第1話 地表
日が強い日曜日、立ち入り禁止のフェンスを越えて空を見ていた。
「お嬢ちゃん、戻りなさい。じゃないと警察が来ちゃうよ」
道端のおじさんが言う。
「あなたもよ、知らないおじさん。しかも、私はお嬢ちゃんじゃない。立派な大人よ」
クールに返してみた。
何気ない日々だった。
なにも知らずに地下空間に住んで、なにも知らずに過ごしている。何気ない日々だった。
地表は荒廃が進み、危機を感じた人間は地下空間に住み着いた。家を作り、店を出す。そして大きな街を作り上げていた。いつしか、地表は立ち入り禁止になっていた――。が、私の知るこの地球の現在である。
微かに、サイレンの音が聞こえた。警察だ。
「お嬢ちゃん! 早く隠れるんだ!」
私はあたふたしていたみたいで、おじさんに言われる。すぐに私は木陰に隠れた。
「おい、ミサオ。立ち入り禁止区域入った者は居ないか?」
「居ねぇよ。こんなとこ、誰も来ねぇさ」
「いや、来たとしても下心で庇うんじゃないか? 例えばー、こことか!」
バサッと言う音と同時に真隣の草むらが開ける。
「老いぼれ舐めんじゃぁないよ。わしはとっくに元気がない。下心なんぞ消えたわ」
「嘘つけー。こないだのおばちゃんに媚びうってたくせになー」
ゲラゲラと笑っていた警官たちはパトカーに乗り込み、パトロールを続けた。
再び見渡す地上は、カラッカラに乾いて干し草しかない。建物はおろか、何もない。まあ、フェンスと木だけあるが。
「何もない。か」