第五話 偽汽車
明治時代の怪談といえばこれ!というくらい有名な怪談「偽汽車」について書きました。
話は脱線して、鉄道の怪異にも触れています。
明治時代、夜に汽車を走らせていると、反対方向から汽車が走ってくるという怪事件が続いた。初めのうちは機関士も汽車を止め、注意深く確認をしていたが反対方向からの汽車は一向にやってくることはなかった。ある晩、一人の機関士が反対方向からやってくる汽車の気配にひるまず、スピードを緩めることなく、突っ走っていったら汽車はぶつかる直前に煙のように消えてしまった。翌日不思議な汽車が現れた場所を調べると大きな貉が死んでいるのを見つけることができた。この貉が汽車に化けていたということが知れ渡った。
明治時代の有名な怪談話である「偽汽車」。偽汽車の正体は貉ではなく狸や狐とすることもあるが、変化するとされる動物であることは一貫している。
偽汽車の歴史をたどると、大正時代にはすでに偽汽車という名前で語られていたようだ。佐々木喜善の「東奥異聞」には「偽汽車の話」という怪談が収録されている。
「偽汽車」では、人間が汽車を走らせたことにより、その地に元々住んでいた狐狸の類が住処を奪われたことで、人間への反逆のため汽車に化けたのだ、というように文明に対するアンチテーゼの物語として語られる場合が多い。また鉄道は当時の最先端の技術の産物であったため、もの珍しさから、そのような怪談が語られたのではないかとも考えられる。
現代日本において、鉄道は日常生活に組み込まれているが、鉄道を題材にした怪談は多く存在する。有名なのは「きさらぎ駅」だろう。
ある女性が帰宅途中の電車でいつもは数分間隔で停車する電車が20分以上停車をしていないことに気づく。不安になり始めた女性は停車した駅に降り立つ。その「きさらぎ駅」という見たこともない無人駅ではどこからか太鼓の音が聞こえ、この世界の空間ではないような怪しさがあった。電子掲示板に書き込まれたこの話であるが、女性の書き込みは唐突に終わり後味が悪いものとなっている。
このような「異界駅」の話は類話が多く、また「アケミちゃん」のような電車内に出没する怪異、踏切事故をテーマにした「てけてけ」など枚挙にいとまがない。
鉄道でどこまでも行けるがゆえに、自分が知らぬどこかへつながってしまうのではないかという不安、また鉄道自殺が多いこの国の鉄道がもつ「死」への近さからそのような新しい怪談が登場しているのかもしれない。