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ごはん

「お待たせしました!」


 陽菜が憂季をつれて食堂に向かうと、既に朱々音と純白、そして黒夜がいた。ふわりと漂うのは夕飯の味噌汁と肉じゃがの香りか。腹の虫が鳴いて緩んでいた気は、3人まであと10メートルほどに近づいたとき、心なしか繋いだ手が固く握られて引き締まる。…主に憂季のだが。掌から緊張が伝わってくる。

 陽菜はうっすらと苦笑いを浮かべて3人に近づいた。最初に気づいた朱々音がフワリとワンピースの裾を浮かせて陽菜と憂季に微笑んだ。

 

「時間ぴったり、流石やね。陽菜ちゃん、と…新入生代表さんやね。こんにちは。」

「すみません朱々音先輩、この子は義妹の憂季ちゃんです。あの、ご一緒しても…?」

「もちろん。大勢で食べた方が賑やかでいいんとちゃう?

ちなみに今日は肉じゃがと大根のお味噌汁に五穀米。それから、お茄子とほうれん草のおろしあえやね。」

「ありがとうございます!ほら憂季ちゃん。」

「…一年、第七戦闘班、花緑青憂季。です。ありがとうございます。」

「うん、よろしゅうね。」

 

 同じようにぎこちなく純白たちにも挨拶をする憂季をみてひと安心する。

 ―――根はいい子なんだけど、結構な人見知りだからなぁ…。とりあえず挨拶出来て良かった。

 元々捨て子だった憂季は、桜庭家が見つけた名もわからぬ小鬼だった。大きくなってから息女の護衛にするためにと桜庭家に拾われてからは、本当の姉の様に慕い陽菜の後ろをついてちょこちょこと動いていた。そのためか、自分で前に出ることは―戦闘はともかく日常生活では―滅多にない。ゆえにどうしても心配してしまうし、憂季の前ではいいお姉ちゃんを見せていたいのだ。本人がどう思っているかは分からないが少なくとも憂季は陽菜のその思惑には気づいてないはずである。

 憂季が純白と普通に話せるようになった頃、ようやく私服に着替えた葵がやって来た。

 

「お待たせ。ごめんねぇ遅れちゃった!」

「いえ、それは大丈夫です…けど…その…。」

「ん?」

「アンタの格好に驚いとるんとちゃう?」

「ああ、そういうこと?」

 

 ようやくやって来た葵の姿は、その場の妖怪に比べて異質だった。首もとは白のタートルネック。その上に大きくてだぼだぼな黒のパーカーが尻をすっぽりと隠し、薄水色のミニスカート―と、思われる布がうっすらと裾から見える―に黒の七分丈レギンス。そして―――腰には銀色のレイピアを下げていた。

 当然ながら寮のなかで私服になってまで武器を持ち歩いている妖怪は居ないだろうし、それでなくともサイズのあっていない大きめのパーカーは目立っている。これでは注目してくれと言わんばかりの出で立ちだったが、慣れてしまっているのかほとんどの妖怪―恐らく先輩―は見向きもしなかった。

 全員揃ったことだし、と席を取っているらしい朱々音に続いてぞろぞろと夕飯を受け取りに移動する。各々が肉じゃがやらおろしあえやらを皿に盛り付けていると、最後尾にいる葵がうーんと首を捻りながらトレーを用意する。黒夜のあとに続いて歩いているが足取りが重く心配になり、陽菜はつい大丈夫ですか?とこえをかけた。さっきの陽菜と朱々音のやりとりの内容に葵なりに悩んでいたようだが、前の席をみやるとふと顔をあげた。

 

「こういう格好なのって、やっぱ私だけかしら。」

「たしかに武器を持ち歩いてたり体格に合わないの服を着てるのはあんまりいないかもですけど、私はいいと思いますよ?」

「そう?あ、でもほら、武器を持ち歩いている子は他にも一応いるのよ?」

「えっ…。」

 

 葵の指差した方を見ると盆をもって席につく灰ヶ崎がいた。ご丁寧に一番すいている席―おそらく朱々音の取った席―の一番端っこにいる相変わらず着崩れした制服に目付きの悪い妖怪だ。一つにまとめている長めの髪を払って指貫グローブをはずしている。それに言われた通り腰にはホルダーに入れられた拳銃とレイピアが吊るされていた。

 よそいおわった妖怪から朱々音が取っていた席についてトレーを置く。一番最初に朱々音が座り、その前に憂季が腰を下ろすのでそれにならって陽菜が隣に、朱々音の隣に純白、黒夜と並ぶ。黒夜はちらりと隣を見ると、先程別れた班員を見つけて声をあげた。

 

「お、灰ヶ崎じゃん。」


 今まさにおろしあえを口に入れようとしていたところを阻まれ眉間にシワを寄せる。徐に声の方へ視線をむけてため息をついた。


「…旅叉か。そんだけ女をぞろぞろ侍らしてなんだ。」

「いや別にそーゆー訳じゃねえけど。さっき言ってた妹の班の妖怪たちと、なんか先輩だよ。空いてるとこここしかねえし隣いいか?」

「お前は聞きながら既に座ってるがな。返事を待つことすらできないのか?答えはNO一択だが。」

 

 フンッと鼻をならして無表情で食事を始める灰ヶ崎にカチンときたが、トレーを持って近づいてくる先輩と妹の手前にこやかに青筋を浮かべるにとどめておく。…すでにはす向かいの陽菜にはすでに苦笑いをうかべられているし先輩もなんだか笑顔だ。

 

「ふふ、仲がいいんだね。二人とも。」

「お友達ができたようで何よりね…隣失礼するわね。」

「どうぞ!」

「よくない…ってお前!?」

「さっきぶりね。灰ヶ崎くん。」  

 

 笑顔の葵と不機嫌そうな顔をした灰ヶ崎を見て、陽菜と黒夜にはてなが浮かぶ。灰ヶ崎は腰を浮かべて嫌そうな顔をしているし、なんとなく聞くのが憚られる雰囲気だがいいだろうか。

 まあ座れよ、と黒夜が無理矢理席につかせて、五穀米を食べていた陽菜がおずおずと葵に訊ねる。

 

「あの、灰ヶ崎くんと葵先輩って知り合いなんですか…?」

「知らない。」

「ダーリンでーす♡」

「んな!?」

 

 ゲホッゲホッと噎せながら灰ヶ崎が葵を思い切り睨み付ける。目を丸くする黒夜と陽菜を笑いながら葵はそれにお茶を渡して微笑んだ。

 

「なーんてね。さっき純白が黒夜を呼んでたっての伝えてあげただけよ。班長だから。」

「な、なるほど。たしかにそうですよね、うん。伝達係りだったなら面識くらい有って当然。」

「にしてはなんというか灰ヶ崎の反応が…。」

 

 お前!?といいつつ腰を浮かせた灰ヶ崎が黒夜の脳裏に浮かぶ。あれがちょっとした知り合いにする態度だろうか。

 

「こいつが無駄話ばかりするやつだと知ったからな。逃げようと思った。」

「酷いわよね。私が告白したらフラれちゃったの。」

「変な吹聴をするな!」

「だからこれから頑張っちゃうわ。灰ヶ崎くんのこと、好きだもの。」

「………え、ええええ!?」

 

 ついに頭がついていけなくなった陽菜が叫ぶまで、時間はそうかからなかった。

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