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異界の勇者を愛した女

作者: 冬樹 春

 魔王退治のため、王国から旅に出た僕達は、魔物が多く生息する魔法の森の奥深くに到着した。

 もう少し先にある洞窟に代々受け継がれている聖剣が置いてあると聞いたからだ。

 僕はふと、鬱蒼とした森には似合わない古民家があることに気づいた。ここで一休みしようと仲間に提案する。ここまでの連続した戦闘によって、彼らの体力や魔力が限界に達していたからだ。

 どうせ誰もいないだろうと考えていたが、一応ノックをすると、意外なことに中から声が聞こえた。若い女性の声だ。

 ガチャと鍵が開く音がすると、ドアが開いた。出てきたのは全身を真っ黒な服に包んでいる上品で儚げな女性だった。

「突然すみません。とある目的のためにこの森へ来たのですが、ここで少し休ませていただけませんか?」

「はぁ……。貴方がたはいったい……?」

 僕の言葉に女性は困惑した表情を見せた。

「僕たちは魔王を倒すために王から選定された者です」

 女性はとても驚いたようで、小さく「え……」と声を漏らした。そして「どうぞ」と僕達、勇者一行を家は招き入れた。



「すみません、人里には大分降りていないので……」

 女性は、人数分の紅茶が入ったポットをおきながら眉を下げながら言う。

 ここから一番近い村へは険しい山道を歩かなければいけないしさらに道中強力な魔物だっているので。女性一人では村に降りることは厳しいだろう。

「どうしてこんなところに住んでいるの?」

 白魔道士の少女、シロが問いかける。

「おい、失礼だぞ」

 黒魔道士の少年、クロは慌てて少女を嗜める。

 彼らは男女の双子だ。まだ幼いが、国で一番の魔道士だ。

「いえ、大丈夫です」

 女性は笑ってシロを許した。

「どうしてここに住んでいるか、ね。……そんなこと、考えたことも無かったわ。けれど強いて言うなら、ここが好きなの」

 女性は少し悩んでからそう答えた。そして

「質問に一つ答えたのだから、私も一つ質問をしても良いかしら?」

 悪戯っぽく笑いながら言った。僕は二人と目を合わせると、「答えても良い範囲のものなら」と女性に言った。

「勇者様のお名前を教えてほしいわ」

 女性は微笑みながら僕に聞いた。

 僕は少し考えてから、「クリス・ブレイブです」と答えた。

 女性は「そう……」と言ったあと、少し考え込んでしまった。

 シロはは空気を読まず「私はねー!」と自らも名乗ろうとするがクロに足を踏まれて怒られる。

 少しの沈黙の後、女性は口を開いた。

「私の話を少し聞いてくれる?」

 僕が頷くと、彼女が醸し出す雰囲気が一変した。上品だった女性は、色っぽく、妖しい暗い笑みを浮かべ、部屋も暗く、ジメジメとした陰鬱な雰囲気になった。


「貴方達の目的はこの先の洞窟にある聖剣でしょう?」

「……だからなんだ」

 僕は冷静に腰にある剣に手をかけた。

「ふふっ。ねぇ、少し昔話を聞かない?」

「……なんだ」

「まぁ、そんなに警戒しないで。貴方達に危害を加えるつもりはないわ。……今はね」

 僕は口を閉じ、静かに女の動向を追った。先ほどまで饒舌だったシロさえも、口を開こうとしない。今はただ、女性を静かに睨みつけている。

 女性はそんなことを少しも気にしないというように少女のような幼い笑みを浮かべた。

「それではお話ししましょうか。とある少女の恋物語を」



 少女は一国の姫で、それ故にいつも一人ぼっちでした。正確には周りには大勢のメイドと大勢の騎士がいたので一人ではありませんでしたが。

 少女はいつも暇を持て余していました。勉強も、魔法も優秀な少女にとっては簡単で、とてもつまらないものだったからです。

 そんなある日のことです。少女は散歩に来ていた王宮の中庭で少年と出会います。目が合った瞬間、少年のその真っ黒な瞳に少女の心が全て吸い込まれるような感覚に陥り、心臓がドクドクと激しく音を立てました。そう、少女は一目で少年に恋を落ちたのです。それは、少女が十四歳になって少し経った頃でした。

 それから少女は頻繁に中庭に通うようになりました。少年は忙しいのか、なかなか会えませんでしたが、会えたとしても声をかけることはできずに、遠くから隠れて見ているだけでした。ところがそれから少し経った頃、王宮の中に戻ろうとした少女は、少年とばったり出くわしたのです。突然のことで少女は固まってしまいます。そんな少女を見て、少年はクスッと笑って言いました。

