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その11 魔王さま、自称魔王になつかれる

 





 オーク族が完全に引っ越しを完了するまでには、5日の月日を要した。

 まず歩いて魔王城のある場所まで移動しようと思ったら、5日はかかってしまうからね。

 オークたちが荷物を持って移動している間に、僕とニーズヘッグが空からかさばる荷物を運ぶ。

 運び終わったら今度は土壌の浄化、フェアリー族に見せた時と同じように不純物を取り除き、焼却し、あとはニーズヘッグが浄化する。

 それをぶっ通しで5日間やったわけで、体力や魔力的には平気でも、精神的にドッと疲れてしまった。


 ……というのが、ニーズヘッグの主張だった。


 要はニーズヘッグは、ご褒美を要求しているのだ。

 そう言われてしまうと、僕としては彼女の”お願い”を断ることができないわけで。


「ほんとにこんなので良かったの?」

「前回は楽しかったからな、晴天であれば完璧だったが、まあ贅沢は言うまい。しかし、魔王城は娯楽が少なくて退屈でかなわんな」


 僕とニーズヘッグは、なぜか再び2人で温泉に入っていた。

 わざわざ背中合わせになるぐらいなら、1人で入ったほうが気楽だと思うんだけどな。


「だからって僕で遊ばれても困るんだけど」

「遊んでなどおらん、今日は背中を借りているだけではないか」

「本当にそれだけ?」

「疑り深いやつめ。なんだ、まさかまたあの感触を味わいたいなどと言うのではないだろうな?」


 味わいたくないと言えば嘘になる。

 いや、そりゃさ、僕だって男だしね。


「そこで黙られると困るのだが」

「話を振られた僕だって困ってるよ」

「ふん……」


 ニーズヘッグの背中の体温が上がってる。

 また自分で振ってきておいて、自分で恥ずかしがってるのか。

 何かと面倒なニーズヘッグに対し、苦笑い混じりのため息をついていると、城の方からばっさばっさと慌てた様子でグリムが飛んでくる。


「マオさま、来ましたよ、ついに来たんです!」

「なにが?」


 ついにって言うほど、まだ何かを積み重ねたつもりはないんだけど。


「挑戦者ですよ。魔王の名を賭けて戦いたいと言って、今すぐ城の主を出せと要求しています!」

「うわ、めんどくさそ……」

「以前はよくあったことだと聞いているぞ、それだけ魔王の名には価値があるということだ」

「そんなことしたって、結局は力が伴わないと魔王にはなれないと思うんだけどな」

「言ってくれるな魔王様、まあ相手はお前さんの力など知らぬだろうから、見せつける意味でも相手をしてやるといい」


 せっかく温泉を楽しんでたのに。

 僕はお湯からあがると、少し不機嫌に挑戦者の元へと向かった。






 挑戦者は玉座の間にて僕を待っているという。

 いまいちやる気が出ない中、例の服とマントを羽織った僕は挑戦者と対峙する。


「あらわれたな、魔王の名を語るふとどきものめ! 我が名はザガン! 魔物をすべる真の魔王なり!」


 この身長140cmほどのちんちくりんな少女は、ザガンっていうらしい。

 頭には牛のような二本の角が生えていて、刀身の黒い剣を高らかに掲げながら、台本に書かれたような文言を続けた。


「みよこの剣を、これこそ太古の時代に魔王が使っていたと言われている魔剣ダインスレイヴ! 竜の鱗すら容易く切り裂くこの剣こそ、わたしが本物の魔王であるあかし――」

「クラッシュ」


 パリィィンッ!

