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その8 魔王さま、方針を決める

 





 フェアリー族を解放したことで、世界征服へ向けて具体的にどうしたらいいのか、少しずつだけど見えてきた。

 まずは魔王城の周囲の開拓。

 なんでこんな広い土地なのに、住み着いてる魔物がほとんど居ないのか不思議でならなかったんだけど、たぶん土壌の毒素のせいだ。

 ニーズヘッグと協力して、地道に毒素を取り除いていくしか無い。

 そして土地が広がった所で、新たな種族の魔物を誘致する。

 グリムの言うとおり、強い魔物を倒すことで僕の名前が有名になれば、あちらから配下になりたいと申し出てくる魔物も出てくるだろう。

 けど僕は、それだけじゃ少し足りないと思ってる。

 領主の魅力だけじゃない、その土地自体にも魅力が必要なんだ。

 そう考えた僕は、グリムに黙ってフェアリーたちの家を訪れていた。


 彼女たちが配下になってから数日が過ぎ、フェアリーの里には2つの建築物が完成していた。

 一つはフェアリーたちが暮らすための家、そしてもう一つはこうして話し合いの場を設けるための場である。

 彼女たちの家はサイズが小さいため僕は入ることが出来ない、だから別に建物を作る必要があったんだ。


「花畑? それはフェアリーとしても嬉しい提案だけど」

「どうして、魔王城の近くにそんなものが必要なんですか?」


 話し合いの場に出てきたのは、ライムとシトラスだった。

 ライムは実質的にフェアリー族のリーダーとして、あらゆる事柄の決定権を握る立場にあった。

 シトラスはその補助役として、いつもライムに付き添っている。

 里が大きくなれば、じきに彼女たちが長となり、フェアリーたちを率いる立場になるはずだ。


「まずフェアリーに増えて欲しいってのがある。他の魔物と違ってフェアリーは自然が豊かであるほど早く増えるって聞いたけど、そういう認識でいいのかな」

「ああ、私たちは自然の化身みたいなもんだからな。広い花畑が出来れば、誕生する数も増えると思う」


 具体的にどう増えるのかは、なんとなく怖くて踏み込んで聞けなかった。


「フェアリー族が増えれば、衣服を生産するスピードも上がるし、やがては観光資源にも出来ると思ってる。気長な話になるけどね」

「観光、ですか? 魔物が花を見に来るとは思えませんが」


 シトラスが首を傾げた。

 彼女の疑問はもっともで、僕も我ながら気の早い話だとは思ってる。

 けど、どうせいずれかは直面する問題なんだ、早いところ手を打っておいても損はない。


「実はターゲットは魔物じゃないんだ。領地を広げていけば、いずれ人間も僕たちの存在に気づく、気づけば彼らは僕たちを排除しようとする。まあ僕の力があれば人間には負けないと思うけど、戦争になれば犠牲者は免れないと思う。僕としては、それだけは避けたい」

「そこでどうして花畑だなんて話になるんだ?」

「綺麗で広大な花畑があれば、それだけで人間は見に来るものさ。実際、人間の世界には花の都と呼ばれる都市があって、毎年すごい人数の人が訪れてた。最初はもちろん警戒すると思う、けどいい噂が広まれば――やがては普通に人間が訪れるようになるかもしれない。僕たちの国に好意的な感情を抱く人間が生まれた時、彼らはとても戦争がしにくくなるんじゃないかって思うんだ」

「人間、か……」


 ライムはやはり、人間に対してあまりいい感情を抱いてないみたいだ。


「いや、私は魔王様に従うって決めたんだ、それに私たちだっていつまでも5人じゃ寂しいしな。その話、引き受けさせてもらう」

「ありがとう、助かるよ」

「礼なんて言わないでくれよ、主なんだからもっと偉そうに構えてくれ。せっかくその服だって似合ってるんだからさ」


 似合ってるん、だろうか。

 まだまだ服に着られている感じが抜けてくれない、ひらひらはためくマントも違和感があるし。

 慣れるまでどれぐらいかかることやら。


 フェアリーたちに花畑の話をしたように、僕の頭の中にはいくつか他の案も浮かんでいた。

 例えばこの服、人間では作ることの出来ない上質な布で出来ており、縫製技術も非常に高い。

 こんな物をたったの2日で作ってしまうのだから、驚異的な技術力と言える。

 そこら辺の木から繊維だって作れてしまうのだから、コストだって低い。

 この服が、もしも人間の世界に流れてきたとしたら……?


 そう、つまり――文化による侵略。


 どうしても戦争をしたくないって言うんなら、それしかないと考えたんだ。

 なんにせよ、まずは人手がないと話を進めることすらできないわけだけど。


 魔王城に戻った僕は、早速グリムにとあることを尋ねた。


「建築が得意な魔物、ですか?」


 何にせよまず、城下町を作らなければ始まらない。

 いつまでも魔王である僕が直接手を貸すわけにもいかないし、配下だけで町を作り上げられる力が必要だった。


「技術はともかくとして、力仕事でしたらオークが一番良いのではないでしょうか」


 力仕事全般となると、建設だけでなく、農耕も任せられるかもしれない。

 オークか。大きな緑色の体で、闘争を好む種族と聞いたことがある。

 そんな彼らを仲間に引き入れることができるんだろうか。


「ただし、フェアリーのように簡単にはいかないと思いますよ」

「それはどうだろうな。オークは力に従う種族だ、強い力さえ見せつければフェアリーよりも御しやすいぐらいだぞ」


 ニーズヘッグが言った。

 力だったら僕も行けるかもしれない、そう思っていたけど、グリムがそれを否定する。


「ニーズヘッグ、ですが彼らは……魔力の力を真の力として受け入れてない節があります」

「どういうこと?」

「腕力をもっとも重要視しておるということだ。お前は魔力以外は普通の人間と変わらん、オークの相手は向いていないとい。だが案ずるでない、そのために私が居るのだからな」


 確かに、竜の力をそのまま持つニーズヘッグなら、どんなに強いオークでもその拳一つで全滅させることができるはず。

 ここは、自信ありげに拳を握るニーズヘッグを信じるしかない。

 まあ、いざとなれば強化魔法で僕の腕力を高めたらいいだけなんだけどね。


「オークの住処はフェアリーの里よりもさらに南にあります」

「人里に近いんだな」

「あえて刺激を求めてそこに住んでいる、なんて話もあるぐらいです。それだけ好戦的な種族ということですね。早速行っちゃいますか?」

「もちろん!」


 思い立ったが吉日。

 僕らは城を出て、フェアリーたちに見送られながら南へと向かった。






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