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教訓

「おはよーさん!っつーわけで今週ももう今日だけになった。はやいなぁ金曜日だぜ金曜日。」

「結構戦闘なんかは初めての子には容赦ない感じの日程だったとおもうけれど、よく頑張ったわね。

それじゃあ実践的な戦闘訓練のグループ分けを貼り出します。相手が誰だかは当日までわかりませんので、気を抜かないでね。」

 

 ふわぁ……とこぼれる欠伸を手で押さえ込む。視界の端でピクリと猫耳が動いて陽菜の顔を覗きこんだ。

 

『大丈夫?』

「だ…じょぶだよ…ふあ…。」

「ずいぶん眠そうだねヒナリン?」

「ももかちゃ…うーん…なんか変な夢を見て夜中に起きちゃってね。」

「変な夢?どんな?」


 うむむ…と頭を捻る陽菜似合わせて桃華と純白の頭も傾く。それを見ていた縹が教壇からくすりと微笑んで三人にこえをかけた。

 

「こらそこの三人?夢の話も気になるけれど、まずはこっちを確認してね?今日はとりあえず班員とのミーティングなんかを主な授業時間に宛てるから。」

「あっごめんなさい…ええと救護班は…私と純白ちゃんの班が一番最初だね!」

「私は最後から二番目ね。ヒナリンたちはこれから先輩たちとミーティングになるんでしょ?」

「みんな確認したかしら?ホームルームが終わり次第解散にするから好きにしてね。それじゃ席について。」

 

 どさり、と配布物の山を崩し始めた縹にしたがって自分の席につく。椅子に座るとカサリ、と乾いた音がして指先になにかが触れた。

 ―――折り鶴…?

 和紙で2センチほどに小さく折られた鶴だ。

ちょん、と指先でつつくと僅かに―ほんとに指先ほどの―魔力が鶴にとられる。驚いてガタッと椅子を揺らすと怪訝な顔で辺りから視線を向けられた。

あはは…ちょっとほら、虫が…と誤魔化しながら座り直そうとすると、チリリ、と軽やかな音がなる。そのまま目線で隣に座っている純白を見ると、白魚のような指先が机の端を指していた。

 

『 すずね先輩の魔力 』 

「え…!」

『 しゃべっちゃダメ 』

『 先輩の魔力を感じる そのまま平静を装って内容を確認して 』

 

 さらさらと文字が流れて出る。ちら、と目線だけで此方を愛らしい琥珀がうかがったことをみとめてからそのまま腰を下ろし―もちろん若干純白に近づきつつ―開かれた鶴を見た。

 先程触れたときに吸われた魔力で展開されたのだろう折り鶴だった和紙は折り目のない正方形になった。うすぼんやりとした光が淡く輝き文字になりはじめる。

 陽菜は回ってくるプリントを受け取りながら文章の完成を待った。

 ―――他の子にはおんなじような鶴は来てないみたい。純白ちゃんと私だけだし…やっぱり先輩からの通達なんだ。こういうかたちでの連絡ってことは、一応他の子に見られないようにしたほうがいいよね?

 置いていた筆箱と腕で不自然にならない程度に先輩からの手紙を隠す。近くの妖怪に気取られないようそっと中身を確認した。

 

『一○○五 転移門南ニテ待ツ 各自昼食持参セヨ』

 

 ―――十時五分に転移門の南で集合。お昼ごはんはじぶんで持っていく…。だね。

 頭のなかで内容を反芻すると、和紙はスッ…と机に溶けてしまった。

 

「それじゃあ今日はこれで解散にします。各班ミーティングをすると思うけれど、備品の準備は怠らずにね。」


 縹から解散号令がかかると、陽菜は純白を連れだって昼食を買いに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「15分前だけど…遅れるよりいいよね。」

『購買でお昼買ったのはじめて』

「たしかに、転移門から一瞬で寮だから戻って食堂使っちゃうよねぇ。」

 

 

 ホームルームの後に純白と集合について内容を確認したあと、購買からその足で転移門へと向かった。流石に朱々音は来ていなかったが、二人はそのまま石畳の階段に座って待つことにした。

 

「ね、純白ちゃんはどうしてこの学校に入ったの?声のことなら他の研究者とかがいるところの方がよかったんじゃない?」

『うん…たしかにこの呪いをどうにかしたくてここに来たの。だけどそれだけじゃなくて、誰かの役に立ちたかったから。』

「誰かの、役に…。」

『喋れなくてもやれることは沢山ある。妖怪だからと言ってみんながみんな戦える訳じゃないでしょ?

 私は人間に虐げられる妖怪を早く解放したいの。それに…』


 そこで手が止まってしまった純白を見つめて続きを待つ。眉を寄せてなにか思案しているようだが…陽菜には純白が苦しそうに見えた。とっさに純白に声をかけたが、純白は静かに首をふるだけだった。

 

「あの、言いたくなかったら大丈夫だよ。私…」

「あらお二人さん。お待たせしてもうた?」


 二人は勢いよく頭をあげた。そこにはにっこりとした笑顔を浮かべて―何故か背中に黒いオーラを纏って―たたずむ妖弧の先輩がいた。なんとなく本能的にごくりと生唾を飲み込んで立ち上がる。

 

「お、おはようございます朱々音先輩!」

「うん、きちんと挨拶ができるのはええ子やね。せやけど…」

『けど…?』

「なんのためにウチがわざわざ折鶴飛ばしたんやと思う?」

「えっと、情報漏洩を防ぐため…ですかね?」

「なんや、わかっとるんやないの。

 そやのにお二人さんが堂々と待っててどないするん?自分から何かありますよーって教えたら意味ないやろ。待つなら待つで周りに溶け込むなり隠行するなりしたらどうなん?」

『すみません。』

 

 思わず顔を見合わせて頭を下げる。そうしろと言われたわけではなかったが、教室まで来なかった上に手の込んだ仕掛けをされていた理由がわかっていたのなら、言われなくてもそこにたどり着くことは出来たのだ。

 ―――どこか浮かれてたのかもしれない。よく考えれば気づけたかもしれないのに…。

 頭をさげたままの二人にため息を一つつくと、朱々音は頭をあげさせた。

 

 不安そうな瞳で自分を見上げる後輩を見ていると、昔の自分を思い出す。あのときは自分も今の彼女たちと同じように怒られて縮こまっていたのだと思うと少し感慨深い。自然とキツくなっていた目元を和らげて、可愛らしい二人の後輩に微笑んだ。

 

「まあ、早めに行動して待ってた点は誉めたげるわ。それに隠れとけなんて一言も言うてへんかったから気にせんでええよ?新入生やからねぇ。」

 

 朱々音がそういうと二人は目に見えてほっとした顔をする。安心した二人を連れて移動を開始した。

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