金髪の頭に壷
てきとう
まずい。脱走したことがばれてしまった。
「えっ?まさかあの憲兵所を脱走したの!?
「わたしの報酬はどうなるッ!?」
やばいな。これではまた牢屋に逆戻りだ。
しかし認めよう。この青髪パーマは俺よりすばやい。力はきっと俺の方が上だが、すばやさは確実にあちらの方が上だ。この世界はどうやらすばやさにアドバンテージがあるようだ。
「ちょっ、ちょっと、ヤバイよ!?あの牢屋から脱走できるって!絶対まともじゃない!もしかしたら本当はヤバイ魔法でも使うんじゃ!?」
「だ、だがさっきわたしが切った時にはなにもしなかったぞ!?致命傷を与えても何もなかったんだから大丈夫だろ!?」
なんだか金髪の方が急にびびり出す。また牢屋に戻ることになれば俺は死んでしまう。
助けて金髪。
がんばれ金髪。お前がナンバーワンだ。
俺の財宝か?欲しけりゃくれてやる。だから助けて。
「でも呪いのような魔法を使うって聞いたし、発動条件にダメージを受けるってことが多いらしいし」
「なんだと!?じゃあなにか!わたしは呪われるというのか!?お金ないのに!?」
「の、呪いの解除って私じゃ無理だから高神官しかできないからね!?たしか治療費が100万・・・」
「ひやっ、百万だとッ!?」
「高神官になれば治療の単価が上がるから一生懸命勉強したんだから間違いないよ!落ちたけどねッ!」
金髪の百万が聞いたのか青髪は急に振り返り、脱兎のごとく逃げていった。
「ちょっ、ちょっと!」
すると後を追おうとした金髪女が地面につまづき転んだ。
「お、置いてかないでッ!呪われるっ!呪われちゃうっ!」
「お前が回復させたんだから自分でなんとかしろ!」
「薄情者ーーーッ!」
すっ転んだ金髪を尻目に青髪は脱兎のごとく逃げていく。さすが素早さゲー。もう見えなくなった。
下を見るとずりずりと匍匐前進している金髪。どうやら腰が抜けたようだ。
しかしこの金髪は何度も俺の命を助けてくれた恩人だ。青髪パーマならともなく命の恩人に対して俺はなにか悪いことをしようとは思わない。
「お、おい」
「ひっ!の、呪わないで!わ、わたしはお金がないから呪われたら死ぬしかないのッ!だから人助けだと思って見逃してッ!バーバラのやったことは謝るから!それに回復魔法かけてあげたじゃないッ!一応わたしは神官だから正式に回復魔法をかけたら1回500Gはかかる所をタダでやってあげたんだから見逃してくれてもいいと思うの!」
なにやら必死に命乞いをしている。
「う、腕の悪い神官だから500Gはボッタクじゃないとかそういうことを思ってるの!?た、たしかに腕は悪いし今だBランクの冒険者だけど一応善意で助けたわけだからそういう損得勘定はよくないと思うな!世の中助け合いって子供の時に教わったでしょ!?」
どうにも話が進まない。どうしようか?こういうヒステリックを起こしてる女にまともな会話は無理だろうな。
「お、お前に呪いをかけた。し、死にたくなかったら俺の言うことを聞け」
「えっ!う、うそっ・・・そ、そんな・・・」
まずは相手を冷静にさせるのだ。死の危険が迫れば相手の言うことに耳を傾けるはずだ。
「びええええええッ!ひどいッ!ひどいッ!ひどいッ!ひどすぎるぅぅぅッ!どうしてそんなことするのぉぉぉぉぉッ!わたしはなにもしてないじゃないぃぃぃぃッ!」
やっべ、ヒステリックが進化した。Bボタン押したい。
~
「あ、あんまりだよ・・・わ、わたしがなにしたっていうのよ・・・」
「お、俺の話を聞け」
「ひっ!」
金髪が少し冷静になってきたところで話をしようと提案する。人間は話せば誤解は解けるのだ。俺は平和的な会話を望むハトのような男なのだ。
「お、おれは今隠れる場所を探している。お、お前は俺を匿え、そ、そうすれば命だけは助けてやる」
衣食住の全てが不足しているがまず住む場所を確保することにする。着るものより食べるものより住む所が一番大事なのだ。
「す、住む場所って、そ、それに呪いを解けるの!?き、君が神官には見えないけど・・・法衣どころか何も着てないし・・・」
まずいな。呪いって神官じゃなきゃ解けないのか。
「お、おれは自分の呪いは自由自在に解除できる。そ、それよりどうなんだ!殺すぞ!」
「わ、わかったっ!匿うから!殺さないでッ!」
スムーズで平和的な会話。遥かなるコミュニケーションの能力がここでも発揮されているな。
そうして金髪は震える足で俺を汚ねぇ小屋へ案内する。
「こ、ここはわたし達が使ってる小屋だから」
こいつ等貧乏だったのか。こんな汚ねぇ小屋に住んでるとか。そういえばさっきも呪われたら100万が払えないって言ってたしな。
「ね、ねぇ?呪い解いてくれるんでしょ?」
「お前が俺の言うことを聞き続ければ、か、考えてやる」
「そんな!今解いてよ!言うこと聞くから!」
なんかこいつ冷静になってきたな。ちょっと態度がでかくなってきてやがる。さっきはあんなにビビッていたくせに、呪いなんて嘘でとりあえず冷静に話をと思ったが、嘘だとばれたらまたまともに話ができなくなってしまうかもしれない。
そうなったら面倒だな。衣食住がそろうまでは呪いのことを信じてもらわねば。
「じゃ、じゃあ後ろを向け。呪いを解いてやる」
「ほ、本当!わかった!後ろを向けばいいのね!」
言われた通りい後ろを向く金髪。こいつは貧乏に加えてアホなんだな。アホだから貧乏なのかもしれない。可逆性貧乏。後ろを向いた金髪に俺はその辺りにあった重たそうな壷を持ち上げて頭へ向けて振り落とす
「ふがッ!」
頭から鈍い音を鳴らし金髪は倒れこむ。よしなんとか呪いのことを先送りにできたぞ。さて後はどうしよう。考えてなかった。
まぁなんとかなるだろう。ならなければこいつを殺すしかない。やばい、最悪の事態だ。