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今日から悪魔(ルシファー)  作者: 流石挿入画
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今日から悪魔(ルシファー)第二章

よろしくお願いします。

 授業が終われば昼食だ。

 この学校には学食なんてものはない。そんな便利なものがあるほど優れた公立校ではないのだから仕方ない。

 

 鴇矢は自分の席に座り弁当を開こうと思っていたが白河の周りに集まってきた野次馬にその席開けろよと視線を送られしぶしぶ外で友人の赤坂と谷崎の二人と校舎裏で弁当を食べることにした。

 校舎裏は隠れスポットで静かで良い場所だ。なんせ誰も来ず、風通しも良い。カーストの低い者にとっては安寧の地とも呼べる。

「しっかし凄いな白河。バスケ見たかよ。あんなキレしたやつ男子バスケにもいないんじゃないか」

 赤坂が四限目を思い出しながらそう言うと、

「そうだね、あれならプロでも通じるんじゃないかな~」

 などと合わせるように谷崎が言う。

 さすがにそれは不可能だろと思うようなことを平気で言う天然の谷崎。

「プロはさすがに無理だろ。というか日本にバスケットのプロなんて存在すんのか? あんま聞かないけどな」

「日本のプロはそこまで強くないってきくけど、いるにはいるだろ」

 その程度の知識しかない鴇矢にはその程度のことしか言えない。

「日本のプロってアメリカのアマチュアにも負けるんだっけ? なら白河だって十分通じるって。そんくらい凄かったじゃねえか」

「どうなんだろうね~」

「本気でやればいけるかもしれんが、今のままじゃ無理だろ」

 さすがに本気でやってる日本のプロに日本の普通の高校生が勝ってしまったのなら、その人たちの努力が無駄になるようなもの。そんな展開は見たくない。気持ちの良いものではないからな。

「まあでも俺は長瀬派だけどな」

「へえ相変わらず長瀬さんのことが好きなんだね赤坂」

「もっちろん。高校入学してから今に至るまで俺の心は彼女一筋だぜ」

 誰も聞いてないことを自慢げに話す奴はよくいるが赤坂はその典型だ。

 ことあるごとに長瀬実莉のことを話すくせに告白一つせずに一年間何していたのかと聞けば、気持ちの整理をしていたと常套句のように口にする。

「ほんとだって言ってんだろ天野少しは信じろ。俺はまだ心の整理がついてないだけなんだ。整理がつけばいつでもいけるぜ」

「ならさっさとつけろよ」

「それができたら楽なんだけどな。それこそお前みたいに通学路が同じとかだったら話しかけられるんだが」

「最後に話したのはいつだよ」

「この前のクラス会の時だ」

「希望ゼロだな」

「うるせえ。そういうお前は長瀬と白河どっち派なんだよ」

「知らん」

 知ってても教えない。赤坂に教えたところで碌なことがないことくらいこの一年の間に十分過ぎるくらい知ってしまっている。

「とぼけやがって。じゃあ誰が好きなんだよ」

「教えん」

 それを聞いた赤坂は気に食わない面を見せた後偉そうな口ぶりで、

「ほらな。ちゃんと公にしてる俺の方が遥かに立派だぜ。お前はそういうとこ治した方がいいと再三に渡って言ってるだろうが。それとも何か厨房みたいな運命の出会いとか期待してんのか? だとしたら教えといてやる。そういうのは漫画の世界の話であってだな、現実の世界で男と女が運命で結ばれているなんてことはありゃしないのさ。運命ってヒモって奴はな、行動して初めて結びつくもんなんだ。待ってるだけじゃ誰かと結ばれるなんてことは絶対に起こらないのさ」

「自分の事を棚に上げてよくまあ言えたもんだな。もしかしたらもう誰かと結ばれてて今はまだ結び目が遠いだけかもしれねえじゃねえか」

「甘い甘い。だとしても行動しないお前がその結び目を手繰り寄せれてるとは思えないぜ。残念ながらな」

 残念なのはお前の頭だと言ってやりたかったが相手にするのも面倒なのでこの辺でお開きにすることとした。

 悲しいことに赤坂のどうでもいい持論に耳を傾けている間にチャイムが鳴ってしまった。

 