 僕はかかげた剣に指先を向けると、破壊の魔法を発動した。

 無残にも粉々に砕け散る(自称)魔剣ダインスレイヴ。


「あっ」

「はい終わり、帰った帰った」


 手をひらひらと振って帰るように促すも、ザガンは全く動かない。

 砕け散った剣の柄を持った状態で、完全に止まってしまっている。

 これは強制排除が必要かな――と思っていたら。


「と、とおさまの……とおさまの、剣がぁ……」


 ザガンの目の端に涙が浮かび始める。


「どぼざまがぁっ、わだじにっ、のごじでぐれだぁっ、かだみのけんがあぁぁぁっ……」


 そしてついには、ボロボロと涙を流して本気で泣き始めてしまった。

 いや、嘘でしょ? 魔王城に単身乗り込んでくる勇気はあるくせに、剣が砕けたぐらいで敵前で泣き出すなんて。

 そりゃお父さんの形見は大事だろうし、僕だってそんな物が壊されたら悲しいけどさあ。


「ごれざえあればぁ、まおーになでるっでぇ、とぼざまいっでだのにぃ……こわれ、ごわれでぇっ、これじゃ、もう、わだじ……まおーになれないよぉぉぉぉっ!」


 たぶん剣が無くても最初からなれないと思う。


「あーあ、泣かせちゃいましたねマオさま」

「え、これ僕が悪い流れなの?」

「いきなり剣を砕くなんて無情すぎます、情緒もへったくれもありません」


 確かに、温泉を邪魔されて気が立ってたのは事実だけどさぁ。

 それだけで僕が悪いってのは……いや、でも……小さい女の子がボロボロ泣いてるのを見ると、罪悪感は沸いてくるんだよね。


「はぁ、しかたないなぁ……リストア」


 手をかざしてそう唱えると、砕けたダインスレイヴはみるみるうちに元の姿に戻っていった。

 これで泣き止んでくれるかな?


「ひっく……っく……あれ、あれ? なんで、なんで戻ってくの?」

「僕の魔法だよ」

「お、おまえの……まほーが?」


 ようやくザガンは泣き止んでくれた、これで気持ちよくお帰り願える。


「力の差はわかったろ? もう帰りな、魔王になるのは諦めて……」

「いやちがう、これは私に秘められた魔王の力が目覚めた結果だ! 父さまが私に諦めるなと言っているんだ、さあ魔王を名乗るふとどき者め、今度こそ私が引導をわたして――」

「クラッシュ」

「あああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ほんと話聞かねーなこいつ。


「また泣かせましたね、マオさま。弱い者いじめはよくありませんよ」

「いや、だから何で僕が悪いことになるの!?」

「なぜでしょうね、なんだかこの子からは不憫なオーラが出ているような気がしまして。それにあの剣、正真正銘、魔剣ダインスレイヴですよ」

「え、本物なの?」

「はい、大昔に魔王さまが使っていた、魔器と呼ばれる装備のうちの一つです。勇者に倒された後、魔王城を人間どもに荒らされた時に散り散りになってしまったのですが、まさかあんな綺麗な状態で残っているとは思いませんでした」


