の社会主義は経済的に行き詰まってしまいました。当時のゴルバチョフ書記長は、経済立て直しの為に民主化政策、”ペレストロイカ”を行って、西側の良いところを取り入れて国を立て直そうとしました。ペレストロイカ、中間テストに出ますよ」

 ロボットみたいに、クラス中の生徒が教科書にアンダーラインを引く。常識なのに。

「でもこのペレストロイカは失敗して、再びソ連は、古い考えの人たち、旧保守派が政権をとってしまいます。ところが、1990年代の半ば、豊富な地下資源を見つけたソ連は、一気に超大国の座に返り咲きます」

 アタシは13回目のあくびをかみ殺した。

 あのね今日はね、同級生の悠次との初デートの日なの。昨日は緊張しすぎて、一睡も出来なかったから、今になって、眠くなってきちゃたのよ。そして無限地獄のような授業は続く。

「そして、今でもアメリカとソビエトは、冷戦という戦争をしているんですね」

「なんすか冷戦って?」

 男子の一人が手をあげた。

 やめてよ授業が長くなるでしょ!?

「大変いい質問ですね。直接ミサイルを撃ち合ったり、戦車や戦闘機で戦うのが通常の戦争です。でも冷戦というのは、睨みあって、お互いに手を出さずに、政治や経済や情報で戦う戦争の事です」

「よかった日本は平和国家で」

 さっきとは別の男子が言った。

「いえいえ、日本はソ連とアメリカに挟まった国ですよ。言ってみれば、冷戦の最前線と言うわけで、戦争になったら真っ先にソ連が大軍を送りこんできますよ!」

 アタシの席は窓側の一番後ろ。うららかな春の日差し。窓の外を蝶々がのんびりと飛んでいく。東京と言っても都心から離れたこの辺りは自然がまだ沢山残っている。

「それにですね、日本という国はスパイに対する法律が整備されていません。最近特定秘密保護法が国会を通りましたが、これはスパイを逮捕出来る法律ではありません。つまりスパイを取り締まる法律が無いのです。なので日本はスパイ天国と呼ばれるくらい世界のスパイが潜入してるそうです。ですので、車さんのように、ぼーとしていると、ソ連のスパイに誘拐されてしまいますよ」

 え?アタシ?

 突然自分の名前が呼ばれたので、アタシはきょどってしまった。クラス中が爆笑に包まれ、アタシの顔は共産党の旗のように真っ赤になってしまった。

そこでようやくチャイムが鳴った。アタシには救世軍のラッパのように聞こえた。

「はい。授業を終わります」

 人を授業のオチに使わないでよね。まったく。

それから、ホームのルームというよく名前の意味がわからない集会があって、やっと放課後になった。

「きりーつ」

「きをつけー」

「あやなみー」

「れい」

「先生さようならみなさんさようなら」

 やっほー!悠次とデートだ!

「悪い俺部室寄って行くから少し時間がかかる」

 悠次が小声で言った。アタシ達はまだみんなに付き合ってるって言ってないから、アタシも小声で「OK」と言った。

 アタシは2年H組を飛び出すと、古い鉄筋校舎廊下を全力疾走した。勢いをつけて、階段の手すりにおしりを乗っけると、一気に滑り降りる。この時のコツは手ではなく、やじろべーのように全身を使ってバランスを取ること。そしておしりばかりで滑っていると、摩擦熱でおしりが熱くなちゃうので、踊り場ごとに交互にお腹とおしりを入れ換えること。

 二階の踊り場で教頭先生とすれ違った。ヤバイ天敵だ!

「こりゃ!また2年H組の車か!廊下を走っちゃいかんって何度言わせるんだ!」

 初老で背が低く、間違いなくカツラの教頭先生は、ぷりぷりと叫んだ。

「教頭先生!アタシは廊下を走っていません。階段を滑り降りてるんです!」

「それを屁理屈っていうんじゃ!お前さんの頭のネジ緩んどるんじゃないか?」

「そうゆう教頭先生も頭のてっぺんがずれてますよ!」

 教頭先生は慌てて頭を押さえた。

「これは素直にありがとう・・・って待ちなさい!」

 教科書どうりのノリ突っ込みをした教頭先生。ところで教頭先生がカツラだって、本人は秘密のつもりなのかしら?。

 それから下駄箱のある昇降口まで走っていく。

 上履きを靴に履き替え、つま先をコンコンしてまた走り出す。外は素晴らしく良い天気。

アタシの通う学校、葛飾柴又青空第三高等学園(通称ブルースリー学園)には、正門と裏校門があって、裏校門が悠次との待ち合わせ場所。初めてのデートだからあんまり人のいない所を待ち合わせ場所にしたのね。