 とんでもなく時間を無駄にしたような気分で弁当をしまい三人はさっさと教室へと戻っていった。

 教室ではようやく俺の席が空いたようでゆったりと座ることができた。

 隣にいた白河の表情はどことなく陰りが見えた。

 あれだけの人数に囲まれていたせいだろう。お約束イベントとはいえ無理はない。

「大丈夫か白河さん。なんか疲れてるように見えるけど」

 イメージアップを図るに越したことはないだろう。

 隣の席にいるからこそできるアタックチャンス。疲れた彼女をさりげなく気遣うことで印象を良くする。単純だが効果的な方法。

 白河と赤坂の言っていた運命の糸とやらが結びついているのかは解らないが、クラスの人気者になっている白河と仲良くなれば相対的に鴇矢の立場も良くなる。

 低いカーストから中くらいのカーストくらいには上がれるという目算。赤坂は馬鹿にしてこう見えても打算して動いているのだ。

「大丈夫よ。ありがとう天野くん」

「いや、それなら良かった」

 で、話は終わった。

 どうやら白河は鴇矢のことなど眼中にも無いらしいということだけは感覚で伝わった。

 望みは新幹線の速度で断ち切られた。



 授業が終わった。後は帰路に就くだけ。

 カバンをしまいながら去りゆく白河の背中を見つめた。

 白河と少しだけ距離を詰めることに成功しただけで他に何も起こらなかった。

 だけど多少の変化があっただけ良しとしよう。

「白河って何か部活に入るのかな……」

 あれだけの運動神経ならどこに入っても即戦力になりそうだが、二年から来た優秀な選手にレギュラーの座を奪われることに気を使って入部しないことも普通だろう。

 そうなれば、もしかしたら同じ帰宅部として一緒に登下校できたりしなかったり。

 なんて妄想するだけ無駄だと解っていてもしてしまうのは男子高校生の性だ。

「帰ろうぜ天野」

「ああ、おう」

「白河はやっぱまだ一人で帰るんだな。今度誘ってみよっかなぁ」

 そんな勇気も無いくせに。それに通学路もほとんど別だろうと心の中でツッコミを入れておく。

「さっさと行こうよ~」

「帰ろ帰ろ」

 ちらりと視線が長瀬の方に向く鴇矢。

「……今日は無理そうか」



 赤坂と谷崎とは駅で分かれた。

 鴇矢は徒歩通学。

 距離的にそんなに遠く無いことと、自転車通学でもいいがまあ歩きも悪くないし何か出来事があるとすれば徒歩通学だろうという妄想の延長線上である為だ。

 もっとも高校入学してから何かおかしな事態に巻き込まれるようなことは一度としてなく、これなら自転車通学でもいいような気もしてならないが、後々になって話すが徒歩通学を止めないのには一つでかい理由がある。残念ながら今日はその日ではなかったようだが。


「あれ……」

なんとなくボケーと前を見て歩いていると見慣れた黒髪があった。

「……白河」

 なんという巡り合わせだろうか。どうやら白河も鴇矢と同じ方角らしい。

 ここはどうするべきだろうか。やはり声をかけるべきか。だが声をかけるとしたらどうすればいい。女子に自分から声をかけれるほど鴇矢は女子に慣れてなどいない。

 そんなどうでもいい男子高校生にありがちな悩みなど当然気にも留めていない白河はどんどん歩いていく。そしてその歩調が徐々に速くなっていくことに鴇矢も気づいた。

 ひょっとして付きまとわれていると勘違いされたのかもしれない。

 とにかく話をなんでもいいからして誤解を解くのが先決だ。


 そうこうしている間に白河が裏路地へと入って行くのが見えた。

「なんだってそんなとこに」

 鴇矢が一度として入ったことのない薄暗いビルとビルの間の裏路地。

 ひょっとするとそこに家があるのかと一瞬疑ったがさすがにそれはないだろうという結論に至り、おそらくそこから通った方が近道なのだろうという憶測をして怪しいストーカーのような足取りでなんとなく後をつけてみた。

 

 やめておけばよかった。


 後から言うのは簡単だが現実は酷く厳しいものでやり直しという便利システムを完備していない。 

 世界を作った奴にモノ申せるのならもう少し都合のいい環境を用意しろと言いたい。


ありがとうございました。

毎日20時に更新していこうと思います。

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