「やっと話しかけられた。僕に何か用かな?」

 なんと、少女が少年をこっそりと見ていたことは、バレていたのです。少女は真っ赤になって俯き、小さな声で「ごめんなさい……」と呟きます。

 少年は「怒ってないよ、不思議だっただけで。……僕なんか見てても面白くないでしょ?」

 と言い、苦笑します。

「そんなことないわ! 貴方を見ていたらね、胸の辺りがほっこりするの。だから、退屈じゃないわ」

 楽しそうに花を眺めたり、ベンチに座って真剣な眼差しで本を読んだりしている少年の姿を思い出して、少女の頬は自然に綻びます。

「そ、そうなんだ。それなら良いけど……」

 そう言いながら、少年の顔は少しだけ赤く染まっています。それを見て、少女はさっき言ってしまった言葉をもう一度思い出します。そして、真っ赤な顔をさらに真っ赤に染めます。

 しばらくの無言の後、少年が口を開きました。

「あの、もしよかったら僕と話しをしてくれないかな?暇な時間で良いから」

 その魅力的な提案に、少女は1秒も待たずに「もちろん!」と返事をします。その声が意外と大きくて、少年は少し驚いた後、笑いました。少年が笑うと、少女も一緒に笑いました。

 それから、暇を見つけては少年とお話ししました。勉強のこと、魔法のこと、昨日食べたお菓子のこと。聞き上手な少年は相槌を打ったり、質問をしながら楽しそうに聞いてくれます。しかし、少年はあまり自分のことは話しません。偶に聞いても、笑ってはぐらかされてしまいます。少年は自己評価が低いようで、「僕なんかの話聞いたって面白くないから」と言います。その度に少女は「そんなことないわ!」と反論しますが、笑いながら宥められてしまいます。

 少女は少年のことが大好きなので、少年の困った顔は見たくありません。ですから、少し経った頃には少年について質問をしなくなりました。



 それから一年が経ち、少女と少年の仲はとても良くなりました。お話しするだけではなく、一緒にお茶をしたり、勉強したりもしました。少年はとても優秀で、少女よりも難しい勉強をしていました。少女も少年に追いつきたくて自分でも驚いてしまうくらい必死に勉強しました。

 いつものように中庭でお茶をしていたとき、少年が突然言いだしたのです。

「僕はこの国……いや、この世界の人間じゃないんだ」と。

 冗談かと思って笑いながら少年を見ましたが、その顔はとても真剣でした。

「僕は地球という星の日本という国から来たんだ」

 少女は『チキュウ』も『ニホン』も聞いたことがありませんでした。

 しかし、少年はとても優秀で、少女に嘘をつくことはありません。だからきっと、本当のことなのだろう、少女はそう考えることにしました。少女は少年がどんなに突拍子のないことを言っても信じると心の中で決めていました。

「どうして貴方はここに来たの?」

 少女は少年に純粋な疑問をぶつけました。

「僕は君のお父上、国王陛下に勇者としてこの国に召喚されたんだ」

 勇者といえば、魔王を倒せる唯一の人だと、少女は最近習っていました。

「……つまり、貴方は魔王を倒すためにこの国に来たってこと?」

「そうだよ」

 この話をし始めてから、やっと少年が笑いました。それが嬉しかったのです。しかし、一つ嫌な疑問が脳裏をよぎりました。少し考えた後、少女は少年に聞くことにしました。

「ねぇ……、どうして急にそんなことを言うの?」

 少女の声は少し震えてしまいました。「君ともっと仲良くなりたかったから」とか「君なら信じられるから」と少し照れてしまうような言葉を言って欲しかったのです。しかし、現実は非情でした。

