第四話 小泉八雲避暑の家
愛知県犬山市の「博物館 明治村」の「小泉八雲避暑の家」が今回のテーマです。怪談の巨匠のゆかりの建物にまつわる怪談話とは…?
愛知県犬山市の「博物館 明治村」は明治時代の教会や病院、学校や芝居小屋など明治時代の建築が移築・展示されている野外博物館である。第2話で触れた「西園寺公望別邸「坐漁荘」」のような、明治時代偉人のゆかりの建物も多く展示されており、歴史好きにはたまらない施設となっている。
そんな「博物館 明治村」には日本怪談文学の巨匠、小泉八雲が東京帝国大学、早稲田大学で教鞭をふるっていた時期、夏の期間だけ一時的に身を寄せていた「小泉八雲避暑の家」がある。明治初年度に静岡県焼津市に建てられたこの家持ち主の名は魚屋の山口乙吉という。八雲は「乙吉の達磨」や「焼津にて」という小説を執筆しており、避暑地として過ごしていた焼津での体験を元に書いたと思われる作品をいくつか残している。
「博物館 明治村」では、「小泉八雲避暑の家」の1階を駄菓子屋の店舗として利用されており、1階部分のみ常時見学することが可能である。等身大の小泉八雲のパネルや、年表が展示してある。
その「小泉八雲避暑の家」にはこんな怪談話がある。
「小泉八雲避暑の家」で駄菓子の買い物をしていると、2階でドタドタと人が小走りするような音がしていた。いやに耳につく音だったので、お店の人に今2階で何かものを運んだり作業をしたりしているのか、と興味本位で聞いてみた。すると、今は2階に誰もいないし、何の作業もしていないが、どうしてそんなことを聞くのかという。
足音が聞こえることを伝えると、駄菓子屋の店員の顔が一瞬こわばった気がした。
「古い建物だからねずみいるのでしょう、あとで様子を見てきますね」
もちろんそういうこともあるだろう。ただ、ねずみにしてはやけに音が大きく、ねずみよりももっと大きい何かがいるのではないか――。そのような疑念が湧いたが、誰もいないと店員がいうところで疑ってかかるのもよくない話だ。
駄菓子の会計を済ませ、建物の外に出る。何の気なしに今まで買い物をしていた「小泉八雲避暑の家」の二階を見上げると、雨戸が少しばかり開いているのが見受けられた。
やはり2階に誰かいたのだろうか。すると一瞬のこと。開いている雨戸の隙間の前を横子供が横切ったのである。私は合点がいくのと同時に全身の肌が粟立つのを感じた。2階から聞こえた足音の正体は、あの子供のものである。ねずみより大きい大きさのものが駆け回るような音だったから、間違いない。ただ、そうであるとするなら、あの子供はなんなのか。店員は誰も作業をしていないというし、一般客が見学できない2階にどうして子供が入れるのか。真夏であるのにうすら寒さを感じる出来ごとだった。