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7/10

準備

「お腹いっぱ~い!たっぷり食べちゃったねぇ憂季ちゃん。」

「うん。美味しかった。」

 

 夕食を済ませてから部屋に戻ると、新品のベッドにぼふりとダイブする。後ろ手に部谷のドアを閉めてから、憂季が隣に腰かける。

 そのまま決まり事などが書かれている生徒手帳を取り出して寮の間取りと各部屋の詳細を二人で見る。最初に部屋に来たときは荷ほどきをするので忙しくよく確認していなかった。朱々音曰く一部の個室生徒には部屋に風呂が備え付けてあるそうだが、基本的には入浴は大浴場とのことらしいので女湯の場所と解放時間もチェックする。

 

「わ、すごい。お風呂は朝6時から夜中24時まで解放だって!」

「任務にでてる先輩たちもいるみたいだから、多分そのため。」

「任務かぁ…私たちも駆り出されるようになるんだよね。」

「任務は班ごと。…一緒に居られない。」

「そうだね…でも明日からはまだ授業だもん。大丈夫だよ。」

 

 憂季は陽菜の言葉にコクリと頷いて自分のクローゼットに向かう。入浴の準備だろうと、陽菜も足元のバッグから湯編みセットを用意してもう一度生徒手帳をながめた。

 

「ね、憂季ちゃん。今日あった人たちどうだった?純白ちゃんとか桃華ちゃんとか!」

「……弓槻先輩は、聞きなれないしゃべり方。でも、いい人。」

「そうだねぇ。先輩たちは、なんというかインパクトがすごかったねぇ。また明日も会えるかなあ。」

「多分、そのうち…朝御飯とかにでも。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーぅし!おはよう諸君。昨日はよく眠れたか?」

 

 静かな部屋で響いた新谷の元気一杯の挨拶に、連れだって入ってきた縹が微妙な顔をした。

 新谷の挨拶を聞いたのか聞いていないのか黒夜が欠伸を噛み殺し、憂季は眠たげな瞳を更にうとうととさ迷わせる。気だるい雰囲気の漏れる教室を代表して、桃色の頭が揺れた。

 

「たのしみすぎてねむれませんでしたー……。」

「おう、見事な棒読みだな神代…。」

「だって先生見てみてよ。教室中あくびだらけでねむそーな顔してる子ばっかりですよ?」

「ま、やっぱこういうのの初日って緊張するよなぁ。授業っつってもここのは座学はあんまねぇし。」

 

 タハハ、と笑って教卓に御座をかく。縹がそれを見てさらに眉根を寄せたが気にせず俺が学生だったときなんかさーと話始める。

 時計の長針が2つ数字を移動したところでストップがかかった。

 

「光、雑談はそれくらいにしてそろそろ始めないと一週間後の戦闘訓練に間に合わなくなるよ?」

「お、そうだったそうだった!一週間後から昨日顔合わせしてもらった班ではじめての戦闘訓練に出てもらう。ついでに今月のスケジュールも渡すな。」

 

 各列の先頭が新谷に促されてスケジュールを受けとる。陽菜も回ってきた分から一枚抜き取り後ろに回す。一日ずつ目を通すと、縹たちに言われた通り一週間後には戦闘訓練とだけかかれていた。

 

「全員貰ったか?そんじゃさっきも伝えたけど、一週間後に戦闘訓練がある。

内容は班と学科ごとに違うが…まあ先輩が人間の戦いかたってやつを教えてくれるわけだな。

 訓練とはいえ真剣勝負。基本的には救護班一つと戦闘班一つがくっついたものを一グループとして訓練する。訓練とはいえお互い本物の武器を使って戦ってもらうから各自手入れは怠るなよ。ああそれと救護班のやつは救護パックを支給するが、大した量ないから購買とかにいって自分で準備するようにな。」

「グループの組み合わせは?」

「それは明日から3日間の実技授業の結果を鑑みて決めるの。金曜日には黒板にグループ分けを貼っておくから、自分のグループと訓練の日付を確認しておいてね。

 それじゃあ学科ごとに別れてね。」

 

 ごくり、と生唾を飲み込む生徒たちにクスリと微笑みながら眼鏡の位置を直すと、縹は持っていた戦術の教科書を新谷の頭に置いて授業を始めた。








「もー!縹先生ってば初日からいきなり厳しすぎだよぉ…くたくた!」


 ぷくりと頬を膨らませて部屋に入ってきた陽菜を迎えながら、憂季はお茶のペットボトルを手渡す。ありがと、とペットボトルを受け取って3口ほどこくこくと喉をならして潤すとバフッと音をたててベッドに沈みこんだ。

 

「お疲れ様。大変だった?」

「そりゃもう!救護班だし初日だからもっと優しい内容だと思ってたのに…。憂季ちゃんは新谷先生だよね?なにやったの?」

「戦闘科は武器や戦闘スタイル選び。向き不向きの検査とか、刀とかを取り落とされたときの対処とか。」

「へぇー。こっちはいきなり基礎体力づくりとかいって先生が投げる手裏剣とかまきびしとかを永遠避け続けるのやったんだよ?それも縹先生は機械も使ってて…思い出すだけで寒気が…!

…憂季ちゃんはやっぱり刀?」


 うへぇ、と午後の縹を思い出す。あれは間違いなく鬼の所業―そもそも鬼は自分達だ、という突っ込みはさておき―だった。

憂季は一度視線をずらしてからコクリとうなずく。


「うん。桜庭の刀…と、あと柔拳。」

「柔拳!?」

「みんな一通りやらされた。新谷先生から、『意外と適正があるんじゃないか?やってみろよ!』…って言われたものをみんな選んでる。私も。」

「そ、そうなんだ…。明日は私たちも護身用の武器を選ぶみたいだから少し楽しみだなぁ。」

「戦闘科は、武器になれることと対人戦をやる。頑張る。」

「私も頑張る!」


 えへへ、と笑い合いながら部屋着に着替える。今日は夕食の約束をしていないが―結局朝御飯もお昼も昨日の面子では会えていない―運が良ければまた会えるかも知れない。

うきうきと心を踊らせながら夕飯の献立を頭に思い浮かべた。

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