「これはまだ、陛下と上級貴族の人達しかしらないけど、魔王が復活したんだ」

 少年は少女を心配させないためか、笑って言いました。しかし、その笑みは作り物のような、不自然な笑みでした。

「魔王が復活する、つまり勇者である僕は、魔王を倒しに行かなければいけない」

「……それは、いつからですか?」

 自然と敬語になりました。この時の少女はどんな顔をしていたのでしょうか。少年は悲しそうに「詳しくはまだ……。でも近いうちには……」

 少年の言葉が終わる前に、少女は中庭を飛びだしてしまいました。向かう場所はもちろん父の執務部屋です。メイド達が止めるのも聞かず、少女は走りました。


 少女が息を乱しながら執務室に入ると、少女がくるのを知っていたかのように父は少女を見つめていました。

「何か用か」

「……お父様、どういうことですか」

 少女の声は自然と低く、苛立っているような声になりました。

「どういうこと、とは」

「とぼけないでください!彼が……彼が魔王退治に行くとはどういうことですか!」

 自分でも破茶滅茶なことを言っていることはわかっていました。そんな少女の問いかけにも、静かに父は答えました。

「勇者が魔王を倒す。そんなことは当たり前だろう。そもそも、彼がお前に近づくことを許していたのは、彼が勇者だからだ」

 その言葉に少女はぐぅの音もでません。

「本当はもっと早くお前に言うべきだったのだろうな。それについては、すまない。お前が彼と楽しそうに話していたので言い出せなかったのだ」

「……お父様、彼ははいつ出発するのですか?」

 父は少し考えた後に口を開きました。

「まだ定かではないが、二週間後くらいになるだろう」

「……わかりました」

 少女は静かに頷きました。

「お前はこの国の姫だ。変な気は起こすなよ」

 一国の王様は、こんな小娘の気持ちなんてお見通しのようです。

 少女が父の執務室から出たとき、少女を呼ぶ少年の声がしました。どうやら心配して追いかけてきてくれたみたいです。

「ごめんなさい、気が動転してしまって……」

「いや、君は悪くないよ。ごめん、突然こんな話をして」

 少年は申し訳なさそうに言いました。

「もう大丈夫よ。でももう部屋に戻るわ」

 少女は上手く笑えませんでした。そして、少年の返事を待たずに少女は部屋は歩を進めました。



 そして少年と会わないまま二週間が経とうとしていました。窓の外はもう真っ暗でした。少年は予定通り明日の朝に王都を発つ、とメイドからおしえられました。

 少女は手に持った刺繍入りのハンカチを眺めます。明日の為に自分で縫い、先程やっと完成したものです。こういうことはあまりしたことがなかったので、少し不格好ですが、少女にはこれが精一杯でした。これを渡すくらいなら父も許してくれるでしょう。一番の問題はどうやって渡すかです。メイドの話では、少年は準備に追われて忙しいそうです。

 少女が小さく溜息をつくと、三回ドアをノックする音が聞こえました。少女が「どうぞ」と言うと、扉が開きメイドが出てきました。少女が持っていたハンカチをちらりと見ると、少し驚いたように目を開きましたが、すぐに普段の無表情に戻りました。

「姫さま、そろそろ就寝の時間でございます」

「わかったわ」

 メイドの言葉に短く返すと、少女はベッドに腰を下ろしました。メイドはそれを確認すると、部屋の電気を消しました。

 今、この部屋を照らすのは月の光のみです。今日は満月のようで、いつもよりも少しだけ明るいです。少女はスッと目を閉じて、少年との思い出を振り返ります。

 それから少し経った後、窓の外からコンコン、という音が聞こえました。驚いてその方向を見ると、ベランダに月明かりに照らされた少年が立っていました。

 少女は慌てて窓を開き少年を部屋の中は入れました。

「え⁉︎どうしたの?」

「しーっ!あんまり大きな声を出すと誰か来ちゃうよ」

 少年は口元に人差し指をあてて言いました。いくら勇者だからといっても、夜に女性の、それも王女の部屋に一人でくるのというのは、褒められたものではありません。バレたら即刻追い出されるでしょう。

 少女は心を無理やり落ち着けると、改めて少年に向き直りました。

「どうしてここに来たの?」

「明日、王都を発つから」

 少年は寂しそうに言いました。

「この二週間、全く君に会えなかったから、ゆっくり話す時間もなかったでしょ?」

「……別れを言いに来たのね」

 少女は少し拗ねたように言いましたが、少年は黙って頷きました。

「でも、それだけじゃないんだ」

 少年は真剣な眼差しで言います。

「僕は、まだ君に言ってなかったことがあるんだ。最後にどうしても君に伝えたくてここに来たんだ」

 その言葉に、少女の心臓がドキリと跳ねる音がしました。少年の眼差しを真っ直ぐに見つめ返すと、少年は柔らかく微笑みました。

「僕の名前。まだ言ってなかったでしょ?ユウって言うんだ」

「……へ?」

「驚かせちゃってごめん。僕はイイヅカ ユウ っていうんだ」

 突然の状況に、少女の脳がついていけません。

「イイヅカ ユウ……?」

 取り敢えず声に出して言ってみると、少年が今までに見たことのないくらい嬉しそうに笑うので、少女の顔が熱くなります。しかし薄暗いのでイイヅカは少女の顔が赤いことに気づきませんでした。

「えっと……イイヅカ?」

 真っ赤な顔のまま、少女がそう呼ぶと、イイヅカは一瞬間の抜けた顔をしたあと、ハッとして

「イイヅカは姓だよ!ユウが名前!」

 と、訂正しました。

「ゆ、ユウ?」

 少女が改めてそう呼ぶと、ユウは首がもげそうなくらい縦に振ります。その様子がおかしくて、少女は思わず吹き出してしまいました。

「名前で呼んでもらえるって、やっぱり嬉しいなぁ」

 ユウが小声で、しかし嬉しいのがわかるくらいの声色で言いました。

 少女は何度も頭の中でユウと繰り返します。何十回か繰り返したあと、ユウから声をかけられました。

「あともう一つ、言いたいことがあるんだけど」

 ユウの瞳は、先程より数倍も真剣になっていました。

「あの……これはなんていうか、その……」

 ユウは真剣なはずなのに、なぜか決まりが悪そうに目をそらします。しかしその仕草が、少女の期待を高めていきます。もしかして、そう思ってしまい、顔だけではなく、耳までも熱くなりました。

