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今日から悪魔(ルシファー)  作者: 流石挿入画
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今日から悪魔(ルシファー)第八章

よろしくお願いします

 その次の日の朝。長瀬と会うことのなかった鴇矢は一人で学校へと向かっていた。

 途中見つけた猫と視線が合い、


「…………」

 

 向こうへ行けという意識を魔力とともに送ってみる。

 傍から見たら変な奴としか思われないのだろう。道行く女子高生に笑われた。

「どうした……何故成功しない」

 

 諦めて仕方なく徒歩を再開する。

「魔力の送り方は解るし、意志を送ってるはずなんだけどな……なんで上手くいかねんだろうな」

 一体これのどこが簡易なのかと。

 全くもって難しい方法に憤慨しているとあっという間に学校に着いてしまった。

 

 そういえば天使の称号者はまだ自分のことを発見していないのかと疑問に思う鴇矢。

 白河に咎められておきながらちょくちょく学校だけじゃなくそこらじゅうで力を行使している鴇矢ではあるが例の白マントみたいなのに襲われたことはまだない。

 白河が知らない間に倒してくれているのかもしれないという可能性もあるが、白河が注意深く過ぎるだけで案外多少の魔術行使でばれるなんてことはないのかもしれない。

 そもそもだ、多少肉体的に強化して体育で活躍したところでばれるってのがおかしいのではないだろうか。

 最近練習中の催眠魔術だってそうだ。

使って適当な奴を適当に操ったとしても何も問題無いような気がする。

むしろなんの問題があるのか問いたいくらいだ。


「まさか白河の野郎俺にモテ期をこさせないようにする為にわざと言ってるのかもしれない」

 冗談ではない。

 多分あいつは大げさなだけだ。

 せっかく手に入れた力だ。

 使って人気者になって俺ツエエを少しくらいしたとしても問題なんてない。

 むしろせっかくの機会を潰すなんて愚行に近いのではないだろう。

 そうだ。使っていこう。催眠魔術の練習にもなる。

 催眠魔術を身に付けた後は通常魔術。あのなんか魔術名を叫んで放つあれだ。あれを早く覚えてみたい。白マントや白河が使ってたようなドンパチできるような魔術。あれを覚えてこそだろう。

「よっしゃやるぞ」

「何をやるの」

「え、」

 

 突然の声かけに身を翻す鴇矢。

「おはよう」

 朝から随分と爽やかな声。

 その声の主は例によって長瀬だった。

「前を見ていたのに気づいたから追いかけてきちゃった」

「そ、そう」

「ビックリさせようと思って忍び足で来たの。驚いてくれた?」

「いや、まあちょっとね。いきなり来るから」

 なんかこれでは恋人同士みたいではないか。

 ちょっと嬉しく頬が緩んでしまう。

 長瀬と歩く。傍から見ていたらまるで恋人関係。

 そういえば最近長瀬との遭遇率が上がったような気がする。

 もしかすると最近の俺の活躍を知ってお近づきになりたがっているのかもしれない。

 くくくく仕方のない奴だと心の中でほほ笑むつもりがつい顔に出てしまう。

 自分のリア充度がガンガン上がっている高揚感が半端でなくなってウキウキの今の鴇矢にはどんな皮肉も悪口も効かないだろう。


「天野くん最近学校じゃあ有名人だよね」

「え、そうなの?」

 当然だと解っていてもそこで知ってたような顔をするのはどことなく格好悪い。

 当然自分の噂には敏感だ。今の鴇矢は学校内ではかなり知られた存在となっているらしい。

 らしいというのは赤坂からそれとなくそういうことをちょくちょく伝えられるからだ。

「うん。だってあの中村君をバスケットで倒した後に「経験値が違うんだぜ」とか言っちゃうんだもん。そりゃ有名にもなるよ」

 え? と、心がざわつく。

「普通言わないよあんな台詞。思っててもね」

「あれ広まってたのか」

 魔力による肉体強化で圧倒した後に言った台詞。

本人以外にしか聞こえていなかったはずと気持ち焦る。

 中村の奴が広めたのかと鴇矢は軽く舌打ちをする。

「そりゃそうだよ。バスケ部の人間なんて天野くんに敵対視してる人もいるって噂だよ。素人が良い気になりやがってーとか結構荒んでるみたい。そういう考えはどうかなあとか思うけど、それだけ本気でやってるってことなんだろうね」

 初耳だ。

 さすがにやりすぎただろうか。

 だが先に仕掛けてきたのはあっちだし鴇矢はそれに対抗しただけ。

 陽キャが陰キャに負けて怒ってるといった感じか。ださいことで。

「天野くんってそんなに運動できたのになんで今まで体育の時間とかで力隠してたの?」

「そう見えた?」

「そりゃそうだよ。全然ぱっとするタイプじゃなかったじゃん。たまに見ても冴えないというか。マラソンとかでもどっちかというと後ろの方だったじゃん」

「なんでそんなこと知ってんだよ」

「秘密、ふふ」

「いや…………べつに隠してたっていうか本気出しても仕方ないと思ってただけかな。相手が中村でちょっと煽ってきたんで少し本気出してやっただけだよ。バスケの経験も実はあるんだ」

