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その7 魔王さま、大盤振る舞いする

 





 フェアリーたちは、まるで敵地に送られる捕虜のような顔で魔王城のある城のふもとへとやって来た。

 一体どんな酷い目に合わされるのか、そればかりを考えてるみたいだ。

 僕がやったことの結果なんだけど、そう露骨に怯えられると、嫌われるのとは別の意味で心が痛いなあ。


「マオさま、どうして城に行かないんですか?」

「配下にした魔物を全員城に住ませるにもかないからさ、場所を与えてそこに新しく里でも作ってもらおうかと。もちろん完成までの間は城の部屋を貸すつもりだけどさ」


 僕の言葉を聞いたフェアリーたちがざわめく。

 そんなに驚かなくてもいいのに、牢屋にでも閉じ込められると思ってたのかな。


「ですがマオさま、このあたりの土壌は毒素に汚染されています。他の魔物ならともかく、フェアリーたちが暮らせる環境ではありませんよ?」

「どうりで人間の住んでたエリアじゃ見かけない植物が群生してるわけだ。じゃあどうしよっか、別のところがいいのかな」

「ふっ、魔王様よ、私が誰だか忘れておらぬか?」

「忘れてないよ、ニーズヘッグでしょ?」


 ニーズヘッグががくっとこける。

 そういうことを言ってるんじゃない、ってこと?

