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その12 魔王さま、ダンジョン探索に向かう

 





 ザガンが配下になった翌日のこと。

 僕は自室にグリムを呼び出して、問いかけていた。


「で、結局なんのためにザガンを配下にしようと思ったの?」

「おやおや、やはりマオさまにはバレていましたか」


 あれで気づかないほうがどうかしてるって。


「角を見ればなんとなくわかるとは思いますが、彼女はデーモン族と呼ばれる種族の魔物です。デーモン族は高度な魔法の知識を持っていることで有名な種族でして、仲間に引き入れれれば何かしら役に立ってくれると思ったのですよ」

「あの子が……高度な魔法の知識をぉ?」


 ザガンには申し訳ないけど、全くそんな風には見えない。


「いや、私もザガンがそのような知識を持っているとは思っていませんよ。ですが、いつかデーモン族を仲間に引き入れる時、彼女が居たら話がスムーズに進むかもしれないじゃないですか」

「そこまでするほどデーモン族ってすごいやつらなの?」

「ぱないです」


 ぱないのか、それは楽しみだ。

 ザガンを見てると限りなく不安だけど。


 グリムとそんな話をしていると、噂のザガンがノックもせずに部屋に入ってきた。

 ダインスレイヴの使い方を教える前に、まずはマナーから教える必要があるみたいだ……。


「まおーさま、いるか?」

「いるよ、部屋に入るならノックぐらいしなよ」

「ノックか、扉を叩けば良いんだな? わかった、次からは気をつける!」


 常識は無いけど、ほんと素直だなこの子。

 素直すぎて怒りにくいのは欠点だと思うんだ。


「ところでまおーさま、今日はな、まおーさまの役に立ちたいと思って遠路はるばるやってきたんだ」

「それは大変だったな」

「うん、大変だった! オークたちと腕試ししたりして、実はけっこうへとへとだ。でも私が勝ったぞ、デーモンは強いからな!」


 ザガンは胸を張って自慢げに語った。

 へえ、オークに勝てるだけの力はあるのか。

 メンタルめちゃ弱だったから期待はしてなかったけど、ダインスレイヴ抜きでも結構戦えるのかな。


「それでな、まおーさまはアーティファクトって知ってるか?」

「いや、知らないけど」

「アーティファクト!」


 グリムが大きな声を上げた。

 びっくりしたなあ。

 でもグリムが驚くってことは、それなりにすごい情報みたいだ。


「この世界ができた時、神が気まぐれでどこかに隠したと言われている秘宝ですよね!? 何でも、とんでもない魔法の力が宿った道具なんだとか。以前の魔王さまもアーティファクトを探すために捜索隊を結成したのですが、結局みつからなかったんですよ」

「すごい物なんだね。で、それがどうしたの?」

「みつけた!」


 ザガンはあっさりとそう言いきった。

 グリムが仰け反りながら、さっきよりもさらに大げさに驚いている。


「な、なんと? 今、なんと言ったのですかザガン!?」

「せいかくには、アーティファクトが眠ってる遺跡を見つけた」

「どこにあったんですか!」

「このお城にくる前にな、ツルが足に引っかかって、こけてすっごい痛かったんだ。そしたら涙が出て、その雫がふしぎな形をした石に落ちたら、石がシュバーって光りだして、ゴゴゴゴゴって入り口が出てきたの!」


 擬音が多くてよくわからないけど、ザガンの涙がトリガーになって遺跡が見つかったってことなのかな。

 乙女の涙が封印解除の鍵ってのはどこかで聞いたような話だけど、神様もそういうの好きなんだね。


「どうしてそれがアーティファクトが眠る遺跡だってわかったの?」

「書いてあったんだ、ここに水のアーティファクト眠る、って」


 神様は親切だなあ、まったく。

 まあ、気まぐれで作るぐらいだから、宝探しゲーム気分だったんだろうな。


「水のアーティファクト!」

「グリム、それも知ってるんだ」

「『創生歴書』と呼ばれる、魔王さまの時代より遥か昔に書かれた古文書にその存在が記されているんです。アーティファクトは火、水、風、土、光、闇の6つ存在していて、それぞれに対応した力が秘められています。そのうち水は、いくらでも綺麗で透き通った水を生み出す宝玉なんだとか」

「なん……だって?」


 グリムの言葉を聞いて、僕の体に電撃が走った。

 水を、いくらでも生み出せる? 僕の力を持ってしても中々解決できない水の問題を、それ1つだけで解決できるの?

 そんな道具が実在するだなんて。


 魔王城の近くは、どこを掘っても温泉しか出てこない。

 生活用水として使えないことは無いんだけど、湧き出した温泉が飲料用として適してないのが致命的だった。

 そのせいで、今も毎日僕が少し離れた場所にある川から水を汲んできて、フェアリーやオークたちに配ってたりする。

 魔法で水を出したって良いけど、手から出てきた水を飲みたくないって言う住人(主にニーズヘッグ)もいるからさ。

 川の流れを変えてこっちに流してしまえばいいって案も出たんだけど、グリムに止められてしまった。

 川の恩恵を受けている他の魔物の反感を買うと厄介だ、ってね。


 けど、その水のアーティファクトさえあれば、それらの問題は全て解決する。

 いいや、それどころか広場を作って噴水のモニュメントを作ってみたり、おいしい水で料理を作ってみたり、清流が無いと作れない農作物にも手を出せるかもしれない。

 綺麗な水源は人間の世界にだってそうそうない、アーティファクトから生まれた奇跡の水! ってことで売り出せば、それを目当てにやってくる魔物や人間も出てくるかも。

 夢が膨らむぞ……!

 欲しい、ぜひ欲しい、なんとしても欲しいっ!


「ザガン、その遺跡の入口は今も開いたままなのかな?」

「うん、たぶんそうだと思う」


 すでに何者かの手によって荒らされてる可能性だってある。

 ことは一刻を争う、もし水のアーティファクトを狙うのなら、今すぐにでも出発しないと。


「グリム、今すぐ出るよ!」

「おお、いつになくやる気に満ちてますねマオさま!」

「諸問題が一気に解決する便利アイテムが手に入るかもしれないんだ、そりゃテンションだってあがるよ」

「まおーさま、わたしやくに立ったか?」

「立った、すげー立った! 褒めてつかわす!」

「えへへー……」


 わしゃわしゃと頭を撫でてやると、ザガンの表情がとろんと蕩けた。

 しまった、また子供みたいな褒め方しちゃったよ。

 でも喜んでるからいいかな。

 なんつーかザガンって、悪魔ってより犬っぽいよね。

 素直で健気だし、柴犬的っていうか、打算を抜きにしても配下にして正解だったのかも。


「何やら面白そうな話をしているようだが、私もついていって良いのか?」


 いつの間にかドアの所にもたれていたニーズヘッグが、少し不貞腐れながら言った。


「安心してよ、最初から連れて行くつもりだったから」

「安心もなにも最初から心配などしておらん」

「はいはい、わかってるよ」

「本当にわかっておるのか!?」


 やけにつっかかってくるニーズヘッグ、そんなに自分だハブられそうになったのが嫌だったのかな。

 僕の次に強いニーズヘッグを連れて行かないわけがないのに。

 こうして僕は、グリム、ニーズヘッグ、ザガンを連れて、4人パーティで水のアーティファクトが眠ると言われている遺跡を攻略することになった。






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