「うそ、そうなんだ!」

 当然嘘。バスケなんて習った記憶も無いし、遊びで触った程度のものでしかなかった。

 しかしだ。しかし……。

 なんか今の設定は格好よくないだろうか。本当の力を隠す凄い奴なんてのは中二病的にもイカした設定だ。そして今の鴇矢は本当にその設定どおりの存在。自分で自分を格好いいと本気で思ってしまう。


「そうなんだ、天野くんひょっとして大物とか」

「まあ……少し本気出せばそこらの連中には負けないかな」

「何それ。あははっなんかかっこいいね天野くん。イメージ変わっちゃうよ」 

 それはひょっとして恋愛感情的な意味だろうか。

 白河に関しては普段の厳しさと性格のきつさから転校当時に比べて恋愛感情はほとんど無くなっているといってもいい。むしろ厳しさから敵対心に近い気持ちすら湧いてくるレベル。

 だが長瀬は違う。もし長瀬にその気があるならマジで嬉しい。付き合えるものなら付き合いたいもんだ。

 だが鴇矢は安い男ではないのだ。簡単には落とせないとだけは言っておこう。




「マモンの情報が来る前に現れてくれるとは思わなかったわ。でも好都合。助かるわ」

 退屈そうに言う白河の目はどことなく座っている。

学校に行く途中の通学路。そこで誘うような仕草を見せたユグドラシルのメンバーの誘いに乗った白河は裏路地に入り込んでいき、

「今日は何人かしら?」

 白河の前には例によって白マントが数人いた。

 ただし一人だけ今回の相手は顔を隠していない。

 それに一瞬だけ顔を引きつらせる白河。

 その理由は敵が言わずとも解っていた。

「顔を晒すなんて随分自信満々じゃない」

 えらく体躯の良い色黒の男は不敵に笑う。

「ふん。レヴィアタン相手じゃそこらの称号者じゃ無理だという判断が上から出たのでな。お前さんがマモンから得て手に入れた情報を元に狙っている北関東支部周辺に現れた解放者の俺がわざわざ出向いてきたってとこさ」

「手っ取り早いわね。雑魚をいちいち蹴散らすのも面倒だしあんたを倒してさっさと終わりにするとするわ」

 

 大気を灰色の靄が覆って――、

「させるか悪魔風情が」

「悪魔風情? 解放者風情が随分な口を抜かすじゃない」

「ほざけ!!」

 懐に飛び込んできた大男の拳がトラック並みの衝撃で白河に衝突。

 と思われたが直前でその一撃が止まる。

「これは、」

 爆音が鳴り響くも固定されるように衝撃と共に男の身体が一定の場所で留まってしまう。

「空間固定かこざかしい。それとなお前のお得意の異空間に連れ込むなんて真似させんぞ」

「異空間なら上位の空間魔術の行使も容易く可能とする。当然だけど知ってるみたいね。ただ、天使の言いなりになって自分も持たない天使のフン風情が偉そうな口を叩かないでもらえるかしら」

 天使の称号者は悪魔の称号者と違い天界の意志によって動く。今回の襲撃も天界の意志、つまりユグドラシル本部の意思なのだろう。

 だからなんだという話だと切って捨てる白河。やることに変わりは無い。目の前の体格同様態度のでかい明確な敵を倒すだけ。いつもと同じことの延長線上。

「ふん。神を信じぬ者こそ愚かと思うがな」

「あ、そう! そう思いたければそう思っていなさいな」

手を突き出し魔力を収束。潰すように拳を握る。

 すると今さっきまで大男がいた場所が空間を潰すように圧縮され、

「ちぃ」

 ガン!! という鈍く響く音。そこから空間がねじ曲がるように一瞬潰れる様子を見せた。

「危ない危ない。空間ごと圧縮するなんて無茶苦茶はやめてもらいたいものだ」

「早いわね、大したものじゃない。あんたが解放者ってのも嘘じゃないようね」

 解放者は解放していない状態でも大抵の場合高い身体能力を有している。必然的に扱える法力の量が違うということなのだろう。

「理解してもらって安心したよ」

「ならさっさと殺すことにするわ。学校があるんでね」

 学校に行く途中。マモンに鴇矢のことを任せているとはいえうかうかはしていられない。早急に済ましていつもの日常に戻る。

「ほんとに…………こんなのが日常なんて悲しくなってくるわ。あんたら的には運命と呼ぶのかしら」

 生まれてから、いや生まれる前からレヴィアタンとしての宿命を背負ってきた。それを不幸と呼ぶか幸福と呼ぶかは人次第だが白河は辛いや悲しいとは思ったことはあるが一度として不幸だとは思ったことがなかった。

「心配するな。お前はここで終わるのだから」

「ありきたりな台詞でご苦労様ね」

 なぜなら、白河はこの世界で運命や希望なんて形の無いものにすがる連中が大嫌いだから。


ありがとうございます

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