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出会い

「ほい、じゃー席についてくれー。」

 

 入学式が終わり教室へ通された陽菜たちが各々のクラスで話していると、先程の入学式で校長の後ろにいた赤髪刈り上げパーカーの女教師が入ってきた。…声帯は少年のようだが。

フランクな話し方だが教師だからか一斉に自席へつく生徒を見ながら黒板の前にたつ。その後ろからすこし遅れて先程憂季を連れていっていた女性も入ってきた。

パーカーの教師はゴホン、とわざとらしく咳をして話し出した。

 

「えー…初めまして諸君!俺は新谷光(あらやひかる)。お前らの担任教師と、榛木の補佐をやることになったから、これからよろしく!それじゃあ早速だけど配布物あるから取りに来てくれるか?」

「男子は新谷先生に、女子生徒は私の方にならんでくれるかしら?」

 

 指示に従い生徒たちは続々と動き出した。30人ほどのクラスだったが女子生徒の方がいくらか多いようだ。同時に並んだ黒夜が既に4人分前に居るのを見て、なんとなしに男子を数えていた。

黒夜の後ろに居るのはマスクをしたキョンシー、その後ろに畳叩き、河童…そして最後尾に居るのは美形の

 ―――…不良…?入学式からシャツを着崩しネクタイをつけていないなんて…

 

「次の子、来てね?」

「あっ、はい!」

 

 慌てて前に走りだし、出席番号と所属先を伝えて配布物を受け取り席に戻った。

 ―――…え、なにこれ…?配布物っていうから教科書とかの、てっきり紙かと…。

陽菜たちが受け取ったのは軽い金属の胸当て―ブレストプレートというらしい―とウエストポーチだった。 

 全員が席についたのを確認してから新谷はもう一度教卓に立った。

 

「よし、全員受け取ったな?んじゃあまずは…そうだな。お前たちは今、何故これを?と思ってるだろうからそれを説明してやる。(はなだ)、頼んだ。」

「はい。ええと、皆さんはこの学校が何のための学校かはご存知ですね?

…そう。この学校は我々あやかしが人間たちに迫害され続ける日々を終わらすため、来る戦争に備えておくための学習の場です。

 とはいっても既に前線では今この瞬間にも戦いが繰り広げられています。なのでここでは戦闘訓練以外にも、優秀な班から実際の戦闘に駆り出します。覚悟しておいてください。

 ですが、こちらの都合通りに戦いはやって来ません。不測の事態に備えて、また装備品になれるためにも、基本的にはブレストプレート、プロテクターの着用をしてください。わかりましたか?」

「「「はい」」」


 言われたとおりにみんなが装備するのに倣って陽菜も手を動かす。ちらちらと周りをうかがう妖怪が多いようだ。手間取っている妖怪には縹が手助けをしていた。

 全員がつけ終わると新谷は満足げに頷いた。

 

「うし、全員つけ終わったな?それじゃあ名前をよんだやつ…ちょっと前に出てくれ。えっとー花緑青、灰ヶ崎、那古野、藤風。」

「は、はい。」

 

 ―――憂季ちゃん呼ばれてる…大丈夫かな…それにあの美形の不良…。

 陽菜の心配をよそに憂季と美形―たしか灰ヶ崎と呼ばれていた―はスタスタと教壇の前に並ぶ。あとから那古野とよばれたお団子ヘアの少女と薄紫の髪の藤風という少年が続く。四人は揃ってこちらを向く。

 

「みんな気になっていたかも知れないがこの四人は制服が違う。普通はみんなみたいに、女子なら赤いリボンに櫻色のスカート。男子なら赤いネクタイに鼠色のスラックスってのが主流だな。ま、例外はあるし灰ヶ崎なんかお前初日からネクタイくらいしてくれよな…。」

「…必要性を感じない。」

「そうかよ…。とにかくみてのとおりこいつらはその制服じゃない。納戸色のリボンタイと同じ色のスカート、同じく納戸色のネクタイと黒っぽい深緑のスラックスだ。

 この制服が何を意味するかというと…ま、普通の学校でいう委員長だ。」

 

 ほとんどが新谷の言葉に疑問が生じたのか首をかしげる。やがて代表と言わんばかりに手をあげた生徒がいた。桃華だ。

 