「……どうしたの?」

 声が震えないように、期待してるのが出ないように絞り出したその言葉ですが、やっぱり少し嬉しさが滲んでしまいました。

「いや、あの、えっと……」

 ユウは左頬を右手でポリポリとかきます。これは彼が緊張しているときにする仕草です。

 その仕草を見て、少女の口角が上がってしまいます。今が薄暗いことに感謝しました。今の少女の顔は変なことになっているに違いないでしょう。

「……ユウ、そろそろ何か言ってちょうだい」

 もう何を言いたいかほとんど分かっているのにそう急かすのは、いつも余裕そうな彼への仕返しでした。

 ユウは深呼吸を二回程すると、少女の目を真っ直ぐに見つめ直します。

「僕は……その、君が好きなんだ。君は王女様だし、僕は明日で旅に出るから、何かしたいとかそういう訳じゃないんだけど、やっぱり旅に出る前にどうしても伝えたくてそれで……うわっ」

 早口なユウの言葉を遮って、少女は彼に抱きつきました。突然だったのに、彼はしっかりと受け止めてくます。

「ユウ……!私、貴方が、初めて貴方を見た時から、ずっと好きだったの!」

 少女がユウの左肩のあたりに顔を埋めてそう言うと、彼は小さく「へ……?」と間の抜けた声を出したのが聞こえます。耳を澄ませると彼の胸から小さく鼓動が聞こえてくるような気がしました。

 少女はユウの腕から離れると、彼の瞳を見つめて、とびきりの笑顔で改めて言いました。

「私ね、貴方を初めて見た時から、貴方のことが好きなの。だから、そう言ってもらえてとても嬉しいわ」

 ドキドキと、心臓の大きな音が鳴り止みません。

 ユウは未だに信じられないのか、微動だにしません。ただ、口を魚のようにパクパクとしています。

 その様子を見て、少女はふと、あることを思いつきました。

「ねぇ、ユウ。私の言葉が信じられない?」

「そ、そんなことは……」

「ならね、こうしてあげる!」

 少女はユウの右腕を掴むとギュッと引っ張っぱりました。いきなりのことでユウが体制を崩し少女の方は倒れてきます。そして少女はユウの頬に口付けました。それは現実では一瞬のことだけれど、少女の中ではとても長く感じられました。

 自らしたことですが、やっぱり恥ずかしくて魂が抜けてしまったようにぼーっとしているユウをベランダへひぎずって追い出しました。途中、ベッドの上にある刺繍を入れたハンカチの存在を思い出しユウの服のポケットの中に入れます。ユウは呆然としたままでしたが、そのまま窓を閉め、ついでにカーテンも閉めました。

 少し罪悪感があったけれど、その日はドキドキしすぎて疲れたのか、そのまま眠ってしまいました。


 翌日、カーテンを開けましたが、誰もいませんでした。一瞬夢かと思いましたが、ハンカチが無くなっていたので、現実の出来事だったのでしょう。しかし、やっぱりどこか夢のように感じました。



 そしてついに魔王を倒しに行く、ユウとその仲間たちが王の間へ謁見に来ました。その場には少女もいたのですが、ユウは不自然なくらい目を合わせてはくれません。少女は、旅の仲間に女の子がいなくて少し安心しました。

 結局、その日の朝からユウが出発するまで、一言も話すことはありませんでした。



 それから、少女がユウのことを知るためには、要所ごとにくる勇者一行からの報告書と、偶にくるユウからの手紙だけでした。手紙は、旅が進むにつれて、届く頻度が減り、ついには届かなくなりました。

 報告書の方にも、怪我など、不穏な言葉が多くなってきました。

 それでも少女は、ユウが元気に帰ってくるのを祈りながら待っていました。



 その間にも、少女には縁談が沢山舞い込んできました。この国の結婚適齢期は十五歳。少女は十四歳なので、もうすぐです。

 ユウが旅立って少しした後、少女は父である国王に呼び出されました。これでもう十五回目です。

「お父様、私はまだ結婚しないと言っているはずです!縁談ならエイダが、妹がいるでしょう!」

「エイダはまだ五歳だぞ。……はぁ、お前ももう十四だ。そろそろ婚約者くらい決めたらどうだ」

 父は少女が勇者のことが好きだと気付いているでしょう。しかし、こうして縁談を勧めているのは、暗に勇者との結婚を認めないということだと、少女にもわかっていました。

「ほら、今回の相手は大国、テールズ帝国の皇太子だ。眉目秀麗で文武両道、まさに非の打ち所がない奴だぞ」

 父はそう言って少女に皇太子の絵姿を見せます。しかし、少女は怒った顔のままです。そして皇太子を指差しながら言いました。

「これがどうしたというのですか!こんな人、なんとも思いません!」

 これには普段無表情の国王も困り顔になってしまいます。

「私の意志は変わりませんから!」

 そう言って少女は部屋を出て行きました。

 しかし相手はこの国よりも大国です。これで済むはずがありませんでした。


 ユウが旅立って三年がたちました。少女は既に十七歳。世間一般では嫁ぎ遅れと言われる年齢です。しかも一ヶ月前に、妹のエイダの縁談が決まったのです。

 ついに国王からだけでなく、王宮中から「早く結婚してくれ」という視線を感じ始めるようになって少し経った頃でした。少女が母と妹ともにティータイムを楽しんでいた頃。一人の大臣が、血相を変えて国王の執務室にかけていくのが見えました。少女は、母と共に不思議に思っていると、国王からの招集がかかりました。

