第九話「異世界と勇者」
目を覚ますと、そこはお花畑ではなくて大きな広間のようだ。修学旅行とかで見たことがあるような大広間だった。
おそらくここが俺らを召喚した王国の城の中なのだろう。シャンデリアなんかも高級感が溢れてる。
「おお! ようやく起きたか! この寝坊助野郎。異世界に召喚される時も寝れるのなんてお前ぐらいだな」
俺からしたらだいぶ久しぶりな気がする誠一が話しかけてきた。
「あぁ、女神から話は聞いてた時は俺もびびった。まさか異世界に行くなんて夢にも思ってなかったからな」
すると、周りに俺といつもつるんでる友人たちが集まってきた。俺と違って、なんの準備もしてきてないみんなは不安なのだろう。まぁぶっちゃけ準備してきた俺もこれから不安なのだが。
吉永なんて若干涙目だ。かわゆす。
それにくらべて、誠一や勝はいつも通りの感じだ。誠一が勝に絡んで勝はウザそうにしながらも話を聞いてる。
「ようやく起きたのね。まったく、緊張感がないわね」
そう言って話かけてきたのはクラスメイトの伊藤優香。俺に定期テストのたびに張り合おうとする自称ライバル。綺麗な顔立ちをしてるし、面倒見もいいのでクラスの姉御的存在。ちなみに学級委員長。
「俺、緊張しない体質だから。そこら辺は心配しなくていいぞ」
「もう!そうやってふざけてはぐらかす、いつも通りね」
なんか怒ってるけど気にしない。こいつが俺に厳しいのは今に始まったことじゃない。
「まったく。君はいつも優香を怒らすね。いい加減にふざけるのはやめたらどうだ? 八雲」
……来たよ。俺に対して厳しい人間パート2。イケメン野郎、小金井大翔。
俺の何が気に食わないのか知らんが、やけに俺に突っかかる奴。しかも、授業態度も人に対する愛想も運動神経も良くて、伊藤と一緒に副学級委員長を務める男だから手に負えない。大抵、俺が悪者扱いだ。
……まぁ、悪者ってのもあながち間違いじゃないけどね。授業サボるわ、授業中も寝るわ、部室を私物化するわ。……あれ? 俺が全部悪くね?
と、いうわけで俺は小金井に気に入られてないから風当たりが強い。ま、あんま気にしてないけどね。
俺らが雑談をしてると、大広間の舞台の上に誰かが登ってる。なんだろう、オーソドックスな王様の感じかな。顎に髭をたくわえて、威厳のある顔をしてる。
「まずは、自己紹介をしよう。我は第7代オルドリア王国国王、クライブ=オルドリアだ」
顔と同様に威厳のある声で自己紹介をしたクライブ王。カリスマを感じる声だ。よく通る、デカイ声をしてる。
「この世界に召喚された理由は既に女神ユリア様から説明を受けてると思うが、もう一度、王である我から頼みたい。異世界の勇者たちよ、どうかこの世界を魔王の魔の手から救ってくれ!」
ほーう。一国の王が頭を下げるか、祖父と孫の年の差ぐらいある子供たちに。なかなかできることではないだろう。いや、こういうことに詳しくない俺が言うのもなんだけど。
すると、案の定我らが副委員長が自信満々の顔で、
「任せてください。国王様。魔王は必ずや私達が倒してみせましょう。それでいいな!? みんな?」
おお! と問いかけられたクラスメイトは声をあげる。ユリアからなにを言われたか知らんがやけにやる気満々だな、あいつ。まぁ元から正義感が強い奴だから困ってる人を見過ごせられないのかもしれない。
すごいのはあいつがやる気を出すとクラスメイトみんなのやる気も高まることだ。そういうところは割と尊敬してる。
おそらくは勇者の称号を所持してるのは小金井だろう。俺達の中で一番勇者っぽいもん。
俺は小金井と愉快な仲間たちに魔王討伐を任してのんびり異世界スローライフでもおくりたいね。
「おお! 引き受けてくれるのか。ありがたい。それでは、勇者たちよ、お主らの力を確認していくので、『ステータス』と念じてくれ。ステータスがでるはずじゃ」
『ステータス』
《八雲空悟》
種族:人間
性別:男
職業:錬金術師
年齢:17
レベル:1
攻撃力:20
防御力:27
俊敏力:30
魔攻力:25
魔防力:15
運:200
《魔法》
空間魔法Lv.3、火魔法Lv.2、水魔法Lv.1、風魔法Lv.1、土魔法Lv.2、光魔法Lv.1、闇魔法Lv.1、雷魔法Lv.2、無魔法Lv.2
《スキル》
睡眠Lv.4、適性全開放、錬金Lv.3、格闘Lv.3、隠蔽Lv.2
《称号》
女神の加護、異世界より呼び出された者
あり? なんか知らんスキルが増えてる。なんだ隠蔽って。
【隠蔽】:自らのステータスを隠すことが可能。隠蔽スキルよりレベルが上の鑑定スキルを使われると見破られる。
これが、ユリアが言ってたオマケか? なかなかいいスキルをプレゼントしてくれたじゃないですか。
それと、称号が増えてるな。
【女神の加護】:女神より力を与えられたものに送られる称号。成長スピードプラスの効果。
【異世界より呼び出された者】:時空を越えて異世界に呼びたされたものに送られる称号。異世界の言語を理解できるようになる。
おお。いい称号を与えられた。ありがとうユリア様〜
と、1人でステータスに感心してるとなんか騒がしい声が聞こえた。どうやら、勇者の称号を持つものが見つかったようだ。
ま、俺の予想通り小金井だったわけだが。
案の定小金井は興奮した様子で勇者として頑張ると意気込んでるようだ。それでいい。俺がスローライフをおくるためにも小金井には頑張って欲しい。
「おー。小金井、頑張れよ。勇者であるお前にこの世界の平和はかかってるんだからな」
柄にもなく激励の言葉を小金井に送ると、嬉しそうな顔で
「あぁ。任せろ! この世界を救おう!!!」
……やっぱこいつとは気が合いそうにない。