第二話「異世界に行く前に」
HRはいつも寝てる。そして隣の席の勝に起こしてもらう。いつも通りのことだった。だが、今日ばかりは違ったようだ。起こしてくれたのは勝ではなく、よくわからん美女だった。
「…ようやく起きましたね。この空間でここまでリラックスしたのはあなたがはじめてですよ」
なんか呆れられてるんだけど。…しかし、ここはどこだ?
今、俺はお花畑にいる。お花超いい匂いで蝶々も飛んでる。…ちょっとよくわからない状況だからパニクりそう。
「ここはあなたがいた世界とこれから召喚される異世界の狭間にある空間です。」
…もう限界。頭パニックになった。寝るわ。
「ちょっ! ちょっと待ってください! 寝ないでください‼︎ 」
「や、無理無理。なに言ってるのかわけわからん。異世界ってなんだよ。召喚ってなによ。俺はなんでここにいるんだよ」
「わ、わかりました。一から説明するので寝るのだけはやめてください…」
しょうがない、美女にそこまでお願いされたら寝るのはやめよう。けど、この美女の格好ってなんだろう…まるで、女神みたいな…
「私の名はユリア、あなたの世界で言うところの女神という存在です」
ビンゴかよ。
「あなたの住んでいた世界とは違う世界、そこにあなたのことを送るために私はこの空間をつくりました。向こうの世界では魔王という存在がいます。それをあなたに倒して欲しいのです」
なるほど。だんだん落ち着いてきたから理解できるぞ。
「そういえば、俺は教室にいたはずだが他のクラスメイトはどうなったんだ?」
「あなた以外の方々は先に私からの説明を終えて転移を完了しています。残ったのはあなただけです。」
マジか。…しかし、魔王か。そんなやつ倒せるのか。ちょっとこづかれたら死ぬ自信があるぞ。
「魔王を倒すために召喚されると言ってたけど、俺みたいな一般人がなにを出来るんだ?」
「その点は心配いりません。異世界に召喚されるにあたって特殊な能力が得られます。『ステータス』と念じてみてください」
『ステータス』
《八雲空悟》
種族:人間
性別:男
職業:錬金術士
年齢:17
レベル:1
攻撃力:15
防御力:20
俊敏力:25
魔攻力:10
魔防力:10
運:200
《魔法》
空間魔法
《スキル》
錬金、睡眠
「それがあなたのステータスです。…ちょっと私にも見せてください。どれどれ…」
あっ。いい匂いがする。さすが女神。匂いまで完璧である。
「ステータスによるとあなたの職業は錬金術士ですね。戦闘には向いてませんが、便利な職業です。そして、気になるのが…運の値とスキルですね」
「何かおかしいところがあったのか?」
「はい。本来、運の値は高くても100を超えるか超えないかのあたりです。しかし、あなたの値は高すぎます。そして、この【睡眠】というスキル、初めて見ました」
【睡眠】:睡眠時に心身の回復効率が上がる。また、身体、ステータスの成長率上昇。寝る子は育つ。
「まぁ昔から運は良かったし、よく寝てるから妥当なスキルじゃないの?」
「うーん。まぁ、いいでしょう。それでは、これから大事な話をします」
む。なんだ大事な話とは。
「異世界に行くにあたり、女神である私から魔法、もしくはスキルのプレゼントです。一覧から選んでください」
すると、目の前に文字がならんだプレートが現れた。この中から選ぶのか。
たっぷり10分は悩んでようやく決定した。
闇魔法とか、刀剣スキルとか、心踊るものもあったが俺が選んだのは…
「じゃあ、適性全解放のスキルで」
「そ、それで良いのですか? もっと他にいい魔法やスキルがあると思うんですが…」
「いや、これでいい。どうせ異世界行くんなら色んなものを会得したいからな。それに俺は器用貧乏キャラが好きだしな」
「そうですか…それでは、スキルも決まったことですし異世界へお送りします。とある国に召喚されてますので、そのつもりでお願いします」
もう送られるのか。この空間居心地いいからもっといたいなー…いいこと思いついた!
「あーひとつだけ頼みを聞いてくれるか?」
「なんでしょうか? 私に出来ることなら是非」
じゃあ、遠慮なく。
「もう少しだけこの空間にいてもいいか? 魔法の練習をしたい」
「…ちょっと驚きました。今までにこんなこと言ってくる人はいませんでしたよ。こちらとしては構いませんが、せいぜい6日程度が限界です。それ以上はこの空間を維持できません」
よっしゃ、6日もあれば充分だ。これで向こうの世界に行っても準備はバッチリだな。