 急いで王の間に行くと、王が大変嬉しそうな顔をしていたのです。

「皆の者、聞け!勇者達がついに魔王を倒したそうだ!」

 その言葉を聞き、部屋の中にいる人達は歓喜に沸きます。そしてすぐさま大臣中心となって民衆へ伝える準備を進めます。

 少女は父が持っている紙、おそらく報告書なのでしょう。それを奪い取ると、すぐさま目を通します。報告書によると、怪我はあるが全員無事に終わったそうです。その事実にホッと胸をなでおろすと、父に謝りながら報告書を返しました。


 少女は部屋に戻ると、ユウが帰ってきたときに話すことを考えました。少女はあれから成長して、顔も身体も大人っぽく、女性らしいものになりました。特に顔は、国で一番の美女と言われるほどに美しくなりました。成長した自分を見てユウがどんな反応をするのかを考えるだけで胸が踊りました。少女にとって、魔王が倒されたことよりもユウが帰ってくる方が重要なことでした。

 少女は毎日寝不足になるくらいユウのことを考えては嬉しい気持ちになりました。数日後のあの報告を受けるまでは。


 それは、いきなり伝えられました。

 いつものように寝不足のままメイドに髪を整えられていた頃です。父が少女の部屋に来ました。そして使用人をみんな外へ出すと言いました。

「勇者が……勇者一行が全員死んだ」

 いきなりのことで少女はよく理解できませんでした。黙り込む少女を見て、追い討ちをかけるようにもう一度

「勇者一行が全員死んだ。原因は毒死。討伐後に寄った辺境の村で食べたものに毒が入っていたらしく、村人も過半数は死んだ」

 と、淡々と伝えます。

「……そんなこと、冗談でも言ってはいけませんよ。第一、信じられません。きっとお父様は悪い夢でも見たのでしょう?」

 出来るだけ平静を装って言う。信じられないのは本心だった。

「本当だ。遺体が届くのは半年後の予定だが……、勇者の遺体だけ何故か無いらしい。……私達も全力で探すが……」

「もういい!出て行って!」

 少女は父の話を最後まで聞かぬまま父を部屋から追い出しました。


 嘘だと思うほどに胸が締め付けられます。視界が歪んで頬に涙が流れるのがわかりました。あんなに幸せだったのにも関わらず、一瞬でこんなにドン底まで沈みました。あの幸せが嘘のように、先程までの浮かれていた自分が馬鹿みたいに思えました。


 気分転換をと母にこっそりと連れ出された街では人々が魔王討伐のニュースに浮かれてました。

「勇者様がついにやったぞ!」

「流石勇者様だ!」

 そんな声が色々なところから聞こえました。

 母は微笑みながら小さな声で言いました。

「貴女の好きな人はこんなに大勢の人の命を救ったのよ」

 少女はふと気になって近くを通りがかった人に声をかけます。

「ねぇ、勇者様の名前ってなんだっけ?」

 国を救った勇者です。勿論名前くらい知っているでしょう。

「あー?なんだったかなぁ?……おい!お前わかるか?」

「勇者の名前?……うーん、なんだったかなぁ。あーそこのネーチャンはしってるか?」

「はぁー?知らないわよ」

 しかし、誰一人として彼の、彼らの名前を覚えている人はいませんでした。



 その日の夜。街に行ったことで更に元気が無くなった少女を見て母は心配そうにしていたが、少女は寝たら治る、と言い、一人だけすぐに就寝の支度をしました。

 ベッドに横になりながら、街での母の言葉を思い出します。

「……大勢の人の命よりも、ユウの命の方が大事だわ」

 思わずそう言ってしまいます。でもそれが本心でした。

 王女として、それは決して褒められた言葉ではありません。しかし、それが少女の全てでした。少女は、自分の心がドス黒くなっていくのがわかりました。その時、不意に枕元から声がしました。

「シンジツヲシリタイカ?」

 少女は驚いて声がした方向をみます。

 そこには、この世界では「悪魔」と呼ばれる異形のものがいました。言葉では形容仕方それは、ベッドに腰をかける姿勢になった私にもう一度問いかけます。

「シンジツヲシリタイカ?」

「それは、何についての真実ですか?」

「ユウシャガシンダコトニツイテノシンジツ」

 悪魔はケタケタと奇妙な声で笑います。

「どういう……こと?」

「ユウシャタチ イドノミズニドクシコマレタ。オウサマノメイレイデ」

 言い終えると、悪魔はさっきよりも大きく笑います。

「嘘つかないで!」

「オレタチアクマ ウソツカナイ。シンジルカシンジナイカ オマエシダイ。オマエ オレトケイヤク マジョニナル ソシタラ モット オシエテヤル」

 その条件を聞き、少女は考えてしまいました。契約するか否かを。普通ならしないのでしょう。しかし、少女はこれ以上生きていても、ユウとは永遠に結ばれず、それどころか永遠にあえません。そして、そのうち結婚相手を勝手につけられて好きでもない相手と結婚するのでしょう。