 裏校門に行くには体育館を回り道して行かないといけないんだけど、早く行きたいから、体育館の雨樋を登って、体育館の屋根を通って、最短コースで行くことにした。

 雨樋のパイプを抱っこする格好になると、後方に体重を掛ける。足をカエルみたいにピョンと上げる。今度は足に力を掛けて、腕を上にあげる。腕に重心をかけて、足を上げる。

 これの繰り返しで壁を上がっていく。意外に簡単だから、みんなもやってみてね。

 体育館の屋根を走っ通り過ぎる。体育館の屋根は意外にでこぼこしていて、鳥の糞とかで滑りやすいから注意する。

 今度は降りるやり方。登るより降りる方がちょっと難しい。雨樋のパイプを両足の裏で挟んで、手は添えるだけ。足をゆっくり開くと、するするするっと降りられる。

着地!車選手9.95点!

 はい裏校門に到着。っと。

 当然、悠次はまだ来ていなかった。

 裏校門は、日陰でひんやりしている。ほとんどの生徒が使わず、主に業者さんが搬入とかに使ってるだけだから、どこかうすら寒い雰囲気がする。

 悠次早くこないかなぁ。

 そこに白い軽ワゴンがバックで入って来た。運転席から、スーツにスニーカー、右手に包帯をした男性が降りてきた。

 男性は左手で不器用に後部ドアを開けると、しばらく中の荷物を取ろうと四苦八苦していた。

「ここの生徒?」

 男性がニコニコと聞いてきた。

「はいそうですけど」

 男性は右手の包帯を見せたて

「ちょっと手伝ってくれるかな」

 と、続けた。

 アタシ親切丁寧義理人情がモットーの下町っ娘。笑顔で答えた。

「もちろんいいですよ」

 アタシはアジアじゃジャッキーチェンの次にいい人なのだ。

「中から、この段ボールを押してくれるとありがたいんんだけど」

 お安いご用です。アタシが車内に入り、段ボールを持ち上げたその時、目の前に、ナイフが付きつけられた。

 中にもう一人男が隠れていたのだ。

「おとなしくしろ」

 のんびりとした午後が、いきなり急旋回する。え?何これ?アタシどうなるの?

