チートスキル発動
適当
おかしい、俺の遥かなるコミュニケーションが発動しない。
遥かなるコミュニケーション発動中。なう。とつぶやきたいがなうだ発動しない。
どういうことだ?なにが間違っている?ただいま殴られ中。なう。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオーラッ!」
「ひぶぁああッ!」
血反吐を吐きながらの実験も効果なく牢屋の中でへこんだ黒パン生活を強いられている。
政治が間違ってるのは世の常だがさすがに俺のチートスキルにも関係があるとは思えない。
だが一体何が悪いというのだ。民主党か?
ていうかそろそろ体力がやばい。これほど実験に・・・・・・実験・・・
「もっとこいオラァッ!」
殺す
なんか急激な殺意が沸いてきた。
この世界。なにが異世界だボケ。ていうかここにぶちこんだあの青天パと金髪ファック。まじ殺す。
そして目の前にいるこの腐れポリスメンマジぶち殺し
チートスキルコラッ!さっさと出ろコラッ!ためしにこいつの顔面殴ってやろうか!
やってやるぞコラッ!やってやるぅ!
「死ねオラァッ!」
えっ?なんでこいつの方がキレてんの?死ねとか言ってるぞ!?やばい!殺される!
「・・・っ!ぅ、ぅぁぁあああああっ」
「あ?」
見事に炸裂した俺のチートスキル!
親指を握り込み、両足は揃えて、手首は内側に曲がっている完璧なポーズから放たれた俺の右ストレート
相手の顔面を見事に捕らえ、そこに響くは乾いた音。
例えるのなら「ぺし」って音、例えるまでもない。
「てめぇ・・・なに反撃してんだコラ?」
「ッ!」
おっかなびっくり、チートスキルは売り切れでした。閉店ガラガラ。
oreの人生see you agein!
だがそんな俺の思考を打ち切るように、次の瞬間ッ!
ポリスメンの放つ拳は今までとは違う急所を的確に狙う腰の入った正拳突!
そこにあるのは正中線!陥没する鼻!折れる前歯!
吹き飛ぶ身体!頭に響く鈍い音!壁に強く打ち付けられた!
飛んでくる膝!まるでバスケットボールのように弾む後頭部!
いたる結果は脳挫傷!鼻血飛沫が空を舞う!
遊びで手加減していた今までとは違う殺意ある連続攻撃!
これはたまらんッ!まさかの人生2回目の死か!
そう、俺は誰もやったことのない元の世界と異世界での2回の死亡事故を味わうのだ。
土下座もした。命乞いもした。靴の裏でパンも食べた。やれることは全てやった!
それでも待っているのは無常なる死。辛い。
自分ではどうしようもないことを悟りながらも必死の抵抗で亀のポーズ。上空からの殴る蹴るに耐える。
そして耐える続けていればしだいに痛みもなくなってくる。ほら、だんだんと痛くなくなってきた。
これはあれだ。熱湯に10分も浸かれば熱さを感じないという領域だ。ついにこの領域まで俺はこれたのかッ!
むなしい。
もうひと思いに殺せと、顔を上げてみると、今の今まで俺のことをゲームコントローラーじゃないかと思うくらい雑に扱っていたポリスメンは床に伏せ大量に血にまみれ倒れていた。
「あ、あれ?も、もしかして、や、やったのか!?」
なぜか相手が起き上がってきそうな言葉をつぶやきながら俺は立ち上がり、腐れポリスメンの顔をつま先で突いてみる。
どうやら反応がない。本当に死んでいるみたいだ。悪魔の証明を証明したような気分だ。
や、やったぞ!どうやら本当に俺のチートスキル”遥かなるコミュニケーション”は発動したみたいだ!どういう原理かわからないが相手を即死させる効果のようだ。
いや、慎重に考えろ、あの時俺は反撃の右ストレートを相手の顔面に叩き込んだのだ。
もしかして身体強化系か?まだまだ実験が必要だな。
ともあれ、俺はなぜか回復している身体は都合よく気にしないでおいて、ポリスメンから牢屋の鍵を抜き取り足早に離れていった。
・・・
牢屋から抜け出し、都合よく誰にも見つからずなんとか街へ出た俺。
平原→牢屋→街。と言うまるで役所の事務手続きのようなたらい回しを受け、ようやく一息がつけた。
「きゃぁあああ!あの人裸よ!」
「なんだ!変質者か!」
一息はつけなかった。俺は今裸だったのだ。まったくこれだから役所仕事は。
世知辛い世の中に憂いながら俺はとりあえず裸でも多分大丈夫そうなスラム街がありそうな場所を目掛けて走るのである。
~
ここはスラム街。貧乏が極まった無法地帯である。
そこにある路上の影に金髪外人のエリーと青髪パーマのバーバラは先ほど屋台から盗んだ牛の串焼き十数本を二人で食べながら言い争いをしていた。結構がっつりと盗んでいた。
「うまいうまいうまい」
「おいしいよー・・・でも我慢しろって言った癖にまた盗むなんて、あ、もうなくなっちゃった」
「お前だって食ったんだ。共犯者が!偉そうに!説教を!するな!泥棒の!分際で!」
「それはあなただけでしょ!わたしはこれが盗んだものだって今知ったんですー」