 それならば。

 少女は覚悟を決めて口を開きました。

「契約するわ。だから、本当のことを教えてちょうだい」


 それから、少女は一瞬で眠りにつき、夢の世界へ旅立ちます。悪魔は夢の中で真実を教えてくれました。


 そこは父の、国王の執務室でした。そこには国王と宰相がおり、手にはテールズ帝国からの手紙を握っていました。

「……うーむ。あやつはまだ勇者のことが好きなのか」

「姫さまにも困ったものですね。この縁談を結ぶことによって、我が国にもたらされる利益は莫大なものになるというのに……」

 どうやら二人は少女をテールズの皇太子と結婚さてたいようです。

「それもあるが、我が清らかな王族に異界のものを入れるなど……」

「それに……異界のものを召喚するのは禁術です。バレたらどうなるか……」

 国王は迷った末に、ユウを異世界から召喚したことを知っている一握りの人間に召集令を出しました。

「やはりあの勇者は帰ってきたら殺すべきだ。私は最初からそう申し上げておりました」

 恰幅の良い初老の大臣はそう言いました。

「しかし、彼はこの国を、この世界を守ったのですよ!」

 この中ではまだ若い中年くらいの大臣がそう反論します。

「しかし、あの男がいる限り、姫さまは結婚をなさらないでしょう」

 宰相がため息をついて言いました。

「それでは、勇者の幸せをを保証する代わりに姫さまに結婚をしてもらうというのはいかがでしょう?他国に嫁ぐのであれば、浮気の心配もないでしょうし」

 この場で唯一の女性大臣が言いました。

「我々が一番に心配すべきはそこではない。そうですでしょう、国王陛下」

 魔術師長が重く、ゆっくりと言いました。

 その言葉に国王は深く頷きました。

「私が懸念しているのは勇者がこの世界の者では無いとバレることだ。勇者は非常に珍しい黒髪にこれまた珍しい黒目だ。両方が黒の人間なんてそう存在しない。それに、勇者は今後我が国最大の戦力となるだろう。そんな人間を他国が見逃してくれると思うのか?」

「大昔の資料に、異界から召喚した人間の中には黒目黒髪の者が多かったとも記されております」

 魔術師長が国王の言葉に補足しました。

「悔しいが、我が国の戦力を足しても勇者一人の力には届かない。しかし、裏を返せばそれほど強力な戦力がある、ということ」

 騎士団長が抑揚のない声で言いました。

「つまり、バレてしまっても戦力でねじ伏せることが可能と言いたいのか?」

 恰幅の良い大臣が嘲笑うように言い、追い討ちをかけるように付け足します。

「しかしそれは不可能に近い。我が国の勇者を抜いた戦力は世界でもそれほど強力なわけではない。たとえ勇者がいようとも世界中の国家を相手に戦えるわけではない。それに禁術を犯したとなれば第一にあの国が動くだろう」

 その場にいる全員が、表情を固くします。

 そして誰かが小さく「ゲリュー帝国か……」

「奴らは比較的近くて豊かな土地にある我が国を狙っていると噂だ。奴らの戦力に比べれば我が国の戦力など……」

 恰幅の良い大臣は騎士団長と魔術師長を見ながら非難するような声色で言いました。

「し、しかしこちらには勇者がいる」

 若い大臣がそう言いました。

「帝国は何をしてくるか分からない。奴らはどんな卑怯な手も躊躇せずに使ってくる」

 騎士団長はやはり抑揚のない声で事実を告げました。しかし顔は暗くなっています。

「ここは他国にバレる前にこちらで処理するのが最適でしょう。勇者と言っても全知と言うわけではあるまい。殺意を隠せば殺すことも容易いでしょう」

 恰幅の良い大臣が勝ち誇ったように言いました。

 若い大臣は不服そうだったが、誰も反対はしませんでした。

 それからは簡単にことが運びました。

 決行したのは魔王城のある魔族の森から一番近い小さな集落でした。国から雇われたのは平凡な男の村人で、男は大金を目の前に垂らされて躊躇いなく勇者達が泊まる予定である村長の家の井戸に毒を入れました。それは少しでも体内に入れると30分も経たずに死ぬという強力な毒薬でした。勇者が目的を果たし無事に生還した、ということで村の中は誰もが皆浮かれていて、男の不審な行動には誰も気づきませんでした。