 確かに言われてみれば、強い魔力を感じる気がする。

 簡単に砕けてしまうのは、剣の頑丈さ云々ではなく僕の魔力が強すぎるから。

 このまま砕けさせておくのは勿体無いな、剣としては使えなかったとしても、象徴として使うことはできそうだし。


「リストア」


 僕が再び砕けた剣を治すと、ザガンの涙が止まり、瞳に光が戻る。

 今度は同じ展開を繰り返さないようにしないとね。


「おおぉ、やはりこの剣に宿った力が……」

「僕の魔力だ」

「う……し、しかし、だったらこの剣に宿った魔力は……」


 どうやらザガンは剣の力を使いこなせてないみたいだ。

 黒い刀身に呪文らしき物が刻まれてる所からして、持ち主の才能関係なしに、魔力を解放さえすれば力を発揮する類の剣だと思うんだけど。


「ほれ、貸してみな。すごい剣なのは間違いないから、使い方を教えてやろう」

「騙してわたしからうばうつもりでは……」

「無い、そんなものが無くたって僕は強いから。さっきの魔法を見たらわかるよね」

「ぐぬ……わ、わかった、じゃあ見せてみろ、まおーの力とやらを!」


 どうにもこの子、無理して強がってる節がある。

 いっそ魔王を目指すなんて無茶な願望から解放してやった方が、肩の荷が降りて楽になりそうだ。

 だったら――盛大に見せてやるしか無い、力の差ってやつをね。


 僕はザガンを連れて城の外に出ると、ダインスレイヴを構えた。

 手のひらから感じる強い魔力。

 それは剣自体が生きて脈動してるんじゃないかと錯覚すぐほどだ。

 僕には不要なものだけど、このまま剣の魔力を自らの魔力として使うこともできるんじゃないかな。

 そしてもちろん、剣に宿った魔力を使って、刀身に刻まれた魔法を発動させることも。


 意識を集中させ、剣に宿る魔力のコントロールを掌握する。

 ここは感覚の問題、魔法の発動とはちょっと違うコツが必要で、普段から自分の魔力を好き放題操ってる僕はあっさりとコツを掴むことが出来た。

 あとは呪文に魔力を流し込むだけ。

 刀身が熱量を帯び、”さあオレを使え”と言わんばかりに震えだす。

 この状態になったら――剣を、振るう!

 ザンッ!

 僕は空へ向かってダインスレイヴを振り上げた。

 剣先から強い殺傷力を持った衝撃波が放たれ、上空の雲へ向かって飛んでいく。

 高度を上昇させ、衝撃波が雲に触れた瞬間。

 ブワッ! と雲は吹き飛ばされ、曇天だった空は一瞬にして見事な晴天へと変わった。


「ほら、これがダインスレイヴ――君のお父さんの形見に宿った、本当の力だよ」


 剣を返すと、ザガンは目を輝かせながらそれを受け取る。

 この目つき、もう僕を倒そうだなんてバカなことは考えそうにない。

 これで一件落着……と思ったんだけど。


「ししょー……」


 どうやら話はもっとこじれそうだった。


「師匠とおよびしてもよろしいでしょうか!」

「いや、無理」

「だったら他になんとお呼びしたら!?」


 呼ばないでいいよ、って言ったらまた泣き出すんだろうなあ。

 僕が困り果てていると、グリムが近づいてきた。

 さすが気が利く魔導書、上手い具合にザガンを追い払う口実を考えてくれたに違いない。


「師匠ではありません、このお方は魔王さまですよ」

「そっか、まおーさまと呼べば弟子になれるんだな!」

「そうです、今後はそう呼んでください」

「グリム!?」


 まるでザガンを城に迎え入れるような態度を取るグリム。


「いいでは無いですか魔王さま、今は少しでも配下が欲しいところなのですから」

「だからって……」

「まおーさま、わたしは意外と役に立つぞ?」


 自分で意外と言っちゃってるあたり、不安しかない。

 けど、確かにグリムの言うとおり、今は一人でも配下が欲しいのは事実。

 彼女がダインスレイヴを扱えるようになれば、いざという時の力としても役に立つかもしれない。

 それに……どうもグリムには何か考えがあるみたいだ。

 豊富な知識を持つ彼女のことを、今回は信じてみてもいいかな。


「わかったよ、じゃあ今日からザガンは僕の配下だ」

「まおーさま、わたしがんばる! がんばるから……がんばったら、ダインスレイヴの使い方を教えてもらってもいいか?」

「もちろん、こっちとしても使いこなしてもらった方が助かるからね」

「やったー!」

「うわ、ちょっ!?」


 急に抱きつきかれて、僕はバランスを崩しかける。


「おや、温泉から上がってみたら楽しそうなことをしているな。私も混ぜろ」


 その後、僕はなぜか対抗心を露わにしたニーズヘッグに背中から抱きつかれ。


「何だか知りませんが蚊帳の外は嫌なので参戦しますっ!」


 さらにはグリムまで対抗して僕の顔に張り付き。


「ふしだらです、魔王さま」


 さらにさらに、偶然フェアリーのレモンが現れ、心にぐさっと刺さる一言を言われる羽目になるのだった。

 別に僕……何も悪いことしてないはずなんだけどな。






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