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案内

「そうはいってもねぇ…。またせんせに怒られてまうよ?」

「かわいい後輩たちを見に行ってるだけなんだから大丈夫よ。ピッカもちょっとならいいって言ってたし…。

で?この子達が朱々音の子分?」

「子分やのうて班員なんやけど…まあそうやね。鬼の陽菜ちゃんと猫又の純白ちゃんやって。」

「ひゃい!!」

 

 急に話をふられたお陰で声が上擦ってしまった。あらあらと笑われて余計に恥ずかしい。朱々音の時と同じようにカチコチに固まった首を動かして一生懸命に前を向いた。

 

「しゃく、桜庭陽菜です!後方支援科で、よろしくお願いします!この子は旅叉純白ちゃんです!」

「やだ、そんな緊張しなくても…。ふふふ、かわいいわねぇ。」

「ふぇ?」

「私は弓削葵(ゆげあおい)。一応戦闘班だけどいろんなとこうろついてるから宜しく。」

「一応というかバリバリやね。」

 

 朱々音が突っ込むと唇をつきだし頬を膨らませた。黒子と薄く塗られたグロスが子供らしさのなかに微かに色香を感じさせる。顎下でうちまきになっている姫カットをいじると、米神のあたりから生える小さな黒色の羽がピコピコ動き、レースのついた青いスカートがふわりと舞って踵をかえす。腰に吊るされた銀色のレイピアが揺れ、来たときと同じようにツカツカと薄いデニールの黒タイツに包まれた脚を数歩動かして純白の後ろまで来ると、ブレストプレートの上からでもわかるほど豊満なソレの前で腕をくみ笑った。 

「私も第一班として動きまーす。」

「さすがにソレは許容されへんやろ…。光せんせはともかく、縹せんせに見つかっても助けられんからね。」

「はーい。」

 

 葵のやる気がなさそうな挙手に苦笑いすると、丁度よばれたね。と陽菜の手をとる。ついで純白の手をとって新谷のもとへ向かった。

 

「救護班第一班、リーダー弓槻朱々音、全員揃いました。」

「うーし。あれ、なんだ?葵は戦闘班だろ?」

「朱々音お姉様がお手伝いしてほしいっていうから…お願い、せんせ?」

「こういうときだけ年下ぶるのやめてもらえへんの?うち、たのんでないし。」

「普段はピッカとか呼びやがるくせになぁ…まあいいや。どうせお前の班他に妖怪いないんだろ?手伝ってやれ。」

「了解!ありがとね。」

「へいへい…。

朱々音、こいつらの鍵渡してやるから寮に案内しろよ。そしたら今日は解散、以上!」 

 

 ほい、と放られた鍵を受け取り歩き出す。そのまますたすたと行ってしまう朱々音に続いて歩いていくと、校舎裏に大きな鳥居が見えてきた。

 

「ここが所謂転移門やねぇ。鳥居やけど。」

「ここの生徒はだいたいエレベーターガールに行き先を告げて移動することが多いわね。鳥居だけど。」

「はあ…なるほど?」

「あ、こら貴女たち神聖な鳥居にたいして不満丸出しじゃないですかちょっと!」

「あらいたの。」

 

 よく見ると鳥居の柱に隠れて一人の少女がいた。といっても手のひらサイズでついつい見落としてしまいそうなほどであったが…。

 小さな角のはえたこれまたちいさな少女は長い黒髪を払ってプンプンという擬音が聞こえてきそうなほどおこっていた。サイズがサイズなだけにかわいらしいだけだがなにも言わないでおこう。

 

「ごめんごめん冗談だって。ほら志穂、新入生の純白と陽菜よ。」

「はじめまして…桜庭陽菜です。よろしくお願いします。」

「私は志穂。この転移門を管理しています。一応鬼なんだけど…まあ、妖精みたいなものだと思ってくれて構わないわ。

行き先は寮でいい?」

「ええ、大丈夫。」

「はいどーぞ。」

 

 志穂が呪符を取り出すと鳥居のなかが青白く発行する。朱々音と葵に促されて足を踏み入れたさきには、コの字がたの大きな―といっても学校ほどではない―建物があった。窓の位置から数えて4階建てだろうか?

 目を丸くしてキョロキョロしているとまたもや先輩に笑われてしまった。

 ―――うう…なんだか私、田舎者みたい…。

 

「さ、部屋に案内したるね。寮は基本的に二人から四人の相部屋が多いかな。まあ葵はとびきり珍しい一人部屋やねんけど。」

「私のことはいーの。荷物なんかは部屋に運ばれてると思うから、とりあえずルームメイトに挨拶して19時に中央棟2階の食堂に集合ね。女子寮は南棟、男子寮は北棟だから間違えないように。」

「了解です!」


 それだけいうと葵はさっさと何処かへ行ってしまったようだ。純白は先程から視線をさ迷わせているが…。

 

「純白ちゃん、どうしたの?何か探してるの?」

 

 こくりとうなずいて不安げに眉をよせて再び視線を前に向ける。するとソレを見ていた朱々音はウエストポーチから一枚呪符を取り出してからサッとボールペンでなにやら書き足していく。ふぅっと優しく息を吹き掛けると、小さなホワイトボードに変わった。

 出来上がったホワイトボードを純白に渡すとにっこりと微笑んでペンを渡す。

 

「しゃべれへんのはこっちとしても不便やし、ソレあげるから筆談で返してや?」

 

 目を見開いていそいそとボードに書き込み始めた純白を見ながら待つ。白いリボンとふわふわの耳が揺れ、ときたまチリリ…となる鈴の音を聞いているうちに、やがてかわいらしい小さな丸文字がボードに現れた。

 

『すずね先輩ありがとうございます。

あの、戦闘科の生徒はどこにいますか?』

「あ、そっか。純白ちゃんが探してたのって黒夜くんですね。」

『お兄ちゃんに、ごはんの約束したかったの』

「なるほどね…せやったら班番号を教えてくれれば班長さんにつたえたるさかい。」

『ありがとうございます。兄は戦闘科の三班です。』

「任されました。それじゃあ純白ちゃんは306号室、陽菜ちゃんは301号室へ行ってらっしゃいな。鍵はこれな。」

「わかりました。それでは19時にまた!」

「うん、きいつけてな。ちゃんと部屋着に着替えてくるんよ?ブレストプレートは寮ではつけんでもええけどね。」

「はい!」

 

 二人はルームキーを受けとると階段を上っていった。

 班員を二人見送ってからゆっくりと息をはくと、朱々音は後ろを向いて話しかける。

 

「そんで?ちょっかい出せる大義名分ができたわけやけど…うちは尻尾のお手入れっちゅう大事な用事あるから、アンタに任せるわ。」


 ぐにゃり、と空間が歪んで少女が姿を現す。気まずそうにちらりと上目で朱々音を見ると、目があったのかすぐに視線をそらした。

 

「…気づいてたの?」

「いややわぁ、隠れる気のない隠行なんてしはったのはそっちやろ?

 …葵。」

「うん、まあ…ね。」

「ほな、任したで。」

「でも!…私が行って、いいのかな…。」

「なにゆうてるの?当たり前やろ。」

「わ、わかったわ…。ありがとう…。」

 

 朱々音はもう一人の班員を見送ってからようやく自分の部屋に戻った。

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