「先生。四人も委員長がいるんですか?」


 その質問にニヤリと笑うと、新谷はこれまた満足げに頷いた。

 

「それはだな…ええと、縹。」

「はいはい。皆さん気づいてるかわかりませんが、ここには戦闘科と後方支援科の生徒がいっしょに在籍しています。つまり彼女たちはその科のトップ。花緑青さんは戦闘科女子のリーダー、灰ヶ崎くんは男子。那古野さんは後方支援科女子のリーダーで藤風くんは男子ってことね。」

「まあそういうこった。ちなみに1つしかないけどクラス単位でいうと委員長は灰ヶ崎で副委員長が花緑青だ。」


 ほへぇ…と感心しているとガラリと教室のドアがあいて妖怪が入ってきた。新谷と同じように校長の後ろに控えてたもふもふの狼男(仮)だ。

 

「新谷、榛木から伝言だ。『新入生へのオリエンテーションが終わり次第講堂に集合。上の年次と面通しと作戦班の通達を行う』とのこと。」

「あいよ。そんじゃおまえら廊下に並んでこれから先輩に挨拶にいくぞー。各所属科の委員長の後ろに並べよ。」

 

 新谷の言葉をかわぎりにぞろそろと五十人ほどの生徒が動き出す。憂季に話しかけたかったが憂季は戦闘科をまとめなければならないし、これでは話しかけるのは難しそうだ。陽菜は諦めて既にあるきだしている列の後ろにいた純白と桃華のもとへ向かった。

 

「純白ちゃん、桃華ちゃん!」

「あ、陽菜ちゃん。」

 

 陽菜が駆け寄ると純白が困り顔で陽菜の後ろに隠れた。桃華はあらあらとこちらも困り顔で純白を見ている。

 

「えっと…どうしたの?純白ちゃん。」

「あたしが純白ちゃんの耳をさわさわして撫で回すから逃げられちゃったの。ごめんね純白ちゃん。」

「…」


 純白はこくりとうなずいておずおずと陽菜から出てくる。陽菜がよしよしと純白の頭を撫でてやるとくすぐったそうに目を細めた。

 

「むうぅ…ヒナリンが撫でるのはいいのにあたしはダメなの?」

「ヒナリン…?いや撫でる目的が違うからじゃないかな…たぶん…。」


 こくこくと大きく頷く純白をみてガックリと肩を落とす。えーとかそんなーとか言いながら歩く桃華になんと言おうかと考えているうちに講堂に着いたようだ。所属別に並ぶよう指示されて思わずかおをあげた桃華につられて二人も視線を前に向ける。

 そこにいたのは二十人ほどの生徒だった。

 

「え…これだけ?」

「毎年入学者は五十人越えだって言ってたよな…?それに去年度は特待生がいたからもっと人数がいるはず…。」


 隣の列に並んでいた黒夜の呟きに新入生が押し黙る。つまりそれは…

 

「簡単なこと、今戦闘区域に駆り出されてるか既に死んだかの二拓だ。」

「灰ヶ崎くん…。」

 

 いつのまにか後ろにいた灰ヶ崎はフンッと鼻をならして前に戻る。俯く純白やほかの生徒たちを見ても新谷はなにも言わなかった。

 

「なんなんだよ灰ヶ崎のやつ…!あれだけ言いに来たってのかよ。」

「したかないよ…先生がなにも言わないってことはきっとそういうことよ。」

「けど…いや、大丈夫だ。心配すんなよ純白、お前は兄ちゃんが必ず守ってやるからな!」

 

 不安そうな顔でぎゅっと黒夜のパーカーを握る純白にそういって頭を撫でると、純白は尚眉をよせてすり寄った。

 そんな兄妹を見ていたかさだかではないが、新谷が新入生にむけてしろい紙を渡す。

 

「入学試験の科目にもあったから大丈夫だと思うが、ソレに呪力を込めてくれ。そこから模様が浮かび上がるから、同じ模様のやつを探して待機。待ってりゃ先輩が見つけてくれるさ。」

  

 言われたとおりに呪力を込めるとゆっくりと柄が出てくる。何種類もあるようで、黒夜は黒い星型。桃華は桜の花弁、そして純白と陽菜は青い焔だった。

 

「あ、純白ちゃん一緒だね!」

「なんっ…なんで俺が純白じゃなくて灰ヶ崎と一緒なんだよ!?」

「知らん。俺だってお前みたいな素人と同じだなんて屈辱だ。」

「うお!お前またいつの間に…おい陽菜、交換だ交換。」

「えええ…だ、だめだよ…。」

「だいたい純白っちが後方支援で黒夜くんは戦闘科なんだから違うのは当たり前じゃない。諦めてヒナリンに任せなって。」

「そ、それもそうか…クソ…陽菜、純白を頼む…!」

 

 兄の必死さに顔を赤くして恥ずかしがる 純白を見ていると、ガシッと後ろから肩を捕まれる。

―――んな、何!?

 強張った体の後ろからは仄かな花の香りとふわりとした毛の感触がして、全身がぞわりと震えた。するとそれをかんじとったのかクスクスと上品な女性の笑い声が聞こえてきた。

 

「ふふ…今年はようけ愛らしい子達がきたものやねぇ。心配やわぁ。」

「へっ…?」

「あら、怖がらせてしもたみたい?堪忍なぁ。」

 

 うふふ、と愉しそうに笑って現れたのは、憂季とおなじ制服にミルクティ色の髪を揺れ簪で纏めた女性だ。泣き黒子と切れ長の朱色が優しげに垂れている。そして特筆すべきはふさふさの尾だろうか。艶やかな髪とおなじ毛色の尻尾と、純白よりも縦長の耳が生えていた。

 

「あのっ…?」

「そないに怖がらんといてな。うちは救護班第一班の弓槻朱々音(ゆづきすずね)っちゅう者どす。まあ見ての通り妖弧やね。その青い狐火の二人はうちの班に所属してもらうことになるからよろしゅうたのんます。」


 そういわれてつい反射的にビシッと立って向き合う。純白も背筋を伸ばして固まっていた。

 

「あっ、ああの、桜庭陽菜、鬼です!よろしくお願いします!」

「うん、元気なのはええね。そっちの子は?」

「あ、ええと、たしか猫又の…旅叉純白ちゃんです。この子意識して声が出せないみたいで…!」

「声が…?ふぅん…まあええわ。よろしゅうね。」

 

 各々が自己紹介を済ませると新谷が召集をかけ始めた。戦闘班から呼ばれているから、陽菜たちが呼ばれるのは後の方だろう。

 よく見てみるとほかの班はほとんど四人から五人ほどの班のようだ。各班に一人は納戸色の制服が見えるため、彼らが小隊長になるのか。

陽菜はこみごみとしているなかで小さな黒髪の納戸色を見つけた。憂季だ。

 ―――あ、一年生なのに憂季ちゃん小隊長なんだ…。

もちろん灰ヶ崎や藤風もほかの班員を携えていたが、皆一年だった。しかし憂季の班は二年も混ざっている。実力の差…だろうか。

 それにふと気付いたがおかしい。うちの班は三人しか居ないではないか。

 

「あの…弓槻先輩。」

「どうしたん?あ、朱々音でええで。」

「じゃあ朱々音先輩、どうしてうちの班は三人しか居ないんですか?ほかの人は…。」

「…うちのとこは去年一人いなくなってはるんよ。せやから補充員がいいひんのやねぇきっと…。」

「そ…う、ですか…。」

「ああ、心配せんといて。死んだわけやあらへんのよ?実力に見惚れた戦闘班がどうしてもって引き抜いてっただけやし。」

「ま、結局班員一人もいなくて勝手に遊撃部隊だけどね。」

 

 唐突に後ろから声がしてびくりと肩が上がる。学校の特異性からかここの妖怪は皆気配を消して後ろから近づくのは何故だろうか。

 

「なんや、アンタまだここにいたん?戦闘班召集かかっとるけど?」

「だって今年も補充されなかったんだもん。あっちにいようがこっちにいようがかわらないじゃない?」

「せやけど…。」

「ならいいでしょ?それにちゃんと戦闘班は見に行ってきたわ。なんだかみんなひょろっとしてて心配ねぇ。」

 

 そう言いながらツカツカと長い栗毛を靡かせて朱々音の隣に立ったのは、『青い』ショートネクタイに『青い』スカートの少女だった。

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