過剰愛
「ふぃー...疲れたーっと...なんで新人の私がここまで働かなかんのだ...」
金曜の夜9時頃。就労による疲労が感嘆に表れる。
コンビニに寄って一人で晩酌する為の酒とツマミ、弁当を買って帰路に着く。
歩いていると、後ろの方からウーウーと消防車のサイレンが鳴っている。
(どこかで火事かあ。こんな時間に災難な事)
すると消防車は次の角を曲がっていった。その先には私の家がある。
(もしかして、近所?)
少し小走りになって交差点に辿り着き、右を見やると、私の帰るべき場所で
消防車は止まっており、周りには人だかり。
「嘘...うそうそうそーーー!!!」
全力疾走で我が家に向かう。
「ちょ、すいません!どいてください!」
人ごみを掻き分け、テープで遮られているとこまで到達する。
目の前で消火活動に勤しんでいる消防士さんに大きな声で呼びかける
「ちょ、あの!!すみません!!ここ!!我が家!!私の!!家!!なんですけど!!」
「危ないので下がってください!!危ないですから!!」
「原因はなんなんですか!!!」
「現在調査中です!!危ないので下がって!!」
どんだけ危ねえんだよ。クッソこんな事があるか。私何もしてないのに。
グシャリと体の力が抜け、その場に崩れ落ちてしまう。
頭の中がグシャグシャだ。
その後、消火活動は1時間にも渡たった末に鎮火した。
家は家と呼べる状態を保ってはいなかった。
「事情聴取をするので警察署まで同行をお願いします」
パトカーに乗せられ警察署に行き、何時間にも及ぶ事情聴取を行った。
翌日の朝9時頃、長い事情聴取が終わった。
ただ、火事の原因は未だに不明だ。判明次第、警察から連絡をするという事になった。
やっと開放され、心身共に疲弊した状態で警察署を出る。
その先に私待ち受けていたのは、私が住んでいる町の町長さんだ。
27歳の女性ととても若いが、しっかりしてた人で住民からとても支持のある人だ。
「この度は、ご愁傷さまです。心中お察しします」
「恐れ入ります...」
「よろしければ、ご自宅までお送りしますが...」
「いえ、そんな...大丈夫ですので...」
「そんな状態のあなたを放っては町長の名が務まりません。ですので、どうか今は甘えてください。」
「じゃあ...すみませんがお願いします...」
「はい!」
自宅に着くと「あぁ...やっぱり燃えたんだな...」と今一度事実を再認識させられる。
「これから...どうしよう...」と涙交じりに呟く。
あの...と町長から声がかかる。
「よろしければ、私の家に住みませんか?部屋も空いておりますので...」
「そんな、悪いです。無理ですダメです」
「そんなに拒まなくても...ですがこれからどうするんですか?お金は?寝床は?」
実際そうなのだ...火災保険にも入っていないのでお金のアテがない。
友達もいない上に上京してきたため実家にも帰れない。
ただ...殆ど面識のない人に何の見返りもなく衣食住を提供されるのは、こちらもかなり気を使ってしまうし、相手も気を使うだろう。
「何故...私にそこまでするのですか...??町長さんになんの見返りもできないですよ??」
「見返りなんて求めてませんよ。それに先ほども申し上げたとおり、私は町長です。住民が困ったら手を差し伸べるのがあたりまえですよ」
笑顔で手を差し伸べてくる
わー...美人の笑顔ってこんなにも眩しいんだー...心が浄化されるよー
と呆けながら手を握ってしまう。
「では、行きましょうか」
「はい。よろしくお願いします。」
助手席に乗り、町長さんの丁寧な運転に揺られながら家へと向かう。
車内でお互いの事を話し合った。町長さんは独身で結婚する気もないのだと言う。
こんなに美人なのにもったいないと思うが、仕事に集中したいのだろう。
そういえば、と町長さんが思い出したかのように呟いた。
「今回の火事って、放火らしいですよ。」