「そうした方がいい」

 包帯の男が、後部ドアを閉めた。包帯は偽装だったようだ。

 包帯の男が運転席に座ると、車を急発進させる。裏校門がみるみる小さくなっていく。

 ナイフの男は、ナイフを口に咥えると、アタシの手を縛った。

 ワゴンは法定速度ギリギリで、下町の中を抜けて行く。知っている通りが、ドンドン過ぎてゆく。

 5分ほど走って、ワゴンは廃屋へと入った。、元町工場だった所みたい。中は暗く、目が慣れない。

 あらかじめ予行演習をしていたんだろう、鮮やかな動きで、包帯の男はワゴンを降りると、辺りを見渡したあと、シャッターを閉めた。

「もういくら叫んでもいいぜ。無駄だけどね」 

 ナイフの男が、臭い口で、耳元でささやく。

首にナイフ突きつけられている。嫌な汗が背中を伝う。

「むしろ叫んでくれた方が盛り上がるけどね」 

 男達はスキーに行くとき被る目出し帽を被った。そして包帯の男がカメラを用意する。配線をノートパソコンにつなぎ、なにやら入力している。

「どうなると思う?」

 アタシは首を振った。

「君が俺たちにいやらしい事をされてるところを、動画サイトにウピーするんだよ」

「生中継でな。ふ。おぬしも中々ワルよのうWWW」

 包帯男もナイフ男も同時に笑う。

「胸は小さいけど、いい女だぜ」

「俺は貧乳の方が萌えるけどな」

「へ?」

おかしい。何かが変だ。アタシは恐る恐る聞いてみた。

「あのー、すみませんが?あなた達、ひょっとして痴漢ですか?」

「まぁ自分達で言うのも何だけどそうだな」

「超A級のハッカーにして、正真正銘の痴漢だ」

 笑いながら、包帯男は、カメラを微調節しながら答えた。

 アタシは念のためもう一度聞いてみた。

「公安警察とか、CIAとか、テロリストとかじゃ無くてホントにホントに”ただの”痴漢?」

「はぁ?」

 ナイフ男がすっ頓狂な声を上げた。どうやら本当にただの痴漢らしい。  

「それ早く言ってよ、アタシだって忙しいんだからさぁ」

と、言い終わらないうちに、思い切りナイフ男の目と目の間にヘッドバットを食らわす。

人間の骨の中で最も固いのが前頭葉、つまりおでこの部分ね。このおでこを敵の目と目の間、鼻の上の方に思い切ってぶつけるのがヘッドバッドのコツよ。

ナイフを落とすのを素早く後ろ手で受け取り、アタシを縛っていた縄を切る。手が自由になると、鼻を押さえてもがいてるナイフ男の頭を、ワゴンの床に叩きつける。そしてうつぶせになったナイフ男。そのナイフ男の首の後ろに膝を乗せて全体重を掛ける。こうしてしまえば、首を押さえられた蛇と一緒で、どんなにあがこうと、なにも出来ない。

 ここまで約1秒ね。

「女子高生の膝の味はどう?」

 イヤミったらしく言ってやる。痴漢と便秘は乙女の大敵!。それから、アタシを縛っていたロープで、ナイフ無い男を縛った。

「人を縛る時はね、手と足を後ろに縛って、エビみたいにのけぞらせて、今度は、手と足をまとめて縛るの。トラッカーズヒッチって言ってね、絶対脱出不能だから」

「お、おい!」

 あまりに早く形勢が逆転してしまって、すっかりテンパってた包帯男が、ようやく声を絞り出した。

「お、俺達には、これがあるんだぜ」

 包帯男は、黒い箱状の物をポケットから取り出した。男がスイッチを押すと、バリバリと電撃を発し、それがスタンガンだとわかる。   

 空気に独特の電気臭が漂う。オモチャを自慢したい子供みたいだ。

「それがどうしたの?」

 アタシは、ルーズソックスの下のアンクル(くるぶし)ホルスターから、グロック26拳銃を抜く。グロックシリーズは、オーストリアで開発された高性能拳銃。26はシリーズの中で一番コンパクトで、アタシの手の平に入るくらい小さい。強化プラスチック製で、軽量だけど、貫通力の高い9ミリパラベラム弾を使用出来るから、隠し武器としては理想的な拳銃。この銃を隠す為にアタシは時代遅れのルーズソックスをはいているの。

 グロックよりソ連製のトカレフの方が殺傷能力が強いから好きだけど、この際贅沢は言ってられないわね。

「それはエアガンだろ?」

  包帯男が強がりを言った。

『グロッグ豆知識。ハポン人はぐろっぐと発音するけど、グラッグと発音するとプロぽいよ♪※個人の意見です。』

 アタシは、安全装置を外して、引き金を引いた。グロックは既にコックアンドロック(いつでも撃てるぜ!)状態なので、パン!っと9ミリパラベラム弾特有の乾いた音を発して、男のスタンガンを砕いた。それでもまだ勢いのある9ミリパラベラム弾はワゴンの窓を割った。

 包帯男が壊れたスタンガンと割れたガラスを、信じられないという表情で見つめる。

 チャーンス!

 包帯男のみぞおちに膝蹴りを入れる。包帯男は前のめりに倒れた。

 あとはナイフ男と同じ。トラッカーズヒッチで縛り上げる。はい二丁あがり!っと。

 さて、この二人どうしよう?

 一般的にはワゴンのガソリンに火をつけて、あとはずらかるんだけど・・・。

 電球!

 ひらめいた。そういやこいつら、アタシの恥ずかしいところを、動画サイトへアップする予定だったんだっけ。

 アタシはカメラを男達に向けると、彼らのマスクを剥ぎ取った。

「おい何するんだ」

「あぁ気にしないで寝てて、あなた方が逮捕されるところを動画サイトにウピーするだけよ」

 うしゃしゃしゃしゃ。アタシも中々ワルシャワよのう。

正直パチョコンとかデジタルは苦手な下町っ娘だけど、男達が下準備してくれてたお陰で、結構簡単に接続できた。便利だけど怖い時代ね。ホント。

 それからアタシは、ナイフ男のおしりポケットから・・・嫌な作業。なんで痴漢のおしりさわらにゃいかん・・・スマートフォンを出して、110番する。110番は自動的に録音されるので、鼻をつまんで話す。アタシはさ、声がハスキーだから、こういう時便利なのよね。

「ぼしぼし僕痴漢だけど。自分で自分を縛ったから、捕まえたかったら、捕まえに来い!バーカバーカ」

ナイフ男が大声で電話を妨害しようとする。

むかついたんで、更に続ける。

「ついでに2兆円用意しないと、国会議事堂爆破するぞ!」

これで痴漢と、脅迫罪追加決定。うしゃしゃしゃしゃ。

「ここは柴又三丁目の元工場だ!てやんでぇ!」

アタシは携帯の指紋を拭き取ると、それを壁に投げつけた。

 包帯男が泣きながらわめいた。

「まってくれ、話し合おう、俺たちはこう見えて・・・」

「学校の先生でしょ?スーツにスニーカーなんて奇妙なファション、学校の先生しかしないわよ」

 だからアタシ騙されちゃったのよね。ほんとならこんなポカしないわ。

「わかってるなら頼むよ。俺たちの人生終わっちゃうよ」

 バリン!アタシはパラベラム弾の跡が残る窓ガラスを蹴飛ばして粉々にして叫んだ。

「痴漢の人生ですって?痴漢の人生なんて乙女の貞操に比べたらゴキブリの糞以下よ!」

そして男達をにらみつけて叫んだ。

「乙女の怒り、胸に抱いて、監獄で眠りな!」

 それからアタシは振り返らずに全力で工場跡からずらかった。

 

 『パラベラム』とは、ラテン語で、『汝、平和を望むなら戦いに備えよ』という意味。


アタシは常に戦いに備えている。


なぜなら…


「アタシの名前は美希。車美希。葛飾柴又青空第三学園に通う、ごく普通の女の子。ただ一つ、KGB”ソビエト国家安全保障局”のスパイである事を除いては・・・」


 

















やまもとごうし Present’s

   『放課後のガンフティッシュ』
















シバマタ・トウキョウ・ジャパン


「遅刻!遅刻!」

アタシは腰まである髪をゴムで縛って、走り易くすると、工場を後にして、悠次の待っている裏校門まで全速で走った。訓練ならなんてことない楽勝な距離なんだけど、なぜか胸が苦しい。

角を曲がってようやく、裏校門にたどり着いた。

 悠次はギターケースを背負って、校門にもたれかかっていた。

 紹介するわね。小野悠次(おのゆうじ。アタシの彼氏。身長は175センチ。短髪で肩幅が広く、校則ギリギリまでヒゲなんて伸ばしてるから、一見いかついけれど、目はとても優しい。よろしくね。

 アタシは呼吸を整えて言った。

「ゴメン悠次!、遅れちゃって。ホームのルームがホームでルームしちゃって大変だったの」

 悠次は右手を挙げて笑って言った。

「俺も今来たところだよ」

 残念だけど嘘。人間は右脳で嘘をつくから、嘘をつく瞬間に右半身が無意識に反応してしまう。嘘を見抜く能力もスパイの必須科目。

 でも悠次、アタシに気を遣って、嘘ついてくれたんだ。優しい。

「部室寄って来たからな」

 悠次の部活はヘビーメタル部。通称「じゅうおん」もしくは「じゅおん」と呼ばれている。

「じゃ行こうか」

「うん」


 それから悠次とアタシは、江戸川の土手を並んで散歩して江戸川散歩になった。

 心臓がこんなにドキドキするのは、全力疾走したからよね?。ほっぺたがこんなに赤くなるのは、春のせいだからよね?。

 お互いなんとなく無言で、てくてくと歩く。 

 悠次は長身で、アタシの身長が160センチだから、悠次は頭一つ分大きい。(アタシのスリーサイズは国家機密だけどさ)アタシはついていくのに少し早歩きになった。

手、つなぎたいなー。手を伸ばせば、すぐそこに悠次の手があるのに、国境線の向こうくらいに遠く感じる。最初のデートでアタシから手を握ったらおかしいかしら?ていうかハポンの女子、ハポンナデシコは、こういう時どうするんだろう?アタシはスパイ養成学校NSCで習ったKGB恋愛マニュアルを必死に思いだそうとした。

 えーと、マニュアルにはなんて書いてあったかな?。


”相手を泥酔させて、路地裏で財布を取る”


”首の後ろに拳銃を突きつけて、耳元で家族の名前をつぶやく”


 違うな。えーと、えーと、


”偶然を装って、相手に軽くボディータッチをする”


 うん、これならいけそうね。

 アタシはちょっとつまずいた振りをして、悠次の手を握ろうとした。

 その瞬間、パトカーが数台、猛烈にサイレンならして、走って行った。

「うぁ!スゲー、なんか事件かなぁ?」

 悠次が興味津々で見ようと、手をかざす。もう!タイミング悪いなぁ。誰よパトカー呼んだ奴!ブー。

「お!ヘリまで飛んできた!かっけー!ニュースに出るかなぁ?」

「えぇ」

 別に興味ないけど、アタシは適当に、あいづちをうっておいた。アタシには今、アルマゲドンより重要な事があるのよ。


 あ、そうだ。ここで悠次とアタシの出会いについて話しておくわね。

 

 アタシが悠次を初めて知ったのは、アラスカの北米航空宇宙局(NORAD)のレーダーサイト潜入ミッションが終わったあと。今度は暖かいところでのミッションがいいなー、なんて思ってたら、ハポンでのミッションだったのよね。

 命令は、ハポンの国防軍の特殊作戦群の中佐(悠次のパパね)の息子(悠次)に接近して、情報を得よ。とのこと。

 悠次のパパは、ハポン国防軍の中佐なの。KGBは悠次のパパに数々の賄賂や、ハニートラップ(色仕掛け)を仕掛けたけど、真面目な悠次のパパはまったく引っかからなかったそうなの。そこで、作戦を変えて、息子である悠次に近づいて、情報を得る事にしたの。

 そんでアタシの出番って訳。ところが、悠次の写真を初めて見た時、アタシの脳みそに閃光手榴弾が炸裂したような衝撃が走ったの。そう、いわゆるハポン語で言う、ササニシキって奴ね。間違えた、コシヒカリ?あぁヒトメボレって奴ね。

 暗殺部隊に入らず、単独潜入部隊に入って良かったぁ。私は心から感謝した。ロマンスの書記長様どうもありがとう!

 ただしそれから悠次に近づくのがひと苦労だったのよ。ホント。

 まず、アタシが原子力潜水艦でハポンに近づき、小型潜行艇でエノアイランドに上陸する。江ノ島って所ね。

 そして、ここ柴又にお引っ越しして、それからそれから、悪いけど、KGBの裏工作で悠次のクラスの一人を入院させる。

 クラスに空きが出来たところで、アタシが転入するっと。

 次に悠次の通学路をリサーチして、転入初日の朝、パンをくわえて「遅刻!チコク!」

 どっしーん!と、悠次にぶつかる。

 大胆かつ繊細に、アタシの見せパンを悠次に見せる!

 でもって、朝のホームのルームで、

「今日から転入してきました車美希さんです」

「よろしくおねが、、、あー!朝のパンツ男!」

「お、俺は悪くねーよ」

「車さんの席は悠次君の隣りです」

「えー!(知ってた)」

席に着くと、

「こっちからこっち、アタシの陣地ね。入ってこないで」

「やな女」

 というやりとりをする。そのころ、KGBの別動班は、悠次の家のテレビの電波をジャックして、24コマに1回アタシの顔写真が写るようにしておく。

 それからしばらくした雨の帰り道、捨てられた子犬を抱きしめて、

「お前も一人ぼっちなんだねアタシもだよ」

 というシーンを悠次にさりげなく見せる。

 これでもまだ手ぬるいので、最後の仕上げに、真夜中に悠次を誘拐して、クスリを打ち込んで、体の自由と記憶を奪った後、まぶたを閉じないように専用器具で固定して、大音量で

「美希ちゃん大好き、美希ちゃん最高、美希ちゃん大好き・・・」

 という映像を8時間に渡って見せる。朝方ベットに返す。


 そして、ようやく悠次がアタシに告白!という形になったの。恋愛に鈍感な悠次が相手だから、作戦はずいぶん時間がかかっちゃった。恋って爆破作戦より大変なのね。

 あ、作戦で使った捨て犬は、ちゃんと元の場所にキャッチアンドリリースしておいたから、安心してね。

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