急遽手伝い
それから10分とかからず完食した。もう噛めば噛むほど味わい深くなっていくのがたまらない。
店内は丁度昼食の時間と重なったのか、お客さんが増えてきた。本当動物型とか空想上の生き物型とか様々な客がいるな。大分慣れてきたものの、とてもシュールだ。俺って中々出ていかない客だなと思われてるだろうし、これ以上ここにいるのはちょっと迷惑かもしれない。退散するその前に、
「すみませーんちょっといいですか~」
「はーい!何かお呼びですか?」
俺が座っている席にやって来たエプロン姿のミモニーニュに料理のお礼を言おうとしたが、
「もしかしてまだ足りないでしょうかっ!?おかわりならまだありますけれど」
「是非ください!」
「わ、分かりました!」
せっせと空になっていた皿を持って厨房に戻っていく。他の客に迷惑?いや、あの料理がもう一度食べられるなら絶対そっち取るでしょ普通。味をしっかりと記憶しておきたいのだ、他人のことは知らん。
「店員さーん早く注文来て!」
「客を待たせるな~!」
「は、はいぃぃ!少々お待ちくださいぃぃ!」
大変そうだな。まず一人でお店をやろうとしたら一度に対応するお客を少なくしないといけないのだが、この店内に20以上も客席を設けているのは彼女の意地だ。多くのお客さんに来てもらいたいのだそうで。
これは過労死の心配があるぞ、折角お店が存続出来ても一番は体が資本だしもっと仕事を減らさないと危険である。ちょっと注意しとこう。
「お、お待たせっ、しましたっ。おかわりです」
「あ、ありがとう。それより他の客の方を先にしても良かったんだけど」
「いえ!モットウさんは私の命の恩人ですから、優先して当然ですっ!」
・・・それってお店の人としてどうかと思うが。
「おいっ!早く料理来いよぉ!腹が減ってんだ、客に飯を食わせろよ!」
「「こっちも注文!」」
「はいっっっ!すぐに向かいます!モットウさん、お代わりは何時でもお持ちしますので」
と、言われても、これ以上の仕事を増やすわけにはいかない。これ以上のお代わりは諦めると心に誓った。
「くれぐれも体気をつけて、働きすぎだから」
「大丈夫です!」
そう言って、ミモニーニュは早足で注文を取りに行った。だがその足元が少しふらついており疲れが見え見えである。
よし、これを食べ終わったら手伝うことにしよう。名義上俺がここの店のオーナーになってるから。
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「ありがとうございました~またお越しくださ~い」
「いまの客で最後か」
「はいっ!材料も殆ど底をつきましたし、もう閉店です。あのぉ~モットウさん、今日は本当に助かりました!」
「いや、マジ俺がやったことって大したこと無いから」
主に注文取り付けと皿洗いがメインだったが。そんなこと小学生でもやろうと思えば出来るし。
「でもでもっ、今日はいつもよりお客さんの数が多くて忙しかったですので、モットウさんがいなかったらどうなっていたことか・・・本っ当に、ありがとうございます!」
「まあまあ、結果オーライと思うよ。最後は客全員が満足顔で帰っていったし、あの料理の美味しさパワーだな」
「いいえ、私なんてお母さんの料理の腕に比べたらまだまだですよぉ」
「そんなことより、これから先一人でお店をやるのは体が危険と思うな。どうして従業員を雇わないんだい?」
「ええと、それは・・・」
ミモニーニュはそのまま黙り混んでしまった。何か言いたくないことでもあるのだろうか。
「別に悪いとは言ってない。でもこの先将来のことを考えたら自身の体は大事にしておかないと。女の子なんだから」
「ふぇっ?あ、はい。そうですね。気をつけます。でも今は大丈夫!まだまだ働いて大勢の人に料理を食べてもらうんですから」
それが今の目標か。羨ましいな。俺にはそんな意識の高い目標があるだろうか?
・・・。
なかった。全く。
「えっと、モットウさん、何でそんなに落ち込んでるんですか?」
「いや、気にしないで」
「は、はい。それから気になっているのですが、お店の戸棚にある全てのお皿がピカピカになっているのは――――」
「ああ、ちょちょいと片付けといたよ。いやーいろんなお皿があって面白かった」
「えぇぇぇぇぇぇ!?私なら一日はかかる量ですよ!一体どうやってこんなに新品見たいに?それにモットウさん冒険者の方なのにお皿を洗えるのはっ!」
「どうって、鼻歌歌いながらずっとやってた。まー皿洗いは日課でもあるし」
毎日夕食朝食後に皿洗いやってれば熟練するのかも。
ちなみに冒険者はざっくり言ってモンスター狩って生計を立てる職ね。基本誰でもなれるが誰でも稼げるとは言ってない。そこら辺大きく差が出る所。
で、冒険者は飯なんて全て飲食店で済ませるから料理なんてまともに出来ないと思われがちである。ま、例外で食通もいるにはいるが。
俺は皿の洗い方すら知らないと思われたが、丁度いい、この際だから彼女には俺のことについて教えとこう。言いふらすようなことはないと信じて。
「ミモニーニュ。今から俺が言うことは事実で、誰にも言わないでくれ」
「は、はいっ。誰にも言いません」
「ええと、まず俺のこの服装から分かるように・・・」
少し間を開けてから俺はこう言い放った。
「この世界の人間じゃないんだ」