 けど、ニーズヘッグって邪竜だよね、破壊は得意だけど土壌の毒素の浄化なんてできるのかな。


「伊達に邪竜は名乗っておらん、毒を扱うぐらいお手の物だ。このあたりを魔王様が更地にしてくれれば、土に溜まった毒素を浄化することもできるぞ」

「それは助かるよ、僕も土壌の浄化なんてイメージしづらいからね」


 得意げに語るニーズヘッグ。

 それは助かる、さすがに僕も毒の浄化なんてイメージしづらいからね、試してみてもいいけど上手くいくかは微妙な所だった。

 早速、僕は意識を集中させる。

 樹木や雑草だけに対象を限定させると余計に複雑だし、除去する対象は地面を除く全ての物体にするとして。


「アンチグラビティ!」


 魔法を唱えると、周囲にある全ての物体が宙へ浮かんでいく。

 フェアリーたちがさらにざわついている、驚かせてばっかりで申し訳ない。

 毒素に冒された異形の樹木も根っこから掘り起こされ、あたりにヘドロのような匂いが充満した。

 確かにこんな土じゃ、自然の化身なんて呼ばれてるフェアリーが生きていけないというのも納得だ。


 僕は持ち上げた不純物たちを頭上で一箇所に集め、可能な限り小さく凝縮させていく。

 それでもかなりの量はあったけど、このサイズなら問題なく処理できそうだ。

 処理の方法は、もちろん焼却処分。


 シンプルに燃え盛る炎をイメージ、放つのではなく対象の内側から炎上させる。

 温度は一瞬で上空のアレを焼けるほどの高温で。

 僕は上空に向けて手をかざすと、二発目の魔法を放った。


「イグニッション!」


 放たれた魔力は上空で圧縮された不純物の中央へと溜まっていき――そして一気に温度を上げ、周囲を焼き尽くした。

 空の上で炎が太陽のように燃え盛っている。

 影響が内容にできるだけ高い場所で発動させたけど、それでも地表に居る僕たちの所まで熱は届いていた。


「これが、魔王の力……」


 シトラスが呟いた。

 気持ちはわかる、僕自身も我ながらとんでもないことやってるなって自覚はあるから。


 上空の炎はほどなくして消え、周囲は見事な更地へと変貌した。

 今度はニーズヘッグの番だ。

 僕の魔法を見て対抗心を燃やしているのか、一つ一つの動きにやけに気合が入っている。

 更地のど真ん中に立ったニーズヘッグは地面に手を付けると、目を閉じ、精神を集中させた。

 竜だった時とは色々と勝手が違うと言っていたけど、大丈夫なのかな。


「我らを冒す邪なる毒素よ、その存在意義を知り、相応しい者の元へと還れ」


 ニーズヘッグの地面につけた右腕が、紫色に淡く輝いた。

 あれは……魔法だ。

 そっか、ブレスは竜の特性だから詠唱は必要ないけど、普通に魔法を使う時は竜も詠唱が必要なんだ。

 けど、人間の世界じゃあんな詠唱句は聞いたことが無い。

 魔物だけに伝わっている魔法なんだろうか。


「ドレインポイズン」


 詠唱が完了し、魔法が発動する。

 ドクン、ドクン、ドクン。

 ニーズヘッグが触れた地面が脈打つように揺れ、そして彼女の腕の紫がどんどん濃くなっていく。

 毒を吸収して、自分の力に変えてるんだ。

 その証拠に、毒素に冒され変色していた地面が、みるみるうちに正常な色へと戻っていく。

 そして全ての毒を吸い尽くしたニーズヘッグは満足げに「ふぅ」と息を吐くと、したり顔で立ち上がった。

 これは僕の勘なんだけど……たぶん、褒めて欲しいんだろうな。


「すごいよニーズヘッグ、こんなことができるなんて!」


 ちょっと大げさに褒めてみる。


「ふふん、あまり褒めるでない。この程度、邪竜の手にかかれば容易いことだ!」


 するとニーズヘッグは鼻息を荒くして胸を張った。

 容易いのはニーズヘッグの方だよ……とは口が裂けても言えない。


「これでフェアリーでも住める土地になったかな」

「えっ? ま、まさか、この広い土地を……私たちに与えるって言うのか!?」


 ライムが戸惑いながら口を開いた。


「うん、そうだよ。好きに使ってくれていいよ、必要なら木材や石材も持ってくるし」


 ひょっとして広すぎて困ってるのかな。

 と言っても、別に最初から誰の土地でもないし、余らせてくれてもかまわないんだけど。


「よ、要求は……貢物は何を捧げたら良いんだ? 体か? 血か? それとも命か!?」

「はは、そんなのいらないって」


 僕は思わず苦笑いを浮かべた。

 そういや、配下が増えて、町が大きくなったら、税金とかも考えなくちゃならないのかな。

 勢力拡大ってのも楽しいことばかりじゃなさそうだ。


「だったら何が欲しいんだ? 何のためにわざわざ里にまでやってきて、私たちをミノタウロス様から解放したんだよ!」


 ライムの疑問ももっともで、本来なら最初にそれを話しておくべきだった。


 そもそもフェアリー族を配下に加えようって話になった発端は、僕の服装がみすぼらしいって事からだった。

 元々フェアリー族の里があった場所から、魔法使って持ってこれる限りの資材や道具は運んでいる。

 どうやら彼女たちは、原理はわからないけど森の樹木から布を作ってたらしいから、持ってきた資材の中に僕一人分の衣服を作る程度の布はあったはずだ。


「とりあえず魔王っぽい服を作ってもらいたいんだけど、いいかな?」


 そんな要求をされると思っていなかったライムは、僕の言葉を聞いて完全に止まってしまった。

 まあ、そりゃそうだよね。

 まさか服を一着作るために、フェアリー族をまるごと配下にする奴がこの世に存在するだなんて想像しなかっただろうから。






 フェアリーたちを配下に加えた翌々日。

 文句を言うニーズヘッグと協力して、新たな里を作るための石材や木材を集めていた僕の元に、一人のフェアリーが飛んできた。

 気弱そうな彼女の名前はレモン、フェアリーの里で最も服作りが得意な少女だった。


「あの、お気に召すかはわかりませんが、ひとまず服が出来たのです」

「え、もう出来たの?」


 採寸を受けたのが一昨日のこと。

 まさかたった2日で出来るとは思ってなかったもんだから、当然僕は驚いた。


 レモンに連れられて魔王城に戻った僕が目にしたのは、派手に成りすぎないように装飾が施された黒い衣服と、対象的にド派手な赤いマントだった。

 まさに”魔王っぽい服”そのものだ。


「良い出来ではないか、さすがフェアリーの作った服なだけはある」


 2日で作った服とは思えない、人間の基準で言えば一流を優に通り越して超一流だ。


「替えの服はもう少しかかりますです、お待たせしてしまい申し訳ございませんです魔王さま」

「替えまで作ってくれてるの?」

「洗濯が大変だと思うので、念のために三着は作る予定です」

「そこまで考えてくれてるんだ……助かるよ、ありがとうレモン」


 僕はレモンの頭を指で撫でた。


「ん……」


 レモンはくすぐったそうに体をよじる。

 体が小さいせいでついつい子供みたいな扱いをしてしまう、僕よりよっぽど年上なのに。


 僕はその服を早速着てみることにした。

 記事の手触りは驚くほど柔らかく滑らかで、今まで着ていた服とは比べ物にならない質の高さだ。

 工場があるわけでもないのに、これほどの布が作れるなんて、ミノタウロスの配下にしておくのは勿体無い。

 サイズはぴったり、もちろん着心地も最高だった。

 僕はマントを羽織って、魔王城に元からあった鏡の前に立ってみる。


「随分と魔王っぽくなったではないか。その姿で力を見せれば、どんな魔物でもひれ伏すだろうさ」


 後ろから見ていたニーズヘッグが、満足げにそう言った。

 皮肉でも何でもなく、素直に褒めてくれるみたいだ。

 実際、鏡の中に居る僕はまるで僕ではなく、本当に魔王のようだった。

 服って大事なんだね、痛感したよ。






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