 そして夕方、勇者たちには毒入りの水を使った料理が振舞われました。

 勇者と共に食事をしたいと、村の殆どの人が村長の家で勇者と同じ食事を口にしました。その為、生き残っていたのは毒を入れた男と、自宅で食事をした数人のみでした。

 毒を入れた男は王国の暗殺者によって殺されました。




 夢から覚めた少女はしばらく呆然としました。意味がわからなかったからです。大好きな父が裏切ったことを。そして何より、自分が大人しく結婚しなかったから勇者が殺されたということに。

 少し時間が経ち少女の瞳から涙がこぼれました。しかし悪魔は泣き止むのを待たずに言います。

「コレガスベテダ。ユウシャハ オマエノセイデシンダンダヨ」

 悪魔は少女を見て心底嬉しそうに笑います。

 しかし少女には反論する余裕すらありませんでした。

 悪魔はひとしきり笑うと、言いました。

「サァ ケイヤクドウリ マジョニナレ」

 少女は頷くしかありませんでした。


 悪魔は自分の指に少しだけ傷をつけると、ジワリと青色の血がでてきました。そして、その指を少女の口に近づけます。少女はぼーっとしたまま指についた青い血を口に含み、飲み込みます。

 その瞬間、少女の体が激痛に襲われます。きっとアレほどの痛みはこの世に存在しないでしょう。しかしその激痛も少し経てば治りました。

「ヤッパリ オマエハ ソシツガアルヨ」

 悪魔はニヤニヤと汚らわしい笑みを浮かべます。

 少女はついに魔女になりました。

 楽しかった思い出も、嬉しかった思い出も、全てが悲哀と憎悪に変わっていきます。しかし、少年との思い出は輝かしいままです。

 そして少年以外の思い出が暗くなり、目に見える者が白黒になったとき、少女の中身が放出されました。少女を中心に大規模な爆発が起こりました。王宮はおろか、王都中を巻き込み、次に少女が目覚めたときには辺り一面瓦礫の山となっていました。しかし不思議なことに、少女の部屋の壁と天井以外は綺麗なまま、空に浮いていました。


 恐ろしいほどに変わり果てた王都を見て、悪魔も少し驚いた様子でした。そして悪魔ほんの一瞬だけ怖いものを見たような瞳を私に向けました。しかしすぐに、いやらしい笑みを浮かべると少女に手招きしました。

 少女が付いていこうとすると、足の代わりに床が動きました。そして少女は部屋ごと悪魔について行きます。下を見ると、王都は炎に包まれて、家だったものは色も素材もぐちゃぐちゃに散らばっているし、人の体も跡形もないくらいに分解されていて、ただの肉塊のようでした。

 以前の少女なら恐怖であったその光景すらも、今の少女にとっては何でもないような、興味がないだけなのか、どんな感情も湧きませんでした。ただ、王都が潰れたという事実だけが少女の脳内に残りました。

 爆発の被害は王都とそれ以外を分ける防壁にすら壊れるほどの衝撃でした。壁は崩れ、壁の向こうの森林の木もながらなぎ倒されていました。ですが、恐らくここら辺は爆風だけだったのでしょう。燃えている場所はありませんでした。

 悪魔は森に入りました。決して入ってはいけないと言われていた魔法の森です。その奥の奥、先ほどまでの惨状が考えられないほどに生い茂った木々の上空で悪魔はようやく止まりました。

「オマエハ キョウカラ ココデクラセ」

「ここ、とは?」

「ココノキ オマエのヘヤノスペースブンアケテ。マホウ ツカエバ スグオワル」

 少女は言われた通りに魔法を使ってきを消し、空いたスペースに壁も天井も無い部屋を入れました。

「オマエホドノマリョクナラ ジンウニイエヲ ツクレルダロウ」

「そうなのね?普通に魔法を使うのと同じようにすれば良いの?」

 少女が聞くと、悪魔は頷きました。

 少女は、昔ユウと読んだ絵本で見た素朴な小さな家を思い浮かべながら魔法を使いました。すると、一瞬であの絵の通りの窓が出来ました。外に出ると、まさにあの素朴さが見事に再現されていました。

