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今日から悪魔(ルシファー)  作者: 流石挿入画
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今日から悪魔(ルシファー)第一章

よろしくお願いします。

【第一章】


 イベントは転校生が来てから一週間後にやってきた。

 早いと感じるかそうでないかは個人の主観によるだろう。

 

 席替えだ。

 

 廊下側の前から三番目という微妙な位置から去れるのはなかなかに好イベントである。

 特別その席が嫌だというわけでもないし、むしろ愛着すら覚えていた頃だが誰かと変われるなら変われるに越したことはない。

 教師が昨日の夜から用意していたであろう銀色の缶を生徒全員に見えるようにかざす。

 缶の中にはプリント用紙を千切って入れたクラス全員分の紙切れが入っておりそれを手にとって決めるという単純かつ原始的なプロセスに文句を言う生徒は一人もいなかった。

 鴇矢は順番が来ると他の面々と同じように紙切れの一枚を無造作に取る。

 これがある意味運命を決めるものだったのかもしれないと今なら思える。

 

 缶に入れられた紙切れ。そこには九と教師自らで書いたであろう文字があった。

 黒板には席ごとに割り振られた番号が書かれており、鴇矢は窓側一番後ろという最高のポジションを手に入れた。

 心の中からガッツポーズをとる。仕方のないことだろう。あんな中途半端な席からの脱却。正直角度的に黒板も見にくかったし、それなら一番後ろの見にくさの方が断然マシだ。

 

 鴇矢が今まで座っていた場所にはクラスのムードメーカー的ポジションの男子生徒が座っていた。

 まあせいぜい次の席替えまではそこで頑張れと心の中で応援してやる。と思いながら自分の席に向かうと最悪なものが目に映った。

 自分の前の席にはよりにもよってクラスのリーダー格でバスケ部のエース様が座っているではないか。

 どちらかといえば日陰者の鴇矢からするとそんな奴が目の前で笑っているのはどうにも気分が良くない。

 できることなら離れた席に座りたい。が決まってしまったものは仕方がないし変えようがないのは承知だがこれなら前の席の方が安寧としていられたかもしれない。ファック。

「やれやれだな……」

 小言を口ずさんで席に着き、教科書を机に入れていた時だった。

「――え」

 

 ふと視線の先に綺麗に整えられた見慣れない黒髪が横切って隣の席に座った。

 

 その存在に当たり前のように目を奪われたことを恥じるべきだろうか。

 イベントは予期せぬところからやってくるということだろう。

 クラスのヒロインの座をわずか一週間で二つに分けた転校生、白河鈴音がそこにいた。

 同じ年齢の同級生。何も怖気づく必要は無いはずなのに鴇矢は一瞬の怯みを見せてしまう。

 それほどまでに彼女の姿は美しかった。

 まるで天使と向かい合ったようなそんな存在。

 

 自分の立ち位置など忘れ隣の席というポジションを利用し、

「よ、よろしく」

 などと言ってしまった。

 なんて思われただろうか。

 きもい。うざい。気色悪い。何こいつ。図々しく話しかけんな。目触りなんだよ。

 考えただけで死にたくなる。顔もついつい紅くなっていく。

 

 そんな鴇矢を察してか、

「ああ、うん、よろしくね」

 気軽な感じで返事を返してくれた白河。

 

 見た目はお嬢様っぽい雰囲気だが声の調子は意外とラフ。

 なんて良い奴なんだろう。これなら、これから隣同士で座っていて消しゴムを落とした時に、咄嗟に手を出して触れてしまうというイベントが起こってもなんら不思議ではない。むしろ必然だ。

 これなら友達作りにも苦労はしないだろうと友達少なめの鴇矢は内心羨ましがりつつ適当に首を振って一礼して席に着いた。。

 

 席替えというイベントの結果さらなるイベントが重なった鴇矢。ではあったのだが、それ以降に何かあったかといえば……結論から言おう。何も起こりはしなかった。

 隣の席ということでたまに話す機会はあってもこれといって進展もない。

 いやそもそも進展的なことを望んでいるわけでもない。

 鴇矢はあくまでヒロイン二人の一人である長瀬派だからだ。

 ただせっかくとなりの席になったのだから多少お近づきになったとしても罰は当たらないだろう。そう考えるのは至って普通のことのように思える。

 

