第二話
「あのなあ藤木、報告はすぐにしなきゃ意味がねえんだよ
わかるか?俺が把握してないと、先方に聞かれた時に恥を書くのは俺なんだよ。
大体お前はいつも…」
今日の郷田さんは雷というよりも寒風という感じで、しんしんとこたえる説教だった。
消沈した博は、しかし目的があることで、いつもより早足だ。
川沿いの高架下に行くと、やはりまだあの犬は居た。
「やっぱりお前捨てられたんだな」
犬は小首をかしげている。
「お前は人間で言ったら爺さんだな。腹減ってるか?ジイ」
返事代わりに大きなくしゃみをしたジイに、用意してきた惣菜パンをちぎってやる。
すぐにぺろりとたいらげるジイ。
「次は魚を持ってくるよ、缶詰でうまいのがあるんだぞ」
なにげなく頭をなでてやろうと思い手を伸ばしたが、
ジイは首を引っ込めてしまい、触らせてくれなかった。
それから博は毎日高架下に通った。
鯖や焼き鳥の缶詰、フランクフルトなど
ジイが喜んでくれそうなものをランダムに買って、与えた。
ジイは好き嫌いなく食べるのだが、スキンシップを取ろうとするとすぐに逃げてしまう。
博は動物に対しても打ち解けることができないのかと、悲しくなってしまった。
その日は一時間だけ残業をして、ジイのご飯を選びにいつものコンビニに入店した。
たまには麺類なんてどうだろう。
ジイは好物かな。
思案しながらふとお菓子のコーナーに目をやると、
青い帽子を深々と被った若者が、2~3個のガムを手に取ってるところだった。
その瞬間、帽子の青年はちらっとレジの方を観たかと思うと、
するりと上着のポケットにそれを滑らせた。
博は一気に心拍数が上がった。
万引きだ。
「ちょっと」
思わず体が動いた。
「それ、商品だぞ、返しなよ」
青年に詰め寄ると、帽子の青年は目をかっと見開き、博を突き飛ばした。
床に転げる博を飛び越えて、青年は一目散に店を出て行った。
その様子を見ていた店員が追いかける。
博は転倒した際に捻った右手首を押さえて、もだえていた。
結局帽子の青年は店員に取り押さえられた。
博は店長らしき人からのお礼をあとに、高架下へと向かった。
病院に行きたかったが、腹をすかしたジイを思うと、行かないわけには行かなかった。
到着すると、そこには相変わらずのジイ。
「ほれ、ジイ、今日は早く帰るからな」
焼きそばを置こうとかがんだ博に、ジイはおもむろに近寄る。
すると博の青くなった右手首のあざを、ペロリとなめた。
「く~ん」
博はジイが尻尾を振る姿を、初めて見た。
頭をなでられるのを嫌がっていたあのジイが。
「ジイ、お前痛みがわかるのか」
そんな驚きと嬉しさがない交ぜになって、
その日の夜はいつもよりほのかに明るく感じられた