「嘘つけ!わたしが盗んだ瞬間わたしより先に逃げた癖に!それにどうせスーパーごぶりん一体じゃ宿代の足しにもならないんだ」
「あの、邪教徒?の報酬が出るんじゃなかったの?」
「いつ出るかわからない金より、目の前の串焼きだ」
極貧生活の中この二人はこうしてたまに泥棒を働き飢えを凌いでいた。
「はぁ、冒険者やめようかな」
「やめてどうする気だ?お前なんかどこも雇ってくれないぞ?手癖の悪い三流冒険者なんかな」
「それはあなたでしょ、わたしは泥棒"は"したことないし」
「その腹黒さを皆が知らないとでも思ってるのか?自分は手を汚さず飯にだけありつきやがって!」
「わたしは後衛の神官なんだから当たり前でしょ?手を汚すのは前衛の仕事よ?それが神の定めた宿命。それよりわたしは串焼き6本しか食べてないんだから、迷える子羊よ。わたしのために串焼きをもう2,3本盗んでくるのです」
「この不良神官が!ビッチの癖に神を語るな!神に裸で土下座しろ金髪クソビッチ!」
「だれがビッチよッ!羊水腐れババア!」
「こいつッ!?自分のことを棚にあげてッ!?」
二人の犯罪者がお互いの罵りあっている時、ふとエリーがなにかに気づいた。
「荒野に転がるカラフルなゴミが頭に・・・ねぇ?あれなに?」
「おい、貴様、今わたしの髪のことを言おうとしたのか?え?おい?この素晴らしい髪形のことを言おうとしたのか?」
「そんなことよりあれを見て」
「そんなことだとッ!?・・・なんだあいつは?裸でゴミ箱を漁ってる変質者か?スラムとは言え世も末だな」
「というか、あれ邪教徒君じゃないの?」
「なんだと!?」
二人の視線の先にはゴミ箱をあさる裸の男が居た。
・・・
ちくしょう。ゴミ箱の中にゴミすらない。
とりあえず着るものを探すためスラムッぽい所まで来たのはいいが、まさか衣類どころかゴミすらないとはスラムを舐めていたな。
人間生活をしていればゴミは絶対でるものだろう。それがなんということか、スラムはエコだった。
世界が全てスラムならば争いは起こらないのかもしれない。地球にやさしい。それがエコスラム。
それにしても、異世界にきて物語が始まるって言うのに着るもの一つ探すのにこれほど苦労するのか?
今の俺の装備といえば牢屋の鍵だけだ。
裸一貫、牢屋の鍵を持って「これ一本でやってきました」って町工場のCMじゃあるまいし。せめてパンツくらい履かせろ。
大体このままじゃR指定に引っかかるじゃないか!馬鹿にしやがって異世界めッ!
「おいそこのゴミ箱ッ!」
ふいに声が聞こえる。もしかして神様か?さすがに着るものも無いんじゃR指定に引っかかるもんだから
とうとう姿をあらわしたのか?それにしてはなぜ俺の昔のあだ名を知っているのだろうか?
ああ、神様だからなんか俺の生前記録でも読んだのか。納得。
ゴミ箱から顔を抜くと目の前には青髪パーマのクソ女と金髪のクソ女が居た。神様が現れたと思ったのだがどうやら俺を牢屋に突き出した憎きクソ女共が居た件について。野郎!ぶっ殺してやる!
「・・・っ!ぅ、ぅぁぁあああああっ」
「ッ!?なっ、貴様ッ!」
咄嗟に剣を構える青髪女。しかし俺のチートスキル”遥かなるコミュニケーション”で貴様の脳髄を破壊するほうが先だ!
「ちょっ!おちつきなよ!」
「邪魔だ!こいつがいきなり襲ってきたのだ!今度こそ切り殺してやる!」
「ヒュー、ヒュー」
胸にⅩの傷、地面にⅩで倒れる俺。やべー裂傷を胸に負いながら空を見上げている。
俺のチートスキルが発動するより早く青髪は俺に致命傷を負わせた。動機息切れ死への恐怖。
一日に何回死の危険に合えばいいのだろう。ギネス記録を申請したい今日この頃。
「大丈夫!?今治療するから!」
明らかに致命傷と思われる俺の傷に手をかざすと周囲が光始めた。これは魔法か?
「・・・ふぅ。ねぇ君?起きれる?」
金髪女が俺を促す。俺は金髪クソ女のおかげでどうやら一命を取り留めたようだ。
「ごめんね。わたしあんまり優秀じゃないからこれが精一杯だよ。跡は残るけど傷はなんとか塞いだよ?」
えっ?これ跡が残るの?どこかのバンドのファンだと思われない?
「ちっ、まぁいい、おいゴミ箱!今度妙なまねをしたら本当に切り殺すからな!」
青髪パーマのその物言いに殺意が芽生えるが、今は我慢してやる。よかったな俺がフェミニストで。
「ところで君、憲兵所にいたはずだよね?出られたの?」
「っ!そうだ!報酬はどうなるんだ!」
やばい。もし脱走したことがバレたらまたポリスメンに突き出されてしまうんじゃないか?。
こうなったら隙を見て”遥かなるコミュニケーション”を叩き込むしかない。
だがバレるまで後何秒だ?5秒か?なら問題はない。光の速さでバレない限り俺は今から打開策を構築することが可能な男だ。
ちなみに光の速さとは時間のことだ。3000光年とか言うくらいだからな。多分1光年10秒くらいだ。
「あれ?君なに持ってるの?」
「鍵か?もしかして牢屋の鍵・・・はっ、貴様!脱走してきたのか!」
唯一の装備のおかげで光の速さで脱走がばれてしまった。