 そう踏んだ鴇矢は思い切って話題を振ってみることにした。

「俺鷺宮駅近くに住んでるんだけど白河さんってどの辺りから来てるの?」

 たわいもない話だったはずなのだが、訊かれた白河はクスクスと笑いを始めた。

 何かおかしなことを言っただろうかと思い返してみるがべつに変な質問じゃなかったような気がする。

 いや、もしかすると白河にとってはとても愉快な世間話だったのかもしれない。確証なんてものは無いが。

「ごめんなさい、皆その質問してくるんだもん、ちょっとおかしくなって」

 なるほどと鴇矢は思いを走らせる。

 ついでにクラスを見やる。

 クラスの男子だけでなく女子までもがしきりにこちらに視線を向けてきている。

 女子はともかくクラス中の男子どもは白河のことが気になっているはずだ。

 だとすれば住所を訊かれることも多いだろう。

 家が近くならばそこから話を盛り上げられるだろうから。

 どいつもこいつも考えることは同じということだろう。

 もっとも鴇矢はそんな連中とは違い純粋な興味から尋ねたに過ぎないが。

「私も鷺宮よ。同じね、えっと……」

 おっと、そういえば名前を伝えるのを忘れていた。

「ああごめん。俺は鴇矢。天野鴇矢っていうんだ。よろしく白河さん」

「うんよろしく天野くん」

 好い。すごく好い。最高だ。

 クラス、いや学園でも一番か二番を争う相手と知り合いになれるとはこんな幸福そうそう起こらないだろう。しかも家が近くときた。もしかすると一緒に下校なんてイベントも…………あるはずないか。

 鴇矢はこれでも多少なりとも心得ている。

 

そうそう都合よく物事は進まないということを。

 

 

 時間は少し流れて四限目の体育の授業。男子は教室、女子は他の教室で行うことになったのだが、男子どもの視線の先には当然のように白河がいた。

 着替えて出てきた白河の胸……ではなく肢体にはついつい目が行ってしまうのは鴇矢も例外ではなかった。健康な男子が健康な女子に興味を惹かれるのは至って仕方のないことといえるだろう。

 授業の内容はバスケットボール。一試合十分。人数の都合上参加する時間より見ている時間の方が多いことは間違いない。。

 バスケが好きなやつにとっては面白いのかもしれない。もっとも鴇矢がそちら側の人間でないことは言わずとも解ることだろう。

 鴇矢のクラスにはバスケなんぞ目に入らないくらいの存在が活き活きとプレイをしていた。それに気付いたのは隣のコートで行われている女子の方から大きな歓声が湧きあがったからに他ならない。

 

 白河鈴音。転校したてホヤホヤの転校生。何かあったのかと凝視してみると、

「なるほどね……」

 白河が動くたびに小さい歓声が上がる。

 白河の相手をしているのはクラスでも比較的運動神経の良い女子生徒だったが、その生徒を凄まじいキレで抜くと綺麗なレイアップでボールをゴールへと放った。ひょっとしたら昔バスケットをやっていたのかもしれない。あんな動きの良い女子高校生を生で見たのは初めてだ。

「こりゃ歓声も上がるわけですわ」

 この学校に女子バスケット部があったならスカウト間違いなしの腕前。お見事というべきか。

 チームメイトと楽しそうにハイタッチをしている姿を遠目に見ながらもうそろそろかと軽めの準備体操をする。本当に軽めだ。体育の授業なんぞで怪我をしたくはないからな。

 

 そうこうしていると鴇矢のチームの番がやってきた。ボールは何度か回ってきたが少しドリブルしたら他のメンバーにパスをするという単調作業を繰り返すこと十分。鴇矢のチームは気持ちの良いくらいの点差をつけられて敗北した。

 白河と違い大した活躍もなくあっさりと試合終了した鴇矢はまた定位置のような場所に腰を下ろす。一体こんな玉突きボール投げの何が楽しいのだろうかと本気で考えた結論から言うと、雑魚相手に無双できるであろうバスケ部員くらいしか楽しんでいない。

 間違いない決定的明らかだ。

 鴇矢はただただ授業の終わりを待ち続けた。


ありがとうございました。

これから20時に更新していく予定です。

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