「コンナチッコイイエデイイノカ?」

「ええ、昔見たあの家にそっくりだわ」

 少女は思わず口角を上げます。そして、自分にもまだ嬉しいという感情があったのか、とハッとしました。

「私、さっきので感情が無くなったのかと思ったのだけれど、そうでもないみたい」

「オマエノ ゼツボウノモトハ キエナイ」

 絶望の元。つまり、ユウへの恋心。

「でも、思い出は全部無くなったわ。でも、何故かしら?ユウとの思い出はすごくはっきりと残っているの」

「ソイツトノオモイデハ オマエノゼツボウと ツナガッテ イルンダロウ」

「へぇ……」

 少女にはよくわかりませんが、悪魔がそういうものだと言えば、そういうことなのでしょう。

 少女にふと、ある疑問が浮かびました。

「ねぇ、あなたはどうしてこんなにも私に世話を焼いてくれたの?」

「……オマエ サスガニスコシ カワイソウダカラナ」

 少し悩んだ後、悪魔はそう答えました。

 少し二人で家を眺めてボーッとしていたら、悪魔な小さく言いました。

「ココカラ モウスコシ オクノ ドウクツニ オマエノ ゼツボウノ モチモノガアル」

 それだけ言うと、悪魔は木の影の暗闇に消えて行きました。

 少女はすぐにそこへ向かいました。洞窟といっても小さな洞穴のようで、最近までここで魔法の実験でもしていたのか、難しげな魔法陣がたくさん残っています。

 洞穴の奥につくと、一際大きな魔法陣の中心に聖剣が突き刺さっていました。そして、その聖剣の柄の部分には少女が縫った刺繍が入ったハンカチが巻いてありました。

 少女はとても嬉しくなりました。慣れない刺繍をして手がボロボロになったのも、今では鮮明に思い出せます。

 少女はその剣に触れようと手を伸ばします。しかし、触れた瞬間指にビリビリと痛みが走りました。少女は何度も何度も触ろうとしますが、無理でした。少女は穢らわしい魔女になったので、勇者が使う『聖剣』には触れられないのです。

 魔法で聖剣を持ち上げようとしますが、やはりピクリとも動きません。

 少女は諦めて家は戻りました。しかしその後も毎朝聖剣の元へ通い続けています。聖剣の中に彼がいるような気がしたから。



 女は話し終わると一つ息を吐き「どうだった?」と僕の目を見て聞いてきた。

「これはお前が体験したことか?それに、やけに詳しく覚えているんだな」

 僕は警戒を解かないままそう女に問いかけた。

「えぇ、何度も何度も夢で見たもの。何百年も、同じ夢を。それにしても、よくわかったわね」

 女は面白そうに言った。

「不自然な三人称だったからな」

 僕は心の底から女を嘲笑してやる。

「……私のことだとわかっているなら話しは早いわ。聖剣は私の大切な物なの。だから、諦めて頂戴。それとも……貴方、自分が魔王を倒せるか不安なの?」

 女は僕を馬鹿にするように言った。

「はぁ!?勝手なこと言わないで!勇者はとっても強いんだから!あんたなんかより!」

 シロは叫ぶように言う。

「……そうだな。今回ばかりはお前に同意だ」

 いつも冷静なクロも声に怒りを滲ませて言った。

 まさに一発触発という雰囲気になる。

 僕は腰にある剣を鞘から抜き出し戦闘態勢になる。

「こっちにも未来がかかってるんでね」

 その言葉で女、魔女との戦闘が始まった。

 こっちは国でも最強と呼ばれる人間しかいない。対して魔女は、いくら強かろうと一人だ。

 これまでの旅で鍛え上げられた僕達の連携攻撃に、魔女は防戦一方だ。


 そしてついに、僕の剣で魔女の心臓を貫いた。中から真っ黒な血液がドロドロと流れ出てくる。

 鼻が曲がりそうな程の腐臭にシロは思わず吐いてしまう。クロも耐えてはいるが、時間の問題だろう。

 僕は屈んで静かに瀕死の状態の魔女を眺める。

「なぁ、お前の人生はそれで良かったのか?」

「どう……い、こと」

 魔女はたどたどしく僕に聞く。

「お前は……魔女になったことを後悔しないのか?」

「し……ない……。わた…しの……しあわせは……かれと一緒……いるこ、と……だか、ら」

 魔女は笑った。弱々しく、しかし少女のように可憐に。

「……そうか。じゃあ帰ったら伝えとくよ」

 魔女はもう、僕の言葉に応えることはなかった。

「行くぞ、聖剣を取ったら魔王城だ」

 僕は魔女の家を出て行く。シロとクロは慌てて僕についてくる。



「ねぇユウリ。ユウリが帰るときは、先代みたいに私達を殺すの?」

 シロは悲しそうに僕に聞いた。

「そんな訳ないだろ。僕をあの人と一緒にしないでくれ」

 僕は少しムッとしながらシロに返す。

「まぁ、彼女も可哀想だよね。ずっと死んだと思っていた人が生きていて、結婚して子供までいるなんて」

 クロは魔女の家へ振り返ってそう言った。

「しかし驚きだな。悪魔にも同情されるって……。あの人は何をしてるんだよ」

 話しているうちに洞窟へ着いた。

 僕が洞窟の中に入ろうとするとシロが僕の腕を掴んだ。

「ねぇ……やっぱり寂しいよ。本当に魔王を退治したら帰っちゃうの?」

 シロは瞳を潤ませながら言った。

「あぁ。一応僕にも心配してくれる人がいるし」

 僕は地球にいる家族や友達のことを思い出す。

「シロ、あまりユウリを困らせるな。……それに、僕達で絶対に発見するんだろ。聖剣を使わずに地球に行く方法を」






最後まで読んでくださり有難うございました。


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