プロローグ
―――…ナ…。
―――…ヒナ…ヒナ…。
真っ暗な空間で漂う彼女を呼ぶ声がする。彼女はその真っ暗な空間で一人浮かんでいる。周りを見ても何もない…いや、小さなほわほわとした光がある。彼女がぼんやりとそれを見つめると、ほわほわとした光が彼女―ヒナ―の周りを包む。暖かなそれはヒナを呼ぶ優しい声そのものだった。
(だれかが私を呼んでいる気がする――。)
――ヒナ…目を開けて…。
(…だれ?…だれなの?私を呼ぶのは…。)
ヒナがゆっくりと手を伸ばす。するとたちまちヒナを包んでいた光は霧散し辺りを薄くてらす。
「あ……。」
思わず声をあげてしまったヒナを見送るように消えていった光が弾けて辺りはまた暗くなる。目を開けているのに何も見えないのは不思議と怖くて、自然に目を閉じた。
(どうしてあの光は消えてしまったの…?やだ…暗いよ…怖いよ…!)
うずくまって震えるヒナに顔をあげさせたのはまたもや声だった。さっき消えてしまった光と同じ、ヒナを呼ぶ声だ。
けれどさっきの光とは違う。ヒナはこの声の持ち主を知っていた。
安心感を得られたと感じたからかヒナは走り出す。徐々に何も聞こえなかった空間で音が聞こえ出す。ザワザワと耳にさわる音ではない、鈴を転がしたような音だ。
目を開けずにもう一度、ゆっくりと手を伸ばす。こんどは光は見えなかったが何かを掴めた気がする。
―――ヒナは瞑っていた瞳を開いて外の世界を受け入れた。