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明治怪談  作者: 石田倫理
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第七話 雪女

「ある冬の日のこと、吹雪の中帰れなくなった二人は、近くの小屋で寒さをしのいで寝ることにする。その夜、顔に吹き付ける雪に巳之吉が目を覚ますと、恐ろしい目をした白ずくめ、長い黒髪の美女がいた。巳之吉の隣りに寝ていた茂作に女が白い息を吹きかけると、茂作は凍って死んでしまう。

女は巳之吉にも息を吹きかけようと巳之吉に覆いかぶさるが、しばらく巳之吉を見つめた後、笑みを浮かべてこう囁く。「お前もあの老人(=茂作)のように殺してやろうと思ったが、お前はまだ若く美しいから、助けてやることにした。だが、お前は今夜のことを誰にも言ってはいけない。誰かに言ったら命はないと思え」そう言い残すと、女は戸も閉めず、吹雪の中に去っていった。

それから数年後、巳之吉は「お雪」と名乗る、雪のように白くほっそりとした美女と出逢う。二人は恋に落ちて結婚し、二人の間には子供が十人も生まれた。しかし、不思議なことに、お雪は十人の子供の母親になっても全く老いる様子がなく、巳之吉と初めて出逢った時と同じように若く美しいままであった。

ある夜、子供達を寝かしつけたお雪に、巳之吉が言った。「こうしてお前を見ていると、十八歳の頃にあった不思議な出来事を思い出す。あの日、お前にそっくりな美しい女に出逢ったんだ。恐ろしい出来事だったが、あれは夢だったのか、それとも雪女だったのか……」

巳之吉がそう言うと、お雪は突然立ち上り、叫んだ。「お前が見た雪女はこの私だ。あの時のことを誰かに言ったら殺すと、私はお前に言った。だが、ここで寝ている子供達のことを思えば、どうしてお前を殺すことができようか。この上は、せめて子供達を立派に育てておくれ。この先、お前が子供達を悲しませるようなことがあれば、その時こそ私はお前を殺しに来るから……」

そう言い終えると、お雪の体はみるみる溶けて白い霧になり、煙出しから消えていった。それきり、お雪の姿を見た者は無かった」


小泉八雲の「怪談」で書かれた「雪女」である。小泉八雲が書き記したこの話は東京都の今の青梅市で語り継がれていた伝説のようだ。

他の地域でも雪の深い、長野県や新潟県、山形県にも雪女伝説は存在する。

死装束を着たぞっとするほど美しい女から、子供を抱いてほしいと頼まれ、抱くとどんどん子供が重くなる。その重さに耐えきったものには怪力が授けられるという産女の要素をもった雪女や、小正月の夜、または満月の夜、山から降りてきて最初の卯の日に帰るという歳神様のような性格をもった伝承もある。また山形県の県南の小国地方では「雪女は月の国の姫で、雪とともに地上に降りてきたが、月に帰ることができず、雪の降る晩にさまよい歩いている」という「かぐや姫」を想起させるような伝承も残っている。


雪女の伝承は多くあるが、死装束を思わせる白い服、ぞっとするほど美しい容姿、雪の降る晩に現れるといった要素は一貫している。その正体は不明であるが、凍死した女の霊や、雪の精霊とされる場合が多い。また雪がもつイメージと重なるため、どこか儚げであり、小泉八雲の「雪女」などの異類婚姻譚としては悲恋として描かれる場合が多い。

今でこそ寒さや雪が人間の生死にかかわることは少なくなってきたが、昔の人にとっては畏怖すべき対象であり、その畏怖が形をもって現れたものが雪女なのであろう。


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