表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フィリピン放浪記  作者: kenta452002
4/21

第1話 不謹慎極まりないスローガン『働かざるして喰っていこう』を 掲げ、私の旅の始まりです。(4)

      挿絵(By みてみん)

今宵の雨が激しさを増す中、ひとり静かに暮らして来たはずの私の、唐突に舞い込んだ慌ただしい出来事についてつづります。

ずぶ濡れの3人の来客。タイルで敷き詰めたリビング床は、したたる水滴による水溜まりがみるみるうちに広がっていく。水溜まりの上にオッ立つ全身を刺青タトゥーで覆われた二人の見知らぬ男達。

      挿絵(By みてみん)

肌寒い雨の夜。彼等の出で立ちは、Gジャン及び深々とフードを着込んだ現地の防寒スタイル。耳には片方だけのイヤリング。手首に重々しく見え隠れするのは、銀色に輝く細かな細工が施された分厚いブレスレット。利き腕に巻かれた派手目の腕時計。胸元そして両足に伺えるのは「すね毛」ではありません。浅黒い肌に立派な刺青タトゥーを施しています。私の勝手な思い込みですが、彼等に施された刺青タトゥーはファッションという赴きとは異り、何処か部族の象徴とでも言うのか・・・ある種ネイティブの誇りのような印象を受けました。

そして、いつも通りにゲラゲラとまくし立てる陽気なジョイ。それらを、不安な心を悟られぬよう満面の笑みで迎える私。

「タオルねえガ???」

私の笑みを不審そうに覗き込みながら、栃木なまりのジョイが二人の男達を従え、びしょ濡れの身体を指さして「タオル」と連呼します。

男達の手にはパンパンに膨らんだ手土産らしい深紅のビニール袋。中身は恐らくビッグサイズのガラスボトル。

      挿絵(By みてみん)

定番のフィリピン産ビール「レッドホース」でしょう。


おおよそ一時間後、我が家のリビングルームの住人達はボロボロ酔いの状況でした。「レッドホース」。いわゆる日本のビールとはおおいに異なりリキュールに近い感触。「とりあえずビール」と言うノリではないのです。かなりのアルコール濃度。氷を浮かべるぐらいが丁度良い感触です。


「タロさん・・・お前は銃を撃った事があるか?」

刺青タトゥーの男達と私の会話はジョイがすべて通訳です。

「無いです!」酔いが体の芯まで染み込んだ爆酔いの私が、当たり前だとばかりに答えました。

兎にも角にもレッドホースの威力たるや半端ない!

「無い。なぜ無い??タロ・・・撃ちたいか?銃!」黒豚を思わせる片方の巨漢の男が不服そうに返しました。

「そうじゃなくてね、私は銃にまったく興味が無いんだ」

「そうかタロお前は銃が撃ちたいか。心配ない。俺に任せろ。俺がお前の望みを叶えてやる」

「ありがとう。でもお断りです。興味が無いんで」

「分かったタロ。来週俺の娘の誕生日。お前を娘の誕生日に招待する。その時、お前の望みを叶えよう」

「ありがと・・・?」怪訝そうにジョイを見つめる私。時折意味不明の奇声を雄叫おたけぶ彼女。どうやら酔い騒ぐ輪の中で最も酔っているようでした。

「気に入った。俺の相棒タロ!俺とお前は生涯の友達。俺がお前の望みを叶えてやろう」

つまりは爆爆酔いのジョイ。通訳がまったく覚束おぼつかない有様で、私達は意思の疎通がまともに図れませんでした。


「お仕事は?何をしていますか?」無理矢理に会話の流れを修正した私。酔ってはいますが比較的落ち着いた、狐目の小動物を思わせる、もう片方の男に語り掛けました。

「僕??僕だね。僕は音楽家」狐目さんが素っ頓狂な声を上げた。

「音楽家?」

「そう。音楽家・・・僕は自分で楽器をコサえてそれを毎日演奏して過ごしてる」

私の質問が愚かな問いかけである事は、この時点では気付きませんでした。私は不勉強な愚か者でした。彼等の多くが、職を持てずにいたわけです。私がジェネラルサントスで出会ったすべての男達(私の周りに限って)が無職でした。誇張では無く事実です。


「タロ・・・俺達が何故お前を訪ねて来たか教えてやろう」黒豚さんがうつろに緩んだまなこで意味不明な笑みを浮かべてる。

「???」何か怪しげな空気の漂いを感じた私。


黒豚さんと狐目さんが軽くお互いで目配せした後、大声で笑い出しました。私は当然当惑です。何がそんなに可笑しいのか!?


その(くだり)の・・・その刹那です。ジョイが異様にはにかむ姿を私は見逃しませんでした。私の脳裏に「一生の不覚」というワードがクッキリと浮かんできました。

あの日、日用品買い出しの日。何気なく交わしたジョイと私の会話。ソレがこんな結果